東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

美味しい暮らし #4月編

はじめに

5月も半ばになり、新緑の緑が日を追うごとに濃くなっていくように感じます。苺が安くなってきて、春ももう終わりに近づいていることを感じる今日この頃。去年はブランデーと蜂蜜でいちごのコンポートを作りましたが、今年は自家製のラベンダーブランデーで煮込んでみようかと思案中です。季節の果実の瓶詰めが台所にあるだけで、なんとなく気持ちが晴れやかになる気がします。

外で食べたもの・取り寄せたものあれこれ

銀座 トリコロール本店

f:id:lesliens225:20210511225345j:plain

銀座で用事を済ませてから本を読もうと久しぶりにトリコロールへ。くるりと回転扉を回して中に入ると違う世界へ来たかのような、このクラシカルで歴史と装いが同居している雰囲気がとても好きです。2階席は席と席の感覚も広く、新聞を読む人や本を読む人がほとんど。街の喧騒から遠く離れて静かに過ごせる隠れ家のような喫茶店
この日はゆっくりするつもりだったのと、お腹が減っていたのでエクレアを頼みました。ギャルソンが小気味よくテーブルセッティングをしてくれる所作は健在で、一部の隙もなく惚れ惚れします。銀座の資生堂パーラーや和光でも同様の経験をしたことがあったけれど、このギャルソンスタイルは銀座の文化なのでしょうか。いずれも「銀座はちょっと気取って歩くもの」という街の文化をお店を通じて受け取るようで、その意気地が好ましい。過去にもそんな思いでここに足を運んだお嬢さんたちがきっといたのでしょう。

横須賀海軍カリーパン

f:id:lesliens225:20210512082935j:plain

週末、ドライブに誘われたものの残業続きで疲れていたので助手席で寝かせてもらうことに。そのまましばらく寝入っていて、気がつくとフェリーの中にいました。神奈川の久里浜から千葉の金谷まで、東京湾を横断するフェリー。「どこかいくんだっけ」と夫に言うと「ただフェリーに乗りたくてさ。旅情があるじゃない」と笑って返されました。

f:id:lesliens225:20210512082939j:plain

この日は暖かい陽気だったので、しばらくデッキにあるベンチに腰掛けながらずっと本を読んでいました。読んでいたのは確か「刑務所図書館の人々」だったかな。

f:id:lesliens225:20210512082943j:plain

しばらくしてから船内に戻ると夫から手渡されたカリーパン。もともとカレーパンの良さがあまりよくわかっていなかった私が美味しいと思えるようになったきっかけがここのカリーパンでした。

f:id:lesliens225:20210512082947j:plain

光を受けて輝くカレーパン…この丸いフォルムがなんともいとしい。

f:id:lesliens225:20210512082951j:plain

外側はザクザク、中のカレーはピリ辛でほの甘い生地との相性がいい。確か夫と付き合って最初の頃のデートでもこのフェリーに乗って、同じようにカリーパンを手渡されたのでした。当時はある種の偏食で「食べてはいけないもの」と思っていたそれを食べたとき、美味しいものを味わう自由を手に入れたような気がしたのを覚えています。
夫と出会ってから今日まで、自分の人生に好きなものが増えていくばかり。デッキに出て、潮風を受けながらぴかぴかにかがやくカリーパンを食べると、心にひかりが灯る気がしました。

金谷 香豆珈琲

f:id:lesliens225:20210512084243j:plain

フェリーで千葉へ渡ったのと同じ日に、ちょうど館山にずっといってみたいと思っていたカフェがあったことを思い出して夫に連れていってもらうことに。駐車場に車を停めてお店に向かう途中、ウリ坊が畑を掘り返そうとしているのを目撃したので、驚かさないように忍び足で駆け抜けました。

f:id:lesliens225:20210512084301j:plain

暖かい光に迎えられてお店に入ると、ウッディ調の店内にアンティークの調度品が置かれていて、不思議と落ち着きます。まるでなんども来ているお店みたい。

f:id:lesliens225:20210512084257j:plain

案内されてカウンターの前に座ることに。私は深煎りのコーヒーにナッツのケーキ、夫はブレンドにプリンをお願いしました。

f:id:lesliens225:20210512084248j:plain

コーヒーを淹れてもらう間、お店を散策していると薪ストーブがあることを発見。思わず「今日は点ける予定があるんですか?」と聞くと、せっかくなのでということで火を点けてくれました。パチパチと薪が爆ぜる音と、美味しそうなコーヒーの匂いに心がくつろぎます。

f:id:lesliens225:20210512084305j:plain

温度が上がってきて綺麗。ゆらめく炎は見ていて飽きません。

f:id:lesliens225:20210512084223j:plain

そうこうしているうちにコーヒーとおやつが運ばれてきました。見て欲しい、この美しい鋭角のプリンを…夫が「ひとくち食べてみる?」と言うので喜んでいただきました。見た目以上にすっごく美味しくて、むちむちのプリンにカラメルのカリッとした食感がアクセントとなっていて、どことなくクリームブリュレを彷彿とさせる。ビターなカラメルもコーヒーとの相性が抜群でした。

f:id:lesliens225:20210512084238j:plain

私が頼んだナッツのケーキはキャラメリゼされたナッツとブラウニーと言う魅惑の組み合わせ。深煎りのコーヒーによく合いました。一緒に付いているヨーグルトソースとの相性も良くて、思いがけない組み合わせに愉快な気持ち。丁寧なネルドリップで抽出されたトロッとした舌触りのコーヒーは、深みと香ばしさとナッツのような風味が美味しくて、酸味のあるコーヒーが苦手な私にはドンピシャでした。
聞けばマスターがここにこのカフェを開業されたのは令和元年に起こった房総半島台風の直前で、当時は大変だったとのこと。
「あの時まだ暑くて、でも水も電気も止まっちゃってたでしょう。だからここにある非常用の自家発電機を使って氷を作ってね、公民館に持っていったりして」
「そのうち近所の人がアイスコーヒーもらいにきたよ!って来たりして。そんなことがありましたね」
その後Instagramでお店の存在が広まり、気がつけばひっきりなしに人が訪れるようになったお店。しかしマスターのお店への姿勢は変わらないと言う。
「ここ、ゆったりできて本当にいい雰囲気ですね。東京のお店だと時間制だったり、店員さんが急いでいたりして、逆に時間を気にして気疲れてしまうこともあって」
「ありがとうございます。うちもInstagramで知られるようになってからお店に人が並ぶことが多くなりましたね。そんな時はいつお呼びできるかわからないですけど、それでもよかったらって言って待ってもらうんです。くつろいでいる人を急かしたくないし、僕もゆっくりお話ししたいですし」
「そうなんですね」
「ええ、でも地元の人は混むってわかってからはみんな朝来るようになりましたね。そんな中でも、やっぱりゆっくりしてもらえるように遠方から来た人でも待ってもらっています」
「でも待たせるって勇気のいることじゃないですか?」
「うん、でもそれは僕のやりたいお店じゃないのでね。帰ってしまう人もいるけれど、しょうがないです」

f:id:lesliens225:20210512084311j:plain

すっかり長居をしてしまい、お店を出るととっぷりと日が暮れていました。とてもいいお店だった。マスターにお礼を言ってお店を後にして、また必ず金谷の方面に来たらここに訪れよう、その時はタルトタタンを食べようなどと思ったのでした。

御徒町 ぽん多本家

f:id:lesliens225:20210512020919j:plain

突如として夫が「とんかつを食べに行こう」と言いだした夕方。胃弱な私は普段なら断るか、行っても別のご飯を食べるのが常なのですが、この日は運よく調子が良かったので喜んでついていきました。とんかつをがっつり食べられるコンディションなんて何年ぶりだろう?ただただ嬉しい!
そんなわけでこの好機を逃すまいと、この日はぽん多に行くこと決めました。東京にはいくつかとんかつの名店があるけれど、私は近所の定食屋さんとここが特別に好き。重いドアを開けるとすぐ調理場が見えるのも、いなせな雰囲気が漂う料理人さんたちも、磨き上げられた年季の入ったテーブルも、何もかもがいい。
この日は調子に乗って、ちゃっかりビールまで飲んで満足しました。久しぶりのトンカツ、とっても美味しかった〜!黄金色の衣も、こんもりと盛られたキャベツも大好き。この時勢でお店を畳むとんかつ屋さんも多い中、こうしてこの味を当たり前のように楽しめる仕合わせを噛みしめました。
「ごちそう様です、美味しかったです!」と元気よく伝えて「またぜひどうぞ!」との声を背にお店を後に。とんかつの機運が高まっているときはすぐ飛び込むべきだという教訓を得た一日でした。

銀座三越 たねや

f:id:lesliens225:20210511225730j:plain

大好きなたねやの桜餅。桜餅は道明寺派、という話をしたのはもう去年のことでしょうか。季節の和菓子をいただくとき、ふっと思い出す人がいます。去年の梅雨開けから見かけなくなりましたが、元気でいてくれたらいい。いつかまたどこかで会えたら嬉しく思います。
你好嗎?祝你一路平安。

用賀 パティスリーリョウラ

f:id:lesliens225:20210512012356j:plain

世田谷美術館の帰りにRyouraでピスタチオのケーキを買って帰った日。夫に「あなたはこれでしょう」と言われて一瞬天邪鬼な気持ちになったものの、食べたかったので結局素直にピスタチオのケーキにしました。寝ても覚めてもピスタチオのものばかり選んでしまう。
そういえばピスタチオグリーンの瞳が美しい、うさぎにも似たあの子のお誕生日もこのあたりだったような。身体いっぱいにいのちを輝かせて生きるあなたを見て何度癒されたことでしょう。これからも健やかに生きていくことを願っています。

 新緑の時期が一等美しいカフェ

f:id:lesliens225:20210514154200j:plain

毎年この時期になると、必ずひとりで訪れるカフェに今年も足を運びました。1歩入ると目の前に現れる天国に言葉を失い、流れる水音をしばし聴きながらその場に佇む幸せ。コーヒーをちびりちびりと飲みながら本を読み、時々目が疲れたら窓の外の新緑を眺めてひたすらボーッとすることができる夢のような場所。近くの公園では子供達がはしゃいでいて、かつてここに住んでいた人の生涯を思えばこの長閑さに彼も慰められるだろうと思いました。東京にこうした場所があることに、どんなに救われる想いでいることか。来年の新緑の時期も変わらず訪れられることを願っています。

作ってもらったもの

山菜の天ぷら

f:id:lesliens225:20210512022459j:plain

4月は私が完全にダウンしたので記録に残っているのは夫が作ってくれた山菜の天ぷらのみ。こんな状況でなければ出羽屋に泊まって山菜づくしのご飯を食べたりしたかったなぁとさめざめ泣いていたら夫が揚げてくれました。たらの芽の天ぷらに春の息吹を感じ、束の間幸せな気持ちに。
そういえば私は東北の生まれ育ちで、毎年この時期は山菜を食べないと気が済まないのですが、聞けば西の人はあまり山菜を食べないのだそう。先日四国出身の方から聞いて驚きました。「これを食べると春を感じるもの」が地域ごとに違う可能性なんて考えたこともなかったな。西の人は何を食べて春を感じるのでしょう。

写真に残っていないけれど美味しかったもの

和久傳 れんこん菓子 西湖

毎年桜が散りはじめ、新緑の足音が近づいてくるこの時期になると、冬眠から目覚めた熊のごとく笹に包まれた菓子が恋しくなります。熊は冬眠から目覚めると山菜を食べて身体を春の山に慣らしていくといいますから、人間も喰らうところの生き物として何か青いものを歯みたいという欲があるのかもしれません。
和久傳の西湖はそんな気分にぴったりの、青々とした笹に包まれたお菓子です。出会いは去年、お歳暮としていただいた時のこと。ひとつひとつ端正に包まれた、その慎ましやかな出で立ちに一瞬で心を奪われました。そっと笹の包みを解くとふわっと瑞々しい香りが弾け、その甘露な味わいにうっとり。つるりとした喉越し、沁み入るような甘さはどのお菓子にも代え難く、今日は何も食べられないと思っていてもこのお菓子なら食べられるほど。
そんなことを想い出して、今年は新宿の伊勢丹へ求めに行きました。お気に入りの麩まんじゅうと新入りのれんこん餅。このふたつが待っているなら、次の春まで生きることも苦ではありません。

ショコラティエ・エリカ マ・ボンヌミニ

今年のバレンタインにいただいた可愛らしいチョコレート。ティファニーブルーにも似た色の小さな箱につやつやのリボンがかけられた、なんとも可憐な見た目に胸がときめきます。チョコレートの中にはマシュマロとくるみが入っていて、豊かな三重奏の食感と穏やかな甘さにほっとします。特にちょっと一息つきたいという時に、カルダモンやシナモンの入ったストレートのチャイと併せていただくのが好きでした。うすくスライスしただけでもだいぶ食べ出があるので、残ったチョコレートはラップに包んで毎日のお楽しみに。こうして日々の楽しみになるようなものを贈ることができる人に、私もなりたいものです。

今月のおまけ

Walk in the park 

4月は花ざかりということもあって、お気に入りの公園へ散歩に行きました。マスクをつけて、水筒にはストレートのチャイを入れて。毎年この時期になるとJarrod LawsonのWalk in the parkが聴きたくなります。

youtu.be

↑探したらLive動画があって聴き入ってしまった。原曲よりファンク寄りで味わい深い。

千鳥ヶ淵

人がいない時間を狙い、朝5時に起きて千鳥ヶ淵へ。ちょうど桜が見頃でうれしかったです。

f:id:lesliens225:20210512014718j:plain

千鳥ヶ淵ソメイヨシノは心なしか色が薄く、ぽんぽんと咲いている花がポップコーンのように見えました。毎年桜の季節が巡ってくると梶井基次郎の「櫻の樹の下には」を思い出します。そういえば京都の丸善はもう無くなってしまったんだったなぁ。

f:id:lesliens225:20210512014706j:plain

水辺の近くのソメイヨシノはいつもより儚さが増して見えるから不思議。水が欲しいのか、自重に負けてか、今にも水面に着水しそうな花たちよ。
f:id:lesliens225:20210512014712j:plain

途中桜の下をスーイと抜けていったカイツブリ。水鳥の視点で眺める桜はさぞ爛漫なことでしょう。

f:id:lesliens225:20210512014702j:plain

千鳥ヶ淵といえば桜が有名ですが、個人的に好きなのがお堀の隅に群生している一面の菜の花畑。映画のビッグフィッシュのワンシーンを彷彿とさせる黄色の絨毯に、時折混じる白い菜の花がきらめく星のようで風情がある。

f:id:lesliens225:20210512014730j:plain

対岸に咲いていた小さな白い花も素敵だった。一体なんの花なのだろう。

f:id:lesliens225:20210512014724j:plain

人間の事情なぞつゆ知らず、季節のこととして当然のように花を咲かせる桜を見ると、心が落ち着くようでした。真っ盛りの桜並木の下、来年はマスクを外して見上げることができるのだろうかと思いながら。


小さな公園 

別の日には毎年訪れることを楽しみにしているちいさな公園へ。暖かい陽気だったので、レジャーマットと本を持って、途中お腹が減ってもいいように小さいおにぎりも作っていきました。

f:id:lesliens225:20210512012505j:plain
入り口近くに咲いていた、星のような花の群生。まるで天の川みたい。蜜蜂が花の蜜を吸っている健気な姿に、ずっと足を止めて魅入ってしまう。

f:id:lesliens225:20210512012509j:plain

藤の花もほぼ満開。立派な藤棚も見応えがあるけれど、人間の作為が施されずありのままに咲いている藤もまた風情があっていい。

f:id:lesliens225:20210512012517j:plain

ここはすでにソメイヨシノの花が落ちて葉の間からは実が生っていました。この時期の桜が一等好きだな、花の時期は妙に気持ちが急いてしまっていけない。

f:id:lesliens225:20210512012532j:plain

小手鞠もふくふくと花を咲かせていて可愛らしい。ひかりを受けて輝く部分も、ひっそりと影で咲く部分も、それぞれがコントラストとなっていて綺麗だ。

f:id:lesliens225:20210512012536j:plain

八重桜はちょうど見頃でした。ソメイヨシノも良いけれど、私はやっぱりこの桜餅みたいな色合いとパニエを仕込んだスカートのような豊かなフリルの八重桜が好き。来年こそは故郷の桜を見れますように。


終わりに

制約はありながらも自由に生活している時に、ひっそりと亡くなったスリランカ人の女性のことを思い出しては自分には何ができるのか考えていた4月でした。あれ以来スリランカのレストランには行くことができておらず「もっとスリランカの料理を知りたいなぁ」などと呑気にしていた自分が生きていた時に彼女がされていた仕打ちを考えると胸が詰まります。それでも知らないよりはいい。せめて自分がそう願っていないとしても、現実は誰かを搾取して生きる、日本の社会構造では特権的な立場の人間であることは忘れずにいたいと考える今日この頃です。

 

過去の記録はこちらから

lesliens225.hatenablog.com

lesliens225.hatenablog.com