東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

改姓についての覚え書き

最近友人たちから、結婚について相談を受けるようになった。なかでもよく聞かれるのが改姓についての話だ。
改姓についての実体験を言語化していくうちに、自分の考えが整理できて興味深かったので、忘れないよう残したい。

前提

法律婚にするか、事実婚にするか

  • ふたりで話し合い、法律婚を選択した
  • 子の認知、相続、万一の場合の立ち合いなどを考えると、法律婚が最適解だと判断したため

改姓前

どちらの苗字にするか

  • 彼氏は自己名義で何本か論文を出している
  • 社会人としてのキャリアは彼氏の方が長く成果も多い
  • 彼氏の名義で契約しているものも多い
  • 総括すると彼氏が私の姓に変えるコストの方が大きい
  • 結果、私が改姓することで合意した

どのように納得したのか 

思想編
  • 結婚以前からふたりとも夫婦別姓を支持している
  • ただし法律婚を選択せずに結婚することは、互いにとってリスクが高いと判断した
  • とはいえ結婚して名前を変え、政治的立ち位置は夫婦別姓というのはダブルスタンダードではないかと考えたこともあった
  • でもよく考えれば、それしか選択肢がない社会が悪い
  • なので今は気にしていない
コスト編
  • 今後のリスクヘッジのためなら短期的な改姓コストは仕方ないと考えた
画数編
  • 姓名判断をしたら改姓後の名前の画数が最悪だった
  • 判定結果に「色恋によって身を滅ぼす」があった
  • 「金銭を使い果たして身を滅ぼす」ともあった
  • 実際に使う名前は旧姓のままなのでセーフだと考えることにした
アイデンティティ
  • この時点でアイデンティティが失われる実感は薄かった
  • 改姓後も職場や友人たちの前では旧姓を使い続けるので、書面上の名前だけが変わる認識でいた
  • 何より彼氏に何かあった時に側にいられないのは嫌だった
  • なので私の苗字を変えることにした

改姓後

実際に変えてみてどう感じたのか 

思想編
  • ふたりとも夫婦別姓に賛成の立場は変わらない
  • 今後中国や韓国のように別姓に切り替えるか、スウェーデンのsamboやフランスのPACSのような制度の導入が進むことを望んでいる
コスト編
  • 免許証・銀行口座・クレジットカード・保険などの改姓手続きが煩雑だった
  • まず改姓後の諸手続きについて、体系化した手順書が存在しないことに驚いた
  • さらに各機関によって認識にバラツキがあり、事前調査が役に立たないことが多々発生した
  • とはいえインターネットの女たちが情報を発信してくれていたことにかなり助けられた
  • 情報が少ない異性やパートナーシップ制度利用者の場合はさらに大変だろう
  • また改姓手続きは平日のみ対応可能な機関が多い
  • 仕方なく有給を1日分消化したが、手続きのためだけの有給消化には心が荒んだ
  • 結局、改姓に伴う実作業は1人日だったが、事前調査などを含めると最低4人日は必要だった
  • ちなみに改姓から数年後、私の祖父が亡くなり相続手続きが発生した
  • その際、旧姓と新姓の私が同一人物であることを証明しなければならず、書類集めに苦労した
  • 当初、改姓コストは短期と想定していたが、長期にわたってランダムにコストが発生することがわかった
  • これが生涯に渡って夫は無いと思うと羨ましかった
画数編
  • いまのところ姓名判断は当たっていない
  • 色恋沙汰で身を滅ぼすことも、金銭感覚で身を滅ぼすこともなさそうだ
  • しかし画数が悪いことは地味に引っかかっている
アイデンティティ
  • 改姓後、アイデンティティに変化があった
  • 普段の生活では旧姓を使用しているが、公的な場面では新姓を使うことがある
  • そうしていると、使用頻度よりも重きを置いて選んだときの名前が「重要な名前」だと認識するようになった
  • 公的な場面で「わたしは新姓〇〇です」と選ぶことが自己認識が変わるトリガーのようだ
  • 今私の自己認識は「旧姓は仮、新姓が正式名」になっている
  • 喪失感というより、知らない間に自己認知が変化していて奇妙な感覚だった

