東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

干し鱈の滋味がしみわたるプゴクで朝食を 東銀座「たらちゃん」

最近ひとりで朝食を食べることにハマっている。感染リスクが少なくて、静かに美味しいご飯を食べられる場所を探した結果、早朝の人がいない時間帯のお店に行って、黙々と朝ごはんを食べるのがいい気晴らしになることに気がついた。

最近気に入っているお店のひとつに東銀座の「たらちゃん」がある。韓国料理のプゴクを専門に扱うお店で、名前の由来はメインに使われてる干し鱈からきている。チャキチャキとした店主が切り盛りするお店は、カウンターが4席とソファ席が2箇所で構成されていて、そのこぢんまりとした雰囲気が落ち着く。気がつけばその居心地の良さに何回か足を運んでいた。

お店は東銀座駅のA7出口を出てから、歩いて約3分くらいの場所にある。以前焼き鳥屋だった場所をリノベーションして作られたらしく、素朴な店構えがかわいらしい。大きく窓をあしらった入口は、韓屋を思い出すようなあたたかみのある造りが印象的だ。お店に入ると左手にあるキャッシュレス専用の機械があるので、まずはそこで注文してから席につくシステムになっている。

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お店のメニューはプゴクの定食(1,100円)のみ。確か交通系電子マネーとPaypayは確実に使えたはず。券売機でチケットを受け取ったら、それをカウンターにいる店員さんに渡して空いている席につく。運が良ければソファ席が空いているので、誰かと来るときはそこを利用してもいい。この日は老夫婦がソファ席に座っていて、「とても懐かしい」「こういうのが食べられるなんてね」と会話していた。仲睦まじい様子が微笑ましい。

一人の人や、直接料理を作っているところを見たい人はカウンター席がおすすめだ。一枚板のカウンターにはとうもろこし茶がポットで置かれているので、そこから各自空いているグラスにセルフサービスで注ぐ。席について5分もしないうちに、目の前に定食が運ばれてきた。

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真ん中に置かれたスープがお店の名物プゴクだ。干し鱈を戻した出汁と共にスープにしたもので、いい香りがふんわりと漂ってくる。それ以外に左から大根の水キムチとアミの塩辛、ネギのキムチと白菜のキムチ、そして炊き立ての白米がよそわれてくる。白米はフードロスを考慮して少なめにされている。小食にとってはありがたい。もちろん「もっといけます!」という元気な人は、無料でおかわりもできるので安心してほしい。ネギのキムチも白菜のキムチもセルフサービスで、食べられる分だけ小皿に盛り付けることができる。こちらもおかわり可能。卓上にキムチが漬かった箱が用意されているので、そこから各自取り分ける寸法だ。

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なんと言ってもこのプゴクがとっても美味しい。注文が入ってから仕上げられたスープは卵がふわふわで、出汁と馴染んでまろやかだ。干した鱈は噛めば噛むほど甘味がじんわりと感じられる。塩分が控えめなので食べ飽きることもない。朝起きて、お腹がペコペコの状態に優しく染み渡るおいしさ。この日、隣の席の男性がスープを一口飲んだ後「うめぇ〜」と呟いていたのが印象的だった。
もし味を変えたくなった時は、運ばれてきたアミの塩辛を足して調整することもできる。アミの出汁と塩気が加わることで、スープの旨味がより重層的になる。ぜひ試してもらいたい食べ方だ。

ちなみにこのプゴクは二日酔いにもいいらしい。確かにベロベロなるまで飲んで起きた朝に、このスープを飲んだら生き返りそうな気がする。またタンパク質が豊富かつ脂質は少なめなので、食事制限中の人にもおすすめしたい。興味を持ったらぜひ訪れてみてほしい。一日の始まりに滋味深いプゴクを飲むと、なんだかとってもいい日になる気がする。

Information
店名:たらちゃん
住所:東京都中央区銀座3-13-5鈴木ビル1階
営業時間:7:00〜14:00(スープ売り切れ次第閉店)
URL:https://www.instagram.com/tarapugok/
備考:店内はキャッシュレス決済のみ

 

2021年度 振り返り

新年快楽。毎年1月は正月というイベントをこなすのに必死なためか、2月に入ってからのほうが年明けを実感する。中国にルーツのある同僚たちが次々と休み始め、社内に冬休みムードが漂うのもそう感じさせる一因かもしれない。今年度の仕事も見通しがついてきたので、2021年度の仕事と生活について振り返っていきたい。

