トーチ8周年おめでとう! 全話無料公開中に読んでほしい「自転車屋さんの高橋くん」 感想
トーチWebが8周年を記念して、8月5日から11日までの間、掲載されている漫画をすべて無料で公開しているそうだ。その中にある「自転車屋さんの高橋くん」がとても面白いので、ひとりでも多くのひとに読んでほしい!
※以下ネタバレを含むので、記事を読まずに漫画を読みたい!という人は次のリンクからどうぞ↓
1. あらすじ
物語は、岐阜市内で事務員として働く飯野朋子(通称:朋子)と、地元の自転車屋で働いている高橋遼平(通称:高橋くん)が出会うところから始まる。会社からの退勤中、朋子の自転車「ディープインパクト」のチェーンがはずれて困っていると、近くにいた高橋くんがかけつけて修理をしてくれることに。
2. 「自転車屋さんの高橋くん」のココがいい!
高橋くんのストレートな愛情表現がまぶしい
高橋くんはとにかく表現がストレートだ。彼の表現は、星飛雄馬が投げる豪速球以上に直球で、取り繕ったところがない。遠慮がちな朋子のペースにあわせつつ、自分の言葉は素直に伝えていく高橋くん。顔色をうかがってしまう朋子にとって、高橋くんは本音を読もうとしなくていい唯一の相手だ。朋子が本音を隠そうとするときは、高橋くんが軽やかに彼女のふところへと飛び込んでいく。そんなふたりの凸凹がぴたりとはまるような関係性は、見ていて心地いい。
一方で高橋くんのストレートさには押し付けがましさがない。それは彼がきちんと目の前の相手を尊重しているからだ。高橋くんにとって自分の思っていることを素直に言うのは、相手を正論でねじ伏せたいからでも、優位に立ちたいからでもない。自分の意見を受け取って相手が行動すること、そしてそれが自分の意に沿わないことだったとしても、それも含めて相手の自由だと信じているからこそなのだ。
なんども高橋くんが「そんなあなただから好きなんだ」と伝える様子には、だからこそあなたの自由を奪うようなことはしたくないという思いが根底にあって、安心して読み進めることができる。自分が悪いとおもったらすぐに謝るし、朋子と口論になったときは「ケンカしてバイバイすんのイヤや」と伝えてくる。そんな子犬のように素直でまっすぐな性格には、思わず読んでいるこちらがときめいてしまう。
正直に自分の思いをつたえること。相手の想いを汲みとろうと努めること。高橋くんをみてると「自分でややこしくしてどんどん面倒くさくなっていくようなちゃちな恋愛をしている場合ではない、大人の恋愛こそストレートになってナンボである」とつよく思う。そしてそんな思慮深くやさしい高橋くんの言葉は、きらきらと採光を放って物語を照らしている。
朋子が自我をとりもどしていく過程にヒリヒリする
自我がはっきりしている高橋くんに対して、朋子は自分の意思表示をするのが苦手なタイプだ。幼少期から自分の意見を押さえつけることで人間関係を維持してきたので、何か嫌なことがあってもすぐ我慢してしまうし、そうすればうまくいくのだと思い込んでしまっている。
そんな朋子だが、自分が引け目に感じているところを高橋くんに肯定されたことがきっかけで、すこしずつ自分に自信を持てるようになっていく。
難癖をつけられている女子社員をかばったり、高橋くんのことを悪く言う同僚に反論したり。朋子がすこしずつ脱皮していこうと奮闘する様子には、思わず読んでいるこちらの拳にも力が入る。
高橋くんの影響をうけて、徐々に自分が感じていることを言葉にすることができるようになっていく朋子。
しかし物語の中盤、飲み会の席で上司から執拗なセクハラを受け、それを高橋くんが目撃してしまう。我慢することでその場をやりすごそうとする朋子。そんな朋子を見た高橋くんは、おもわずその上司に激昂してしまう。
酒…注がせたり 愛人つって触ったり…オレはどえれー腹たったぞ…
やのに何で…ともちゃんまで「私なんか」とか言うん?
ともちゃんのおるとこは きめえ奴に好きにさせとくんが普通なんか?ーーー「自転車屋さんの高橋くん」 第3巻 71ページより
それまで自分が我慢をすれば回っていた世界にいた朋子は、高橋くんが怒っている理由が飲み込めず、ふたりはすれ違ってしまう。しかしその後あることがきっかけで、朋子は自分がどれだけ周囲に粗末に扱われ、舐められてきたかということに気づく。
自分が粗末に扱われることを許してしまうことは、自分をいとしくおもってくれている人たちを傷つけてしまうことだった。そんな事実にやっと朋子が気づけたシーンには、ヒリヒリとした痛みが伴う。
痛みと引き換えにやっと自我を手に入れられた朋子。その後の朋子は高橋くんに対していやだと感じたことを伝えようとしたり、実父からの理不尽な言葉に果敢に立ち向かっていったりと、だれにとっても「いい子」だった自分から脱却していく。物語の初めからは想像できないほどに変わっていく朋子は、どんどん魅力的になっていって目が離せない。
彼女が誰かの目を気にせずに、自分にとってほんとうに大切なものを見つけていく、その道程がとても楽しみだ。
ふたりをかこむいとしいキャラクターたち
物語である岐阜市内には、高橋くんの幼なじみで中華料理屋を経営する「まさやん」と、同窓生で特撮オタク仲間の「テルちゃん」がいて、それぞれがいい味を出している。まさやんもテルちゃんも高橋くんのことをよく知っているので、ふたりの関係をさりげなくフォローしてくれる、妖精のようなキャラクターだ。このイツメン的な田舎っぽい付き合いがすごく懐かしくて、読んでいて地元の友人たちに会いたくなってしまった。
物語にでてくる地元のひとたちはみんな優しくて、以前岐阜にいったときにあまりにも人が良くて驚いたことも思い出す。(夫が居酒屋でカウンターの隙間にスマホを落としてしまったとき、隣の席にいた恋人同士がデート中にもかかわらず取り出すのに協力してくれたのだった)やっぱり岐阜、いいよなぁ。次にいくときは聖地巡りをしてもいいかもしれない。
3. 終わりに
高橋くんは朋子が粗末に扱われたときは烈火のごとく怒るし、祖父込みでの同棲を提案されたときには「おりゃあともちゃんにじじいの世話してほしいわけやねぇ」と諭している。なぜなら高橋くんにとって朋子は、これまでの人生でかきあつめてきたやさしさを、すべて捧げられるくらい大切な存在だから。
ひとからもらったやさしさを懸命にかき集めてきた高橋くんには、ときどきホロリと泣けてしまうし、そんな高橋くんを支えられるくらい逞しくなっていく朋子には心からエールを送りたくなる。ほのぼのとした恋愛漫画が読みたい気分のとき、とげとげした気持ちを丸くしたいとき、そんなときにはつよくお勧めしたい一冊だ。
トーチWebでの無料期間は8月5日から11日まで。どうかひとりでも多くのひとに「チャリ橋くん」の魅力が伝わりますように!
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余談
昔から好きな漫画を読んでいると、勝手に頭が過去に聞いたプレイリストからテーマソングを選んでしまうという、自分でもよくわからない癖がある。今、自転車屋さんの高橋くんのテーマソングだなと思っているのは、Kenta Dedachiの「Step by Step」という曲。
この曲を知ったのは住吉美紀さんのラジオBlue Oceanがきっかけなんだけど、ピースフルでポップなメロディラインと時折入るハンドクラップ、英語と日本語の歌詞のバランス感に「これだ!」と思ったのだった。
"Stepping into the unknown, Gripping firm on your words"は朋子っぽいし、”I′ve been feeling so lonely, But you hold me so closely”は高橋くんっぽい。
いや〜しかしKenta Dedachiってめちゃくちゃいい歌手ですね。この話はまた別の機会に…