東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

映画「ゆるキャン△」は疲れたアラサーの心にしみる、おかゆ映画だった

つい先日、映画「ゆるキャン△」を見てきた。アニメ版のゆるキャン△を見たのは大学生のころ。当時は院進か就職かを悩んでナーバスになっていた時期で、テレビから流れる高校生の日常風景に、しみじみと癒されていたことを覚えている。ちょうどキャンプを始めたばかりの時期でもあったので、つたない様子を重ね合わせて共感してもいた。

結局そのあと就職し、今は社会人としてあくせくと日々を過ごしている。今でもキャンプは細々と続けていて、たまにふらっと出掛けては湖や川の近くでテントを張り、星を眺めては「やっぱりいいなぁ」と思う。そして翌朝は痛くなった身体を温泉でほぐすまでがワンセットだ。マッチポンプマッチポンプ

ふもとっぱらキャンプ場での一枚。富士山が見えるキャンプ場はやっぱりいい

そんなとき、大好きだったゆるキャン△が映画化するということで、久しぶりに劇場へと足を運んだ。今回は社会人になったキャラクターたちの生活を描いた作品らしい。かなりシビアなゆるキャン△になっていたらどうしよう、あるいは自分がもう面白いと思えなくなってしまっているかも…そんな不安を抱いての約2時間。結局そんな不安は杞憂に終わり、劇場を出る頃には少しだけ元気になっていた。

 以下ネタバレを含むため未見の方はご注意下さい。

 

あらすじはこちらから

yurucamp.jp

 

社会人3年目女子の生態がリアル

冒頭のリンちゃんとあきちゃんのサシ飲みシーンから、劇中に登場する5人組は、おそらく社会人3年目くらいの設定なのだろう。

リンちゃんは名古屋の出版社で働いていて、営業から編集部に移動したばかり。あきちゃんはイベント会社から転職して、現在は地元山梨の観光推進機構で企画を担当している。なでしこは立川でアウトドア用品の販売員、えなちゃんは横浜のペットサロンでトリマー、犬子は地元山梨で小学校の先生をやっているという設定だ。

仕事はできるようになってきたけれど、時々失敗することもある。家に帰ると疲れて寝落ちすることもあるし、休日は遊びに全力というわけでもない。みんな忙しくて時間もなかなか合わないので、学生の頃のように高頻度で集まることもできていない。けれどLINEではゆるくつながっていて、ときどき近況報告や写真が流れてきては、それにコメントを打ち返す。学生の頃の思い出が、川底に残る砂金のように、時折キラキラとかがやくような生活だ。

3年目女子の暮らしぶり

作中ではそれぞれの暮らしぶりが、等身大に描かれていて好感が持てた。

リンちゃんは名古屋市内で一人暮らし。乗り換えを1回挟んでいるので金山あたりだろうか。名古屋市内だと、1Kで駐車場付きマンションの家賃は60,000〜75,000円くらいだし、オートバイは祖父が譲ってくれたものなので、お金もそこまでかからない。週末はツーリングが趣味というのも名古屋ならちょうどいい。近くには岐阜もあれば長野もあり、滋賀もあり。探せば安いキャンプ場もあるし、日帰りでも泊まりでも楽しめるいい街ばかりだ。(実はつい最近までわたしは本気で名古屋に移住したいと思っていた)

対するなでしこはお金をアウトドアに全振りしていてほほえましかった。立川にある駅遠のアパートに住み、平日は勤務先までロードバイクで出勤するというのも、自称「体力だけは売るほどある」なでしこらしい。初めはママチャリで、そのあと貯金を貯めてロードバイクを買ったのだろうか。インテリアにアウトドア用品がまざっているのもらしさがあった。アウトドア用品は社割も使って集めているんだろうなと考えて、趣味を仕事にした好例だなぁと笑ってしまった。立川なら都内とはいえそこまで家賃も高額ではないし、山梨へのアクセスも良いので住みやすい街だろう。

えなちゃんがチンクエチェントに乗っていたのには驚いたけれど、よく考えたら外資系サラリーマンのパパが出資してくれたんだろうな…などと想像も膨らむ。(アニメでも、えなパパはサラッと4万越えの寝袋を買ってくれていた)作中では愛犬ちくわもヒーター付きコットでラグジュアリーにキャンプを楽しんでいて、今回もえなパパの財の波動をしっかり感じた。そんな中で手に職をつけて、自分の好きなものを追求して堅実に生きているえなちゃんはえらいと思う。エンディングで真剣に仕事を取り組んでいる姿には胸が熱くなった。

創作の世界なので、別に一人暮らしの女子の生活がトリッキーに描かれていてもいいのだけれど、やっぱりきちんとリサーチされていて、キャラクターとの整合性が考えられていると、その作品への信頼度がグッと増すように思う。そしてそんなところがやっぱりゆるキャン△だよなぁと安心した。アニメというより群像劇を見ている感覚に近い。なによりみんな自分でしっかりと自活している姿に、胸がいっぱいになってしまった。

3年目女子のキャリア

そんななかでも「リアルだな〜」と感じたのがあきちゃんのキャリアだ。「東京はもう満喫した」というセリフのように、きっとあきちゃんにとって東京は暮らす場所ではなくて、過ごすうちに山梨への想いが強くなっていったのだろう。新しい転職先ではイベント企画で培ったキャリアも活かせるだろうし、ジョブチェンジとしても好例だ。

これは地方から都会に出てきた人あるあるだと思うのだけれど、都会で働いていると「あれ、結局わたしってずっとここで暮らすんだっけ」と我にかえる瞬間がある。劇中でも演出されていたように、都会にいると常に匂いや音が途切れないのですごく疲れるし、地縁関係が希薄なことで「絶対ここにいないといけない理由」がなかなか生まれにくい。そんなときに地元に帰ると親は老いているし、地元は寂れてきていて、でもいいところも変わらず残っていて…本当に東京にいることが自分にとっていいことなんだろうかと思うのだ。

私は結婚したことが残る理由のひとつになったけれど、そうじゃなかったらあきちゃんのような人生を選んでいたかもしれない。「東京はお金があれば楽しい街だよね」と言って地元に帰っていった友人たちを思い出して、もしかしたらこうして生きたかもしれない自分の人生を重ねて見た。

そして犬子のキャリアも地方在住公務員あるあるで、みていてたまらなかった。自分の勤め先が廃校になって、財政も縮小傾向で、それでもその街で生きていくんだという覚悟。これから次々と小学校が縮小されていく将来に不安を感じつつも、気丈にふるまう犬子をみたら泣けてしまった。あんな悲しい「うそやで〜」は反則だよ…

観光推進を丁寧に描いている

映画内では放置されていた廃墟をゆるキャン△のメインメンバーである5人がキャンプ場として生まれ変わらせるプロジェクトが進んでいくのだけれど、これもとてもよかった。

最初は見切り発車感があって、失敗するベンチャーを見ているようでハラハラしていたのだけれど、話が進むにつれてお互いがうまく作業分担をして、キャンプ場の企画と理念を共有して、県と地元住民を巻き込みながら、Web媒体などでも発信するという…ちゃんとしているプロジェクトになっていってリアリティがあった。

途中、キャンプ場建設地でちくわが土器を掘り当てたときは「もう終わった…」と思ったし、登場人物並みにめちゃくちゃ凹んだ。(遺跡が発掘されると調査のために作業が中断するだけでなく、その土地を資料館にするなどの代替案に変わってしまうことがあるのだ)

もともと純粋な善意かつ無償で始まった団体活動だということもあり、遺跡発掘というアクシデントは心を折るのに十分すぎる出来事だったと思う。それでもめげずに全員が一丸となって「遺跡×キャンプ」というテーマを打ち出したのは、かなりいい落としどころだったなと感じたし、あきちゃんのプレゼンではボロボロに泣いた。

アクシデントを他のキャンプ場との差別化できる強みに変えて、なおかつキャンプ場のテーマである「再生」とも絡めて再度企画を練り直すたくましさ。事前に現地調査に立ち入る許可をもらい、発掘作業を手伝いながら、対立する立場にあるアクターへの理解を深めて行ったのも感動した。

そして劇中ではサラッと書かれていたけれど、ちゃんとあきちゃんが地元住民と観光地の合意形成をしているのも好感が持てた。観光地では、観光地化に成功したけれど、観光客のマナーが悪かったり、地元の住環境が変わったり、ジェントリフィケーションが起こったりと、地元住民のQOLが下がってしまう事例をよく聞く。

それは双方にとってつらい経験になってしまうので、きちんと合意形成をして、その土地の有識者やリーダーを巻き込んで、観光地を整備していくというプロセスが必要なのだ。それを率先して実現していたことが本当に素晴らしかったし、これをアニメで丁寧に描くのかと驚きもした。よくね、あるんですよ。「なんか面白いことやりましょう!」と言って、合意形成をせずに勝手に箱だけ作って火種を撒き散らして消えていく会社が…

エンディングで「結局キャンプ場はオープンできたけど、これからの運営は誰がやっていくの?」という疑問をきっちり解消していたのもよかったなぁ。ゆるキャン△はつくづくレスポンシビリティが高いアニメだと感じた。

大人同士になっても、やっぱりキャンプは楽しい

そしてなにより嬉しかったのが、大人になった五人がまた仲良くキャンプをして「楽しいね」と笑い合えていたこと。地方出身だと、東京進学組と地元組でいつのまにか分かれてしまっていたり、帰ってもなかなか予定が合わなかったりと、次第に地元の友人たちとは疎遠になってしまう。

そんな経験もあって、高校時代の友人とあつまってキャンプをするというのが、とても奇跡のように思えてしまい、「またみんなとこんな時間を過ごしたかった」と言っていたなでしこの願いが叶った瞬間、ほろほろと泣けてしまった。そうだよねぇ、この「楽しい」を分かち合うのがキャンプなんだよね。

そうしてなでしこの人生に影響をあたえたリンちゃんと、同じように影響を受けてたくましくなったなでしこを見ていたら、いまでもつながっている友人たちを大事にしなきゃなぁと思わされたのだった。とにかくやっぱり、ゆるキャン△っていうのは人生なんだと思う。

おわりに

見るまではドキドキしていた映画「ゆるキャン△」だったけれど、見てみたらとっても楽しかったし、安心感のあるトーンでほっとした。社会人生活で疲れた心と身体に沁み渡る、まさにおかゆ映画。社会人生活も板についてきて、指導をする立場になった今だからこそ、とても沁みるものがあったし、改めて私も頑張ろうと感じた。こうして人は責任と自由のはざまで揺れながら生きていくんだよな。

これから先もずっとゆるキャン△が続いていってくれたらいいなぁと思うし、またこうして人生の節目で五人に会えたら、自分が何を感じるのかがとっても楽しみだ。

そんなわけで、いまからキャンプにいってきます。