東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

ここは中国茶の世界にやさしく誘う場所 上野「閒茶」

都会暮らしも板についてきたけれど、やっぱりこの喧騒には慣れないもの。時にはどこか静かな場所へと出かけて、こころに凪を取り戻したいと思う。そんなとき、こころの給水ポイントとして、静かに扉をノックする場所がある。

お店の名前は閒茶。「閒」は静かな気持ちで飲むという「閑」と、自分とお茶のあわいという「間」の両方を表している。ひとことで言えば、中国茶の世界にやさしく誘うような場所。わたしはここでの体験がきっかけになって、すっかり中国茶の虜になった。

上野の住宅街を抜けて扉を開けると、ソファと椅子を組み合わせて約6席ほどの、凛とした喫茶室があらわれる。そのギャップにナルニア王国の扉を思いだす。いつ訪れても静謐で、心地よい緊張感がただよう空間だ。

インテリアを全て模倣したくなるくらい素敵な空間にため息が出る

お店の扉をあけて席に着くと、店主から静かに中国茶のメニューを手渡される。その中から気になった茶葉を頼み、自分でお茶を淹れてたのしむのがこのお店のスタイルだ。なんだか敷居が高そう…と思うかもしれないけれど大丈夫。選べないときは店主が相談に乗ってくださるし、希望すれば淹れ方も教えてくれる。ちょうどこの日は夫が一緒だったので、お願いして教えてもらった。

すでにテーブルには茶道具が一式揃っている。素焼きの煮水器に火が灯り、その上に湯沸かしが置かれたら、お茶を淹れる準備がととのった合図だ。まずは道具をあたためるという意味も込めて、店主がお湯を使って手本を見せてくださった。

今回使うのは「蓋碗」と呼ばれる器。中国茶を淹れるには、急須のような形をした「茶壺」と呼ばれる道具を使うときと、蓋付きの湯のみのような形をした「蓋碗」と呼ばれる道具を使うときがある。

蓋碗を使うときは、写真のようにひとさし指で蓋を抑え、隙間を使ってお茶を淹れていく。蓋碗から注がれたお茶を受け止めている、うぐいす色の器は「茶海」と呼ばれるもの。これに注ぐことでお茶の濃度が整えられていく。

次に茶海にたまったお湯は、「茶杯」へと注がれる。茶杯はその名前の通り、お茶を飲むための杯だ。最後に、茶海に残ったお湯と茶杯のお湯を「茶船」と呼ばれる、お椀型のうつわにすべて流す。ここまでが器をあたためる一連の流れ。準備ができたら、いよいよ中国茶を淹れることに挑戦だ。

茶葉が用意されたら、その右隣にある細いマドラーのような「茶針」と呼ばれる道具を使って、茶葉を蓋碗に入れていく。茶葉を蓋碗に入れ終わったらお湯を注ぎ、一呼吸をおいて茶海へと注ぐ。このときの茶葉をおく時間によって、お茶の濃度は変わる。自分の好みの時間をさぐっていくことも、中国茶のたのしみだ。

茶海にお茶を注ぎきったら、蓋碗の中に残った茶葉は、茶針をつかってすこし寄せておく。こうすることによって、茶葉がうつわに残った水分によって劣化することを避けることができる。

そうして茶海のお茶を、茶杯にそそいだらできあがり。無事にお茶を淹れることができたら、あとは香りをたのしみつつ、お茶と一緒に茶菓をたのしもう。この日の茶菓は素焼きのアーモンドとペカンナッツ、干しぶどうとあんずに、台湾カステラだった。

この日、わたしが頼んだお茶は菊茶。甘やかな香りはもちろん、つつましやかな花びらが、ゆったりとひらいていく様子に心がホッとする。

はじめは緊張していた夫も、何回か行ううちにすっかり慣れたようで、蓋碗でお茶を注ぐ動作がすっかり様になっていた。

ただただ静かにお茶と向き合う時間。ふたりでくつろいでいると、お店の方から、さらにもうひとつ茶菓子をいただいた。豆花のトッピングを思い出す、ほのかな甘さと豆のプチプチとした食感にいやされる。

淡々と流れる時間の中で、お茶を淹れる所作を繰り返していると、頭の中がからっぽになっていく。きっとこのお決まりのルーティンが、心をととのえていくのだろう。

ちなみに店内では、茶器と茶葉の販売も行われているので、気に入ったものがあれば購入することができる。蓋碗があれば、自宅や旅先でも気軽に中国茶をたのしむことができるので、いつか手元に迎えたい。

そうこうしているうちに時間が過ぎ、気づけば夕方にさしかかる頃だった。すっかり長居してしまったので、お礼を言ってお店を後にする。玄関を出ると、近くに看板犬の「たろう」がいたので挨拶をした。冬毛が抜ける時期なのか、すこし毛並みがぽわぽわとしていてかわいらしい。たろう、いつまでも元気でいてね。

都会の暮らしに疲れたとき、あるいは自分と向き合うお茶の時間を持ちたいとき、はたまた中国茶に興味を持ち始めたとき…そんなひとがいたら、このお店をそっとすすめたい。美味しいお茶と静謐な空間、そしてかわいい看板犬がいるこの店は、きっと良縁となるはずだ。

Information

店名:閒茶
住所:東京都台東区上野桜木1丁目9-5

備考:営業日については公式HPを参照のこと。お店が満員のときは、藝大のアートプラザ近くにあるキッチンカー「Nom Cafe」もおすすめ。チャイがなかなか美味しいです。

URL:http://kanncha.jp(HP), https://www.instagram.com/_kanncha_/?hl=ja(IG)

 

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