改姓後の夫婦関係について

  • 恋人同士だった頃からふたりの仲は変化していない
  • 改姓することが決まった時、夫が「あなたに負担をかけて本当にごめん」と言ったことは今でも覚えている
  • 悪いのは制度であって夫ではないが、この時に傲慢な態度を取られていたらつらかったかもしれない
  • 長期的な共同体として円滑にやっていくために、互いが理解を示せるパートナーであることは大切だと感じた
  • 今後夫婦別姓が実現した場合、旧姓に戻すことも合意している
  • もし子供ができたら、その人には家に囚われず好きな姓を選んで欲しい

改姓後の考えについて

  • 現与党が夫婦別姓に反対しているが、よくよく考えると不思議だと思う
  • 人口減少下で消えていく伝統的な姓≒家を守るためなら、別姓が最も適切な手段だと思うので
  • また夫婦別姓同性婚に否定的なのも不思議に思う
  • 社会保障でカバーしきれない保育や介護などを各世帯の構成員に負担させている以上、家族単位を増やすことが必要不可欠だと思うので
  • さらに異性愛者にのみ法律婚を認め、同性愛者に法律婚を認めない理由が、「子どもを産み育てながら共同生活を送る関係に法的保護を与える」ため*1というのも不思議だと思う
  • それならば希望する同性愛者が子育てを実現できるよう制度を整えていくべきだから
  • そもそも私は子どもを産み育てるためではなく、パートナーとこの不確実性の高い社会を生きていくためのリスクヘッジとして法律婚を選んだ
  • 結婚前に私に十分な稼得があったり、キャリアとして優位だったら異なる検討軸があったのかもしれない

終わりに

姓を変えるということを実際にやってみて、変える側のコストが高いし面倒だし、なにより無力感を感じた。法に基づいて夫婦になる場合、いくら学生時代に研究を頑張ってきた自負があったとしても、結局は成果をあげている人間の姓に変える必要があったからだ。経済的合理性で動くなら、きっとこうした決め方を多くの女性が経験するのではないだろうか。頭では理解も納得もしていたけれど、ふりかえると確かに傷ついていた。そんな個人の思いを内包しつつ、夫婦関係は続いていくのだろうけれど。

それから私は夫婦別姓推進派だけれど、これ自体が女性の地位向上へ与えるインパクトの大きさは疑問に思っている。結局のところ、姓がある限り家制度の概念は存続する。そうなると女性の地位は、夫婦別姓を実現するだけでは不十分で、女性が経済的自立を果たせるようになるということも両輪で進んでいかなければ、地位向上の実現は難しいのではないだろうか。

そのためには夫婦別姓はもちろん、女性が家計の状況によって進学をあきらめないための支援や、子育てや介護でキャリアが断絶した人間が労働市場に復帰したときに稼げる仕組み、非正規雇用の労働者がその給与のみで生計を立てられる仕組みや、ケア労働を行政がサポートする仕組みを、社会全体で作っていく必要がある。それはめぐりめぐって男性にも還元され、生きやすい社会の醸成につながるはずだ。

結婚したときに、まずは夫の年収の半分まで稼げるようになるというのが私の目標だった。その目標を今年、ようやく達成することができた。少なくともあのとき失った自信は少しずつ取り戻してきている。自分で稼げると言うのは自信になる。そしてこの自信と稼いだお金を、やはりわたしは学問に費やしたいと思っている。

いろいろ書いたけれど、あくまでもこれはうちの話で、パートナーの数だけ色々な決め方があるのだろう。他の人たちはどんな選択をしているのか知りたいし、聞いてみたい。そしてこれから結婚しようとしている人たちは、それぞれのパートナーにとっての最適解が見つかることを願っている。そして姓を変えずともパートナーシップを結びたいと望んだ相手と共にいられる権利、あるいは相手の性別を問わずパートナーシップが保証される権利が、早々に実現することを。