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・仕事について

 マネジメントに積極的に関わるようになった1年だった。この数年で教育を担当した新人たちには「あなたはこの会社で働く上でのナレッジがないだけで、スキルで言えば私より遥かに優秀なので、私と踏み台にしてステップアップしていってください」と言っている。これは本心。なりたいマネジメント像としては少し方向性が変わってきて、自分の弱さを開示しつつ、とるべき責任は取れるマネージャーになりたいと思うようになってきた。そうしたマネージャーがいるチームは人間関係が良い。特にテレワークで働くようになってから、チームにおいて他者に弱さをさらけだせる安心感があることは大事だと思う機会が増えた。

仕事には概ね満足しているものの、社内の意思決定をする層に感じることが増えてきたのがもどかしい。中堅社員が次々と転職していく理由もなんとなくだが察している。ショックを受けても仕方ないのでタフにやっていくしかない。何より怖いのは自分もそうした上司になるのではないか、という不安があることだ。上に行けばいくほど誰も指摘しなくなり、権力があることに無自覚になってしまうのが怖い。僕たちはアサーティブですよ、というポジションをとり、大事なのはダイバーシティだよねと言いながら、何も見えていない彼らに足がすくむ。今は生意気なことばかり言えているけれど、それは私がよそ者だからで、彼らの中に入ったらそうはいかないのだろう。

まだ子供を持つ予定はないけれど、思い切って社内のワーキングマザー向けの集まりにも顔を出すようにしたのはよかった。今の仕事を続けて子供を持つのは正直無理だなと思っていたけれど、先輩社員たちのワークライフバランスの話を聞くことで少しずつ見方が変わってきた。保活、子育てしやすい場所、生まれてからの働き方。彼女たちが社内で密かに共有していたというナレッジシートの存在を知った。

以前ワーキングマザーの先輩に出産後のキャリアが不安で仕方ないと言う話をしたときに、頭の中で考えてばかりだと不安ばっかり膨らんじゃうから、生の声を聞ける場所においでよと誘われたのがきっかけだったのだけど、本当にそうだったと思う。割と私は頭でっかちになって勝手に苦しむところがあるので、これからも悩んだら誰かに相談したり行動するようにしていきたい。でも本当は何も気にせずぽーんと産んで育てられたらいいのにね。子供を産むという決断をするのは、社会に対してはもちろん、自分に対しての信頼がなければできないと感じる。

・生活について

同棲して3年目、日々すこやかに生活している。生活の中に散りばめられた小さな不満も楽しみも、そして感傷も等しくいいものだ。今年は公私ともに大変なことが多かったせいか、例年よりもふたりで日々を乗り越えてきたという実感がある。相手が信頼に足る存在で居続けようとしてくれることがありがたい。彼を自分の都合のいいように見ていないだろうか、刻一刻と変化する内面を知ろうとできているだろうかと内省しつつ、これからも良い関係を築いていきたい。

会えないながらも友人たちには支えられていたように思う。皆たくましく生きている。海外の大学院に進学した友人や、移住した友人の話には影響を受けて、東京以外に住むことも考えるようになった。遠方に住む友人とはお菓子を送りあい、自粛期間を励ましあっていた。私にとって東京のお菓子はいつの間にかウエストの焼き菓子になっていることに気づく。結婚をした報告もちらほらあった。姓を変える友人には、私が結婚したときに作った変更手続きのフローチャートを送った。離婚した友人もいた。どんなライフイベントがあったとしても、大袈裟に反応せず、相手の門出にただ寄り添いたい。中には思想が真逆の友人もいるけれど、それ自体が友人関係をやめる理由にはならないと感じている。遠ざかって線引きするより言葉を交わし続けたい。あるいは余白の期間を設けることで、また築けるものもあるだろう。

SNSは全く更新しなくなった。リアルタイムで言いたいことがない。今は白紙にのびのびと文字を書いては消しを繰り返し、自分の言葉を掘っていくことができるインターネットに居心地の良さを感じている。考えや見たこと、感じたことを文字にしたいという欲求が人より強いので、ブログでの発信は続けているけれど、それを広く伝播させたいという欲求はない。共感されたいわけでもなく、わかって欲しいわけでもない。ただそういう人間がいることを書き残したい。

感染症については絶えず思うところがあるものの、中でも特にショックだったのが千葉県で感染した妊婦を受け入れられる病院がなく、お腹の子が亡くなってしまったことだった。このことについては夫ともたくさん話をした。周囲のワーキングマザーに話をすると、みんなこのニュースを知っていて、その痛ましさを共有するだけで少し救われるものがあった。

芸能人や小説家などの著名人の訃報を聞いて、ショックを受けることも少なくなかった。自分が身近に感じていた人が、パタパタと亡くなっていく年齢になったということなのだろう。中でも山本文緒さんが亡くなられたのは本当に悲しくて、いまだに心の整理がつかない。中学生のころブックオフでタイトルに惹かれて手にとった『絶対泣かない』で夢中になり、『みんないってしまう』で確信を深め、さらに長編の『あなたには帰る家がある』や『ブルーもしくはブルー』でその魅力の虜になったこと。今でも新鮮な気持ちで思い出す。

一方で、今まで読んでもぴんとこなかった小説を読み返すと理解できるようになっていて、過ぎていった月日がギフトとして訪れることを知った。最近読んだ夏目漱石の『思い出すことなど』にあった、次の言葉が忘れられない。

考えると余が無事に東京まで帰れたのは天幸である。こうなるのが当り前のように思うのは、いまだに生きているからの悪度胸に過ぎない。生き延びた自分だけを頭に置かずに、命の綱を踏み外した人の有様も思い浮かべて、幸福な自分とてらし合わせて見ないと、ありがたさも分らない、人の気の毒さも分らない。

最近は明治から大正にかけて存在した作家たちに関心があって、彼らの本を読んでいる。小学生の頃に読んだきりにしていた『吾輩は猫である』も2022年のうちに読み返したい。

こうして人となるべく会わない生活の中で趣味を見つけようとすると、自然と学生の頃のような暮らしに回帰していくことを感じる。好きな作家の本を読み、ラジオや音楽を聞く生活。先日ラジオでスクールオブロックが聞こえてきた時は、その懐かしさに卒倒するかと思った。高校生の頃はフィッツジェラルドヘミングウェイ、三島に寺山修司が好きだった。新潮文庫を読んで集めたyonda?シリーズのグッズは今どこにあったっけ。

歌もまた昔から好きだった音楽を聴きたくなるフェーズのようだ。スティービー・ワンダーローリン・ヒルエイミー・ワインハウスにコモン、ロバート・グラスパーとプリンス、それからアレサ・フランクリン。何よりディアンジェロをよく聞いた1年だった。聞けば聞くほどディアンジェロの、特にクエストラブのドラムが格好よすぎて、とうとう自分でも演奏してみるようになった。今は夫に教わりながらドラムの勉強をしている。いつか彼が弾くギターと一緒にセッションできるようになりたい。

映画は色々見たにもかかわらず、あまり記憶に残るものがなかった。面白くなかったというよりは自分のチューニングの問題だと思う。その中でもスパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームは心に残った映画だった。オープニングで流れていた"I Zimbra"はアメリカンユートピアでも演奏されていたトーキングヘッズの曲。曲のテーマは、人生に意味を求めるな。大義を為そうとするより目の前の生活を愛せってこと?と思っていたら、ラストでそういうことかと納得した。
メタバースのどこかにはアフリカ系アメリカ人スパイダーマンがいるかもね、という意味の台詞にはいままでこの作品を見て傷ついてきた子どもたちへの配慮を感じたし、ディズニーの資本が入ってからも、内省をエンタメとして提供できるマーベルでい続けてくれたことがうれしい。同じ年にクルエラを見て、女性の扱われ方にため息をついたので余計にそう感じたのかもしれない。二人がFace Timeで通話するのも今の恋人らしくて超かわいかったな。何よりあの絆創膏を見つめるシーンは素晴らしかった。

振り返ると、生活の中に小さな楽しみを見つけながらつないでいった1年だったように思う。来年度はどんな年になるだろう。そろそろ自分のことばかりに集中せず、その時が来たら若い人たちにも引導を渡していける大人になりたい。かと言って誰かのためにばかり動いて自分がどうしたいか見失うのも避けたい。自分の中の揺らぎをチューニングしながら、アンコントローラブルな身体を受け入れつつ生きていこう。

そして周囲の人への感謝を忘れず、人と関わることをより大切にして生きていきたい。それは私の半径2メートル以内のコミュニティだけでなく、普段は関わらないがこうして生活の一部になっている人たちに対しても。

冬の福島旅#4 猪苗代湖のしぶき氷と真冬の鶴ヶ城

流石に朝から湯巡りをしすぎたせいで湯疲れしてしまったので、運転は夫にバトンタッチ。助手席でうとうとしていると、いつの間にか道の駅猪苗代についていた。

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食べたのは喜多方ラーメン。以前この道の駅でお蕎麦を食べた時も思ったけれど、いちいち食事が美味しい。付き合いたての頃、夫に「喜多方市内で食べる喜多方ラーメン以外は喜多方ラーメンじゃない」といってから「これは喜多方ラーメンですか」とチェックされるようになってしまったのだけれど(でも本当にそうだと思う)ここのラーメンは結構いい線をいっていたと思う。懐かしいあっさりとした味で、身体がポカポカとあたたまった。

Information

店名:道の駅猪苗代
住所:福島県取麻郡猪苗代町大字堅田字五百苅1番地
URL:http://www.michinoeki-inawashiro.co.jp

道の駅を出た後は、夫のリクエストで天神浜へと向かう。この時期にしか見れない「しぶき氷」が見たいらしい。

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天神浜の駐車場に車をとめると、スノーポールに起き上がり小法師を模したカラーコーンがひっかけてあった。ほっぺたが赤くてかわいい。

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そのまま林の中を湖を目指して歩いていく。日光が木々に遮られて届かないので、人が通って踏み固められた道はそのままアイスバーンになっていた。

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一応ビブラムソールのウィンターブーツを履いていったものの、それでも何回かつるつると滑った。祖父ならこういう時でもポケットに手を突っ込んだままサクサク歩いていけるのに、と思いつつ不器用なペンギンのようにのろのろと進む。

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途中、雪原には誰かが作った雪だるまがあって癒された。ここなら冬のあいだはずっと溶けないから、わびしくなくていい。

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意外にも川の水は凍らずにとうとうと流れ続けていた。確かこういう時は水のほうがあたたかいんだっけか…と思いつつ、触る勇気は出なかった。

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どんどん手足が冷えてきて、わずかな陽のひかりさえありがたくなってくる。徐々に林の木々がまばらになってきて、もうすぐ湖が近いことに気がつく。そのまま進むと目の前が一気に開けてきた。

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ついた!猪苗代湖だ!湖越しにはゆうゆうとした磐梯山が見える。山の方から風が吹いてきて気持ちがいい。いい眺めだなぁ。

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周りを見渡すと立派なしぶき氷があちこちにあり、自然が造りだす彫刻の美しさにため息が出る。

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このしぶき氷は、西からくる強風によって猪苗代湖の湖水が木の枝や岸辺に付着し、そのまま凍ったことで生まれる自然現象らしい。隣でちびっこが「エルサのお城だ!」とよろこんでいて微笑ましかった。

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木々に付着したしぶき氷も迫力があって凛々しいけれど、私は岸辺やブロックに付着したしぶき氷も趣があって好きだ。細やかなレースカーテンのように垂れ下がった氷柱の群生が生き物のようで可愛らしい。

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しかしこの猪苗代湖の壮麗なこと!ちょうど陽が落ちはじめてきた頃で、一刻ごとに水面の表情が変わっていくのが印象的だった。

最後にもう一度しぶき氷と磐梯山、そして猪苗代湖を目に焼き付ける。

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ちなみにこの湖の近くにはキャンプ場もあって、この日も静かにキャンプを楽しんでいる人たちを何人か見かけた。テントやロッジだけでなく貸し別荘もやっているそうなので、のんびり散策したい時には泊まるのも楽しいかもしれない。行きたいところ、泊まりたいところばかり増えてしまうな。

さて、本来なら帰宅する予定だったものの、夫の希望で雪の鶴ヶ城を見てから帰ることに。そのまま車に乗り込んで、天神浜から鶴ヶ城へと車を走らせる。

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2年ぶりの鶴ヶ城は思い出よりずっと小さく見えた。西側の城を見てから改めて鶴ヶ城を見ると、会津藩の財政は決して豊かではなかったことに気づく。坂道が凍っていて、滑りそうになりながら一生懸命登った。

坂を登りきると、見知らぬおじさんが近づいてきたのでなんだろうと思っていると「あの、ふくろうに興味ありませんか」と声をかけられた。予想外の声かけに驚いて話を聞くと、近くの林の中に梟がいるらしい。せっかくなので案内してもらうことにした。

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この中央の木の、二股に分かれている部分に梟はいるという。目を凝らしてしばらくすると、どこにいるかがわかってきた。

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この写真ならわかりやすいだろうか。ふわふわの梟が枝にとまっている!くりくりとした目元が愛おしい。うわー、初めて見ました!とおじさんに言うと、とても嬉しそうだった。なんという種類の梟なのだろう?願わくばお腹の部分に顔をうずめたい。時間が許せばずっと見ていたいくらいかわいかった。この他にも城の近くでは季節ごとに様々な野鳥が観察できるらしい。

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うっかり梟に時間をさきすぎてしまって、気がつくと最終入場時間の5分前になっていた。気がつかずに歩いていると、入り口にいたお姉さんが「もしお城の中を見られるなら、まだ受付に間に合いますよ」と声をかけてくれた。ありがとうございます、でも今日は外だけ見ていこうと思って、というと「そうなんですね、次回お時間があればぜひ」と微笑まれた。さっきのおじさんといい、お姉さんといい、会津の人は優しい。

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雪の鶴ヶ城は漆喰の色と相まって、冴えざえとした白さだった。名前の効果もあって、真っ白な鳥が羽ばたいているようだ。

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場内は一面の雪景色。これからもっと雪深くなっていくのだそう。何度も雪に足を取られながらえっちらおっちらと歩く。

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場内の広場は開放してあって、昼間は子供が遊びにくることもあるらしい。私も小さな雪だるまをこっそり作っておいた。今頃雪に埋れてしまっているだろうか。

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帰りに振り返るとちょうどライトアップが始まった頃で、桜色に染まっていく鶴ヶ城がみえた。去年も一昨年も福島で春を過ごすことが叶わなかったので、かみさまがごほうびに見せてくれたのかもしれない。しかし何年東京で過ごしても、やっぱり福島の春が恋しい。

今年は福島で桜を見れますようにと祈りながら、郷愁を断ち切るように東京へと車を走らせた。

冬の福島旅#3 安達屋旅館のすばらしい朝食とプチ湯巡り

朝起きると時刻は6時。貸切内湯の「ひめさ湯り」の開放時間は6時45分まで。空いていますようにと祈りながら急いで内湯に向かう。入り口にたどり着いて、空いていることを示す札がかかっているのを確認し、ノックして誰も入っていないことを確かめる。札を入浴中に返すと、扉の鍵を閉めていそいそと着替えた。

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脱衣所にはヒーターがあってあたたかい。ドライヤーは部屋にあるものと同じ。アメニティは綿棒やコットン以外は一通り揃っている。

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洗い場は1つのみのこぢんまりとしたかわいらしい内湯。家族風呂というよりは、ひとりないし二人連れで使うのにちょうどいい広さ。シャワーヘッドはやや古いものなので、こだわりがある人は大浴場のほうがいいかもしれない。シャンプーやボディソープなどは大浴場と同じもの。

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湯船は小さいながらもしっかりとした深さがあって、首までどっぷりつかることができた。目の前が雪景色なのもいい。身を乗り出すと遠くの福島の街並みまで見えて、予想より展望がいいのもうれしいポイントだった。まだ薄暗い時間からお湯に浸かり、少しずつ白んでいく空を見ながらぼーっとする贅沢さ。

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お風呂から上がった後は無性に麦茶が飲みたくなったのでラウンジへ。キンキンに冷えた麦茶がとても美味しく感じる。

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そのまま夫を起こすために部屋に戻ると、山の向こうから朝日が昇ってきていい眺めだった。氷柱に太陽のあかりが反射してキラキラときらめく。

まだ朝食までは時間があるので、そのまま夫を起こして一緒に大気の湯へ。

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女湯から見えるミルキーブルーのお湯と赤くなっていく空のコントラストがいい。脱衣所に戻り、バスタオルをきっちりと巻いていざ朝の大気の湯へ。女性専用時間では無いので念のため夫に入り口近くの寝湯で待っていてもらったのだけれど、結局私と夫以外には誰も来なくてラッキーだった。朝の大気の湯は夜とはまた違った趣があり、とても気持ちがいい。

そろそろのぼせてきたねと出ようとしたタイミングで、女湯の方から様子を伺っているおばさん二人組と目があい、男の人いる?入っていい?とジェスチャー混じりに聞かれたので「私たち以外いませんよ、今混浴の時間帯なので入って大丈夫です」と説明する。それじゃあと入ってきた二人に会釈して先に出ていき、女湯側の寝湯で少し体を冷ますことにした。頭の際までぬるめのお湯に浸かる。小鳥のさえずりが聞こえ、思わずