冬の福島旅#2 安達屋旅館で旅の疲れを癒す
用事を済ませ、宿に着いたのは夕方をとっくに過ぎた頃。あわててチェックインへと急ぐ。
エントランスに入ると正面に生花が飾られてあった。お花の存在に少し落ち着く。
向かって左手がフロント。チェックインのピークタイムを過ぎていたこともあり、誰もいなかったので受付にある小さなベルを鳴らしてお願いした。
受付が終わった後は、ロビー脇のラウンジに案内され、ウェルカムドリンクとして抹茶とひとくちサイズの羊羹でもてなされた。冷えた体に薄茶と囲炉裏のあたたかさが滲みる。そのままラウンジで館内の説明を受け、今回泊まる部屋へと案内された。
今回泊まるのはいわかがみという8畳の和室。ギリギリになっての予約だったのでここしか空いていなかったのだけれど、空きがあればベッドタイプの部屋も案内できるのだそう。とはいえ旅館の敷き布団は久しぶりなのでちょっとワクワク。
部屋に入って右手には独立洗面台。左隣にはウォシュレット付きのお手洗い。
洗面台にはハンドソープはもちろん、クレンジングと洗顔、化粧水と乳液、それから消毒液も完備されていて至れり尽せり。
部屋に上がって左手にある棚にはシャワーキャップとコットンと綿棒、ヘアブラシと歯ブラシ、そしてシェーバーが用意されていた。ヘアゴムがない以外は過不足ないアメニティだなという印象。
それからマイスリッパ用のクリップも。大浴場に行くと自分が履いてきたスリッパがなくなっていたり、どこに置いたかわからなくなるのでこれは嬉しい。
部屋に入ると予想していたよりモダンなレイアウトでびっくり。ソファもあるしリクライニングチェアもある!温泉旅館によくある座椅子と座卓の組み合わせを想定していたので、部屋を間違えていないかソワソワしてしまった。ちなみに部屋の窓は二重になっていて全く寒くない。
ここで本を読むのが本当にしあわせだったなぁ。
机の上にはウェルカムスイーツ。ルレーヴという福島市内にあるドライフルーツ専門店のものらしく、これがとっても美味しかった。
部屋にはテレビ、加湿器、ファンヒーターに冷蔵庫、金庫など必要なものは一通り揃っている。特に加湿器があるのが嬉しい。
テレビ台の下には電源タップがあるのも嬉しいポイント。カメラやPC、スマートフォンなど充電するものが多いので、こういう気遣いはとても助かる。部屋にはフリーWiFiも飛んでいるので、軽い仕事(軽い仕事とは?)もできた。
ファンヒーターの上にあるクローゼットには浴衣と羽織り、それからはんてんも。他には湯足袋に藤の籠でできた温泉セットがあり、温泉セットの中にはバスタオルとフェイスタオルが入っていた。
冷蔵庫の上には緑茶と湯呑み。緑茶がティーバックタイプのせいか、茶こぼしは無かったので、滞在中は下段にあるゴミ箱に直接茶葉を捨てていた。隣にはマスクケースも備え付けられていた。
それからミネラルウォーターが1本ずつ。感染症予防の観点から冷蔵庫内にお酒はないものの、ルームサービスで頼めば運んできてもらえるので、お部屋でのんびりお酒を楽しみたい人はそちらの利用がお勧め。
結構このルームサービスが充実していて、ワインやシャンパンに軽食もあり、日本酒は写樂や大七などの福島の有名どころの地酒が揃っていた。これを機に福島の酒が知りたいな、という人にはとてもハマると思う。逆に福島の酒は一通り知っていて、ニッチなものも知りたい人にはちょっと物足りないかもしれない。15時から17時半までは館内にあるクラシックラウンジでもお酒を楽しめるので、もちろんそこを使ってもいい。
窓の外は雪景色。氷柱に光が反射してきれいだった。東京の部屋から見える景色とは全く違う光景がうれしくて、しばらくぼーっと眺めてしまう。この景色をずっと眺めていたくて、結局この日はカーテンを閉めずに眠った。
一通り部屋を散策して満足したあとは、とりあえずお茶を淹れてウェルカムスイーツで一息つくことに。お茶を飲みながら、夫と滞在中の湯巡りについて計画を立てる。というのも、この安達屋旅館にはかけ流し大露天風呂(混浴だが18時から21時までは女性専用時間あり)の「大気の湯」と貸切露天の「薬師の湯」、男女別の内湯「不動の湯」と「姫の湯」に、貸切内湯の「ひめさ湯り」の合計5つのお風呂があるのだ。
部屋にあるタイムチャートを見て、今回は夕食前に女性専用時間中の大気の湯に入り、夕食後は姫の湯、朝起きたらひめさ湯りに浸かって、朝の大気の湯をもう一度堪能し、朝食後は薬師の湯に入ることに決めた。もはや館内だけでプチ湯めぐりができる。
そうと決まったら早速大気の湯へ。夕食までの1時間、思う存分温泉を体感したい!
1階のラウンジを通り過ぎて階段をのぼると案内板が見えた。そのまま脇目もふらず一目散に温泉へと向かう。
廊下には福島の民芸品が慎ましやかに飾られているのもよかった。赤べこを模したこの木彫りの民芸品が可愛らしくて思わずシャッターを切る。
廊下の突き当たりを右に曲がると、やっと温泉に向かう階段が見えた。温泉へと向かう階段の前にはこのような休憩スペースがあって、待ち合わせにちょうどいい。
休憩スペースにはレモン水もあった。うれしい心遣い。のぼせた身体に染み渡るレモン水はさっぱりとしていくらでも飲めてしまう美味しさだった。近くには利用者向けに消毒液も備え付けられている。
はやる気持ちを抑えてやっと温泉へ。すでに硫黄の香りが漂ってきてワクワクする。夫と後でね!と言葉を交わし、いざ中へ。
※以下、撮影許可をとって写真に収めています。
女湯の入り口には簡易的な化粧台があり、ドライヤーやアメニティなどが揃っていた。感染症対策のためにあえてこうしているのかなという印象。
大浴場のドライヤーはKOIZUMIのもの。
洗面台は2箇所あり、ドライヤーは右側にのみ備え付けられていた。
左側には綿棒にコットン、それから個室と同じスキンケアが揃っている。
脱衣所はファンヒーターで暖められていて全く寒さを感じなかった。休憩用のベンチがあるのも嬉しい。脱衣所は籠のみで、貴重品用のロッカーなどはないのでそこだけご注意を。
洗い場は4つ。シャンプー、トリートメント、ボディソープと洗顔が備え付けられていて充実している。シャンプーはKOSEのジュレーム。ノンシリコンのシャンプーをこうした旅館で見ると思わなかったのでびっくり。シャワーヘッドも新しいもので肌あたりがよかった。
洗い場の真後ろには女性専用の内湯「姫の湯」があり、じゃぶじゃぶとお湯が流れていく。こんなにたくさんの湯を掛け流しにできるなんて、なんて贅沢なんだろう。お湯が出る場所には湯の花の結晶ができていた。
ちなみにこの姫の湯、向かって右側には段差があるものの、左側には段差がなくざぶんと入ることになるので足の悪い方は気をつけたほうがいいかもしれない。
一応姫の湯からも外の景色は眺めることができる。この左手に露天風呂への入り口があり、その扉を開けて女性専用露天から大気の湯に向かう導線になっている。
夜の女性の露天風呂はこんな感じ。いかにも湯治という雰囲気。手前が深めの露天風呂で、奥が寝湯になっている。
奥の寝湯からさらに先に進むと大気の湯につながる道があり、一枚の扉を隔てて出入りできるようになっていた。女性専用時間とはいえ、不安な人はフロントで混浴用にバスタオルを1枚借りることができるので、それを巻いていくのがおすすめ。
※この写真のみトラベル.jpよりお借りしています。
ちなみに女湯からみた混浴の導線ついて説明すると、まずこの写真の手前右手にある場所が女湯につながる扉を出たところになる。大体くるぶしの深さくらい。次にそこから膝くらいの浅さを進んで右手に寝湯、打たせ湯、洞窟湯を横目に進むと、最後に一番奥にある深めの露天にたどり着く。
混浴エリアではあるけれど、女性専用時間ということもあって安心してのびのび使うことができた。真っ暗な中、照明に照らされた湯気がお湯の上を滑っていく幻想的な光景に思わず声が漏れる。上を見上げると満点の星空。肩までどっぷりお湯につかりながら樹々のざわめきや雪が落ちる音、温泉がこんこんと湧き出る音を聞いていると、心がほぐれていくようだった。もはや露天というより野天に近く、開放感が素晴らしい。人生で3本の指に入る露天体験だった。
ちなみに男性の脱衣所はこんな感じなのだそう。(撮影は夫)
洗面所にはシェーバーや綿棒、化粧水と乳液などのアメニティはあるものの、クレンジングや洗顔、コットンなどはないので必要な人は持参するか部屋にあるものを使ったほうがよさそう。
男湯は脱衣所から直接大気の湯に出る作りになっているらしく、女性専用時間はこのようになっていたらしい。
女湯の内湯は木のつくりだったけれど、男湯の内湯は石造りなんだそう。こちらもお湯がじゃぶじゃぶ出ているので、床は全く冷たくなかったらしい。
すっかり身も心も柔らかくなってお風呂から上がり、先に休憩所にいた夫と合流した後はロビーラウンジへ。
ちょうど夕飯時だからか誰もいなくて広々。間接照明の明かりが柔らかくていい。
ロビーラウンジにはコーヒーマシンもあって、宿泊客は自由に飲むことができる。メニューはグアテマラにフレンチロースト、それから安達屋ブレンドで、そのほかにカプチーノやマキアートにも対応している。
もちろんコーヒーが苦手な人には麦茶や紅茶も選べるようになっている。紅茶の茶葉がアーマッドティーなのにもびっくりした。ちょっといい紅茶があるだけで好感度が上がる。
せっかくなので紅茶を淹れて、暖炉の前で少し休んでいくことに。夫に「大気の湯、すごいよかったよ」というと「でしょ、最高にチルでしょ」と返され、そうそうチルかったよと笑った。
ちなみに廊下を挟んでロビーラウンジの向かいにある喫煙所はこんな感じ。こちらにも小さいながら囲炉裏があって素敵だった。
のんびりしているうちに夕食の時間が近づいてきたので、一度部屋に戻って荷物を置いてから夕食会場へ。
夕食会場の席はすだれで仕切られた半個室になっている。目の前に囲炉裏があるのが楽しい。この日は日本酒ペアリングコースをお願いした。
日本酒ペアリングコースは5杯の日本酒がメインの料理に合わせて提供される仕組み。甘味にもついてくるのが面白い。
一通り説明を受けた後は囲炉裏で食材を焼きつつ料理を待つ。この囲炉裏形式、見た目に楽しいのはもちろん料理が出てくる間のいい繋ぎにもなっていて、上手だなぁと感心した。
「里山の囲炉裏焼き 壱」の食材はニシンと菊芋、それから蕎麦がき。この中では蕎麦がきが一番印象的だった。
ニシンはそのまま、蕎麦がきは左の白味噌、里芋は右の麹味噌につけて食べる。焼いた蕎麦がきは初めてだったけれど、あぶったところが香ばしくて、もちもちした食感がとてもよかった。
続いて出されたのは奥の松のスパークリングと伊達鶏のポワレ。福島の伊達鶏は知名度は高く無いけれど、旨味が強くて歯応えがあって本当に美味しい。こうして土地のものが食べられるのはうれしい。
ペアリングは弥右衛門の純米辛口。グラスはリーデルのワイングラス。ドライで飲みやすく、グラスの口当たりの良さもあいまってスイスイいけてしまう。
次に出てきたのは蕪と小松菜の餡をあしらった帆立真薯。昆布出汁が効いていて味わい深い。全体的に野菜より肉と魚がメインのコースだったので、野菜の存在にほっとする。
続いて運ばれてきたのが「里山の囲炉裏焼き 弐」という鮎と伊達鶏、それからイカが刺さった串。これらを焼きながら次の料理を待つ。
コースのメインは和牛ヒレ肉にカリフラワーのソースを添えたもの。付け合わせはクレソンとグリルしたネギ、それから蓮根。旬のカリフラワーを面白いやり方で味わえたのがうれしい。
終盤は県産コシヒカリと香の物、それから冬の自然薯味噌鍋。ご飯はお変わり自由。ピカピカの白米を食べ、やっぱり福島の米は美味いなぁと頬がゆるむ。
ちなみにこの自然薯味噌鍋は、コースの中で一番印象に残るくらい美味しかった。根っこも一緒に刻まれたセリと、団子状に丸められた自然薯、それからたくさんのきのこと野菜の出汁が溶け出したスープが滲みる。味噌も風味程度で良い。こってり味噌味の鍋を予想していたのでうれしい誤算だった。
甘味はほうじ茶のブラマンジェ。通常甘味はラウンジで食べることも可能なのだけれど、感染症対策のため今はやっていないのだそう。最後までのんびりしたかったのでむしろそのほうがありがたい。
甘味を食べて一息ついていると、この後ラウンジがバータイムになっていてアルコールを用意してあるのでよかったらとのこと。せっかくなので軽く飲んでいくことに。
ラウンジには先ほどの紅茶やコーヒーに加えてワインにジン、ウイスキーが並んでいた。トニックウォーターも備え付けられているので、ウィスキーソーダやジントニックを作ることもできる。グラスもちゃんとしているものなのがうれしい。
お夜食にルマンドとカントリーマアムもある。アルコールが苦手な人は、紅茶とお菓子でのんびりしてもいい。
私は紅茶、夫はウイスキーをロックで。暖炉のそばでくつろいでいると、サービスで軽食をいただいた。
本来なら17時半までのバータイムに使える無料引換券があったのだけれど、到着した時はちょうど閉まるタイミングで使うのを諦めていたのだった。まさかこうして気にかけてもらえるとは思わずありがたい。
バータイムを満喫した後は部屋へと戻る。
部屋に帰るとすでに布団が敷いてあった。この下のマットレス?が異様に気持ちよくて、ベットで寝ている感覚と全く遜色がなかった。
テーブルには利き酒セットが用意されていた。これはペアリングコース限定のサービスで、希望であれば到着と同時に出してもらうこともできる。チェックインの時に聞かれて夕食後にと答えていたもの、まさかこんなにちゃんとしたものが出てくるとは思わずびっくり。
特にこの手前の胡麻豆腐がとっても美味しかった。思ったより飲んでしまったのでお風呂は諦めて、明日の朝早起きして巡ることに。
すっかりいい気持ちになって、福島の夜は更けていった。