東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

紅茶とクレーム・ブリュレを味わい、新緑にまみれる幸せ 鎌倉「Cafe In The Woods」

一年の中で五月がいちばん好きだ。つやつやとした若葉が芽を出し、緑陰の間を抜けてゆく風は、涼やかな薫りをまとっている。遠くの山を眺めると、まだ稜線にはうっすらと雪が残っていて、緑の裾野との対比が鮮やかだ。水張りを終えた田んぼにはそれらの景色が映っていて、遠くではカッコウの鳴き声が聞こえる。

普段、カフェ巡りというものはあまりしないけれど、思い返せばこの時期だけは、せっせと足を運んでいるように思う。新緑の時期しか出会えない光景。そんな景色を眺めながらあたたかい飲み物を飲んでいると、身体のすみずみまでぴかぴかに目覚めるような気がする。そんな場所をひとつかふたつ知っているだけで、都会暮らしでも季節を愛でる心を失わずにいられるように思う。

この日はゴールデンウィークの最終日。ずっと行ってみたかったカフェへ、念願叶ってやっと訪れることができた。お店の名前はカフェ・イン・ザ・ウッズ。鎌倉の静閑な住宅街の中にあり、緑豊かな場所にたたずむロッジ調の建物が印象的だ。

ドアを開けてお店の中に入ると、外観とは裏腹にモダンな内装が出迎えてくれた。洗練された作りながら、インテリアや植栽に持ち主のセンスが感じられて、どこか親しみやすさがある。榛野なな恵Papa told me」や深見じゅん「悪女」に登場するような、自立していて好みがはっきりしている、素敵な女の人が住んでいそうだ。ドキドキしながら消毒液に手をかざし、お店の奥へと進んでいく。

そのままステップを上がって奥へと進むと、開放感にあふれたカフェ・スペースが現れた。なんて素敵なんだろう!ウッド調ながら、窓の配置や家具の置き方などから、ほっこりとはさせまいとする意匠を感じる。シンプルモダンな空間に、色味を統一してまとめられた花が、テーブルごとに置かれているのもいい。まるでどこかの邸宅のホームパーティへ招かれたようだ。

視線を先に送ると、その奥にはテラス席もあった。ウッドデッキに細いアイアンの柵がめぐらされていて、景観を損ねないような工夫がされている。まるでツリーハウスのようだ。周囲を囲む緑が借景となって、この空間にうるおいを与えている。

予想以上の空間に惚けていると、お店の人に「どこでも好きなところに座っていいんですよ」と微笑まれ、思わず我にかえった。いったいどこに座ればいいのだろう。できることなら、時間ごとに座る場所を変えて、この空間を堪能したい。テラス席に出ると、趣味のいいパラソルの向こうに相模平野が広がっていた。

「天気がいいと富士山がそれはもうきれいに見えるんですけどね。今日は隠れてしまっているみたいで」と店員さんが言う。残念ではあるけれど、またここに訪れる理由ができたと思えば楽しい。ここから眺める夏の夕暮れも、きっとうっとりするくらい美しいのだろう。

散々どの席に座るか悩んだ結果、キッチン近くにありテラスに面している席を選んだ。他にはないキャンバス地のチェアが気になったので、座り心地を試してみたかったのと、ここならテラスの緑を思う存分眺めることができること、それが決め手になった。

ああ、やはりこの席にしてよかった。テラス越しの緑を眺めながら、自分の選択に満足する。時折目の前の木々にどこからか現れたモズや雀がとまっては、枝を揺らしてまた飛び去っていく。風も適度に抜けて気持ちがいい。お店の方へ散々悩ませてもらったことにお礼を言って、早速カフェメニューを注文することにした。

渡されたメニューに目を通すと、予想していたよりもメニューの種類が豊富で驚いた。

CAFE MENU
<メイン>
 オニオングラタンスープ
 有機野菜のオリジナルサラダ 黒豆や色とりどり根菜入り
 エッグスラット トースト付
 ジェノベーゼトースト
 有機野菜のビーツのポタージュ
<サイド>
 有機野菜のサラダ(スモール)
 有機野菜の2色のニンジンサラダ
 有機野菜のビーツのポタージュ(スモール)
 トースト オリーブオイル添え
 しいたけのチーズ焼き
 グリルドソーセージ 2本
<デザート>
 コーヒーゼリー
 フレンチトースト
 クレーム・ブリュレ
 シフォンケーキ
<飲み物>
 コーヒー    カップまたはポット
 紅茶(TWG) カップまたはポット
 アイスコーヒー
 アイスティー
 自家製ジンジャーエール ホットまたはアイス
 カプチーノ
 カフェラテ

たくさん種類があるメニューから、自分が食べたいものを真剣に悩むしあわせ。ここでも散々悩んで、結局クレーム・ブリュレを注文することに決めた。もちろん飲み物は紅茶で。

ほどなくして運ばれてきた紅茶は珍しいプレス式だった。カップは温められていて、紅茶を注ぐとふわっと華やかな香りが広がる。続いて運ばれてきたのは、気前がいいサイズのクレーム・ブリュレ。琥珀色のカラメルがきらめく姿にうっとりした。

クレーム・ブリュレのカスタード部分であるアパレイユはアイスクリームのように冷たく、口の中で少しずつ溶かしながらいただく。このタイプのアパレイユは初めて食べる。これをうだるように暑い日にここでいただいたら、さぞかし気持ちがいいだろう。スプーンでカラメルを砕き、自分好みの量に調整して食べる。崩しては食べ、崩しては食べを緩慢な動作で繰り返しながら、私はクレーム・ブリュレの味はもちろん、何よりこの小さな破壊行為に感じる背徳感が好きなのかもしれない、と思い至った。

デザートを食べ終えた後は、お店の方に許可をもらって再度室内を散策した。薪ストーブは現役で、肌寒い時はこれを利用しているそうだ。いつかこの薪ストーブの火に当たりながら、ゆっくりとお茶を楽しみたい。

薪ストーブの斜向かいにはピアノもあった。時々ライブイベントも行われるらしい。そしてこのピアノと対照的に、キッチンへと続く壁面が曲線になっているのも素晴らしい。

その後、オーナーさんにこの建物について話を聞かせてもらう機会があった。実はこの建物は娘さんが設計されたそうで、元々は二人でこのカフェをひらく予定だったのだそうだ。しかし娘さんは軽井沢で手掛けた仕事がきっかけで多忙を極めため、現在こちらのカフェはオーナーさんが他のスタッフと共に切り盛りされている。娘さんが手掛けた軽井沢の別荘の写真も見せてもらったが、ここと同じくらい開放的でおおらかな空間だった。

すっかり日没が近づいてきたので、いろいろと教えて下さったことにお礼を言ってお店を後にする。去るのがあまりにも名残惜しくて、最後にもういちどだけ振り返った。

駅から離れていることもあり、店内が人で混み合うこともなければ、何時間も待つということもない。観光地化がすすみ、週末になると常に賑わっている鎌倉駅周辺と比べて、時間や人を気にせずに、ゆったりと過ごせることがうれしい。なんていいカフェを見つけてしまったのだろう。今度から鎌倉に訪れたら、このカフェを定席にしたい。

カフェを出るとブラックのラブラドールレトリーバーが2頭歩いていて、そのうちの1頭が懐っこく近寄ってきた。よろこびにニヤつく表情を隠しきれぬまま、飼い主さんに許可をとって撫でさせてもらう。続いておずおずと近寄ってきた、年上のもう1頭もワシワシと撫でさせてもらった。完璧なくらい幸福な週末。この余韻にしばらく浸っていたかったので、帰りのドライブではAaron Taylorを流して帰った。

 

Information
店名:Cafe In The Woods
住所:神奈川県鎌倉市寺分1-10-28
営業時間:金・土・日 10:00〜日没まで
備考:電子マネー非対応、テラス席はペット可(オーナーさんは犬好きです)
URL:https://www.instagram.com/cafe_in_the_woods/

 

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