東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

美味しい暮らし #5月編

はじめに

今年も残り半分折り返し。思うことがあり、少し間が空きましたが5月に食べたものを振り返ります。

 

外で食べたものあれこれ

 VANER

f:id:lesliens225:20210602234914j:plain

 去年の自粛要請期間中に自転車を買い、以来週末はたまにサイクリングに行くのが習慣となっている。都内を自転車で移動していると、街の様相をつぶさに見ることができて楽しい。電車移動では見逃していたであろう素朴なベイクショップ、ずっと街で愛されているであろう年季の入った和菓子屋さん、こぢんまりとして使い勝手が良さそうなイタリアン。風を切って自転車を走らせると、東京という街はコンパクトな都市の集合体であることを改めて実感する。
この日は以前から気になっていたサワードゥというハード系のパンを買いに行くついでに谷根千のあたりを回ることにした。お店は谷中の「上野桜木あたり」という古民家群を改修してできた複合施設の一角にあり、北欧のベーカリーで修行された職人さんがパンを焼いている。ちょうど4月に『A子さんの恋人』を読み終わったところだったので、登場人物が暮らす街の雰囲気が味わえて嬉しかった。

お店に着くと、ちょうどシナモンロールが焼きたてだというので、中でいただいていくことにする。店内に充満するコーヒーのいい香りにつられてカフェラテも一緒に。お店は2階部分がイートインスペースになっていて、こぢんまりとした和室に小さなテーブルと椅子が備え付けられている。窓の外には庭に生えている大きな木と隣の古民家が見え、その間を雀がせわしく飛び回っていた。時折風が吹き抜けては窓枠をカタカタと鳴らしていく。焼きたてのスパイスがきらめくパンは自転車を漕いでくたびれた身体に染みて心地よかった。思いがけず素敵な朝ごはんの時間を過ごせる場所を見つけて嬉しく思う。

ふとカフェラテを飲みながら顔を上げると、隣の部屋の窓から女の子が雀を見ていることに気付いた。目があったので手を振ると隠れてしまい、余計なことをしたかなと思っていると、またひょっこり顔を出して手を振り返してくれた。気を使わせてしまったなと反省しつつ下に降りようとすると、さっきの女の子がいたので「さっきは驚かせてごめんなさい」と声をかけて少し話をした。ここの施設のお店で彼女の母親は働いているらしい。「お母さんはケーキを焼くのが上手なんです」というので「いいなぁ」というと少し誇らしげな様子だった。ちなみにお父さんは焼きそばを焼くのが得意なんだという。小さいながらに一生懸命会話をしてくれる様子が可愛くてつい長居してしまったので「たくさん相手をしてくれてありがとう」と言って別れを告げた。

うどん 慎 

f:id:lesliens225:20210602234843j:plain

伊勢丹に行き結婚式の準備を済ませたあと、お昼ご飯を食べ損ねたので気になっていたここへ。口コミには行列必須と書いてあったけれど、この日は正午もとうに過ぎていたので待たずに入れた。うどんは打ちたて・茹でたてをうたうだけあって、都内で食べたうどんの中で一番つるっとしている印象。喉越しが異様に良くて、思わず何度か吸い込み過ぎてむせてしまった。やけに暑い日だったので、ひんやりとした麺が心地よい。調子に乗って天ぷらをつけたものの、案の定これは食べきれなかったので、その分は泣く泣く夫へ手伝ってもらった。どれもカラッと揚がっていて、胃が許せば全部食べたかったな。

f:id:lesliens225:20210602234853j:plain

食べ終わって目の前の棚を見ると、お酒の瓶に混じってキムワイプが置いてあったので思わず写真に収めた。野生のキムワイプが間違って飲食店に迷い込んでしまったみたいで可愛い。飲食店でキムワイプを見かけると思わなかったので思わず夫にも教えると「拭き掃除で使うのかもね」とのことだった。

久しぶりに美味しいうどんを食べて、東京で生活する中で見つけ、頼りにしてきた数々のうどんやさんを思い出した日。くつろいでうどんやお酒が楽しめる根津の釜竹、くたびれた時に飛び込んで澄み切った出汁を啜りたくなる神保町の丸香、カレーうどんの美味しさに目覚めたきっかけになった神田の香川一福。身辺のことが落ち着いたら、久しぶりにまた懐かしい味を訪ねたい。

 

 鉄道博物館 トレインレストラン 日本食

f:id:lesliens225:20210709165415j:plain

週末は夫と鉄道博物館へ。大人になってからの方が、こうした施設に行くのが楽しいと思う。航空博物館や船の博物館も行ったことがあるけれど、予算規模のせいか鉄道博物館が一番作りが凝っていてかつ展示も潤沢だった。旧国鉄といえば労働組合の印象が強いので、そういった資料も展示すれば良いのにとは思う。

会場は3階建なのだけれど、どのフロアもみっちりも説明書きがあるので途中で読み疲れて2階にあるレストランで休憩することに。キッズ向けのレストランは人が比較的多かったけれど、このレストランは私たちふたりだけの貸切だった。レトロな佇まいのアイスクリームが可愛らしく、映画の「この世界の片隅に」で見たアイスクリンを思い出す。店内は昔の食堂車を模した作りとなっていて雰囲気があり、つかの間の小旅行をしていたようで楽しかった。

お店を出たあと、途中ひとりで誰かを探すそぶりを見せる男の子がいたので、気になって話しかけると迷子とのこと。近くにいた係員の女性に経緯を説明して後をお願いしたが、そのあと無事に両親と会えたのだろうか。彼の目線に合わせてしゃがんで話をしていたのだが、その間ずっと泣かずに説明ができて感心した。利発そうな子供だったし、きっと好奇心が優ってはぐれてしまったのだろう。どうかそれを怒らないでほしいと願う。


ジェラテリア アクオリーナ 

f:id:lesliens225:20210602234924j:plain

この季節のお楽しみ、アクオリーナのピスタチオソフトクリーム。アクオリーナのジェラートは味が重層的で、自分から能動的に美味しさを探しにいくタイプのものが多いけれど、ソフトクリームはそれとは逆にわかりやすい味を提供しているように思う。

3度目の自粛要請期間に入り、夜にふらっと飲みに行くことは叶わなくなって落ち込んでいた時、このあたりに住む友人が「やってられんと思ったら、夜にアクオリーナのアルコール入りのジェラートを食べに行くの」と言っていて、なるほどそういう手があったのかと感心した。次の月曜から4度目の自粛要請期間に入るけれど、気持ちが荒んだら(もはや荒みを通り越して呆れてばかりいるが)真似てみてもいいかもしれない。

 

Hommage

f:id:lesliens225:20210709165936j:plain

ちょっとした祝い事があったので浅草のオマージュへ。ベーシックなフレンチを土台にシェフのセンスが存分に活かされていて、一皿ごとに驚きがある楽しい席だった。デザートにリオレというお米を使ったひと皿があり、日本人にはウケが悪そうなものを果敢に攻めていたのも好印象。写真の人形焼を模したフィナンシェの演出には私も夫も微笑んでしまった。食べきれない焼き菓子は包んでもらったのだが、その佇まいの可愛らしさになかなか手がつけられなかった。

しかしワインが飲めないフレンチはあまりにも…あまりにも…と思い、思わず「ワインが飲みたい…」と言うと、側にいたギャルソンが聞いていたらしく「私共も今まさに飲み頃のワインを目の前にしながら、お客様に提供できないのは胸が痛みますね」とおっしゃっていて、なんとも遣る瀬無い思いだった。

この日の店内の客層は比較的若めで、女性同士やひとりで楽しんでいる人もいた。店内の装飾は最小限で、比較的カジュアルで居心地の良い空間だったので、肩肘張らずフレンチを楽しみたいシーンに使えるお店だと思う。

 作った料理あれこれ

 いちごのミニパルフェ

f:id:lesliens225:20210602235101j:plain

 今年もスーパーにはいちごが驚くほど安く並んでいて、その背景を思うと胸が痛む。せめて農家さんの助けになればといちごをどっさり買い込み、ラヴェンダーのブランデーと一緒に煮込んでコンポートを作った。

休日の朝、せっかく作ったのだからとギリシャヨーグルトと合わせていちごのミニパルフェを作る。ヨーグルトの乳白色にいちごのコンポートが混じり合って生まれる桃色に胸がときめき、それだけでいい一日になるように思えた。

レタスと卵の炒め物

f:id:lesliens225:20210602235104j:plain

献立に困ったら適当に卵と野菜を炒めることにハマった1ヶ月。ニラ玉、トマ玉、レタス玉をだいたい繰り返していたように思う。春は特に野菜の味が濃いので、卵と塩と一緒に炒めるだけでご馳走になる。月の後半になる頃には、卵の火入れが完璧にできるようになっていて誇らしかった。仕事でうまくいかないことがあっても、卵をうまく扱うことができれば自分への信頼は損なわれない。

卵といえば村上春樹エルサレムで行なった授賞式でのスピーチが記憶に新しい。卵を割る時、いつも私の脳裏に彼のスピーチが過ぎる。全文を載せているブログを見つけたので、ぜひ読んでみてほしい。

https://ameblo.jp/fwic7889/entry-10210795708.html

 

今月のおまけ

滝を見に行く

f:id:lesliens225:20210711094917j:plain

新緑の時期は必ず水辺に行きたくなる。夫と二人でドライブをして、ただ滝だけを見て帰ってきた。こんな風にドライブをして自然と触れ合い、そしてどこにも立ち寄らずに帰る、ということを繰り返してもう1年近くになるだろうか。会いたい人にも会えず、先の約束ばかり増えていく。

それでも、水辺を見ているといっときだけ心が慰められるような気がした。家から持ってきた塩むすびを頬張りつつ、夫に「人生にはアホみたいな量の水とデカい岩と緑さえあればいい…」と言うとめちゃくちゃ笑ってもらえたのでよかった。将来は海の近くに住みたい。

音楽を聴きにいく

open.spotify.com

5月は良いミュージックバーを見つけたので足しげく通っていた月でもあった。面白いお酒やノンアルコールカクテル、そして美味しいコーヒーがあり、店には店主の選んだレコードからジャズが静かに流れている。月光茶房が好きだった人には静かに勧めたい。完璧に一致するわけではないけれど、おそらく通じるものがあるのではないかと思う。都内にこうして腰掛けられる場所がまた見つかったことが嬉しい。

そういえば東京に上京した頃、名曲喫茶ライオンで過ごす時間が好きだった。店員さんと親しくなっていくつか良いクラシックを教えてもらった日々が懐かしい。そこから派生して、高橋悠治氏のゴルトベルクを聞いたのはいい思い出だ。今の私はそうした思い出に生かされているようにも思う。

終わりに 

 飲食店を始め、生産者や卸売り業にもいまだに負の影響を与え続けている自粛要請。彼らが十分な補償を受けられないまま協力していることにあぐらをかき、エビデンス無しにただ締め付けを行う今の内閣府のやり方にはいくら怒っても足りない。

去年から貧困世帯のボランティアに行って久しいが、その中でもよく目にするのは元飲食店の従業員だ。もともと飲食業は、人件費を削減するため非正規雇用の労働者が多い。それが自粛要請に伴う営業利益の低下、営業時間の削減に伴って、真っ先に労働市場から締め出されている。この一年で起きたのは、そういうことだ。

Instagramではいつか行きたいと思っているお店のシェフを何人かフォローしていたが「これをチャンスだと思いたい」「生き残れるかどうかは自分次第」と言っている姿を今でもよく見かける。自分に発破をかけないといけない厳しい状況であったことを理解しつつも、この問題が個人の能力に収束していかないことをただただ願う。生き残れないのは、決してその人の能力のせいではないのだから。

 

 過去の記録はこちらから

lesliens225.hatenablog.com

lesliens225.hatenablog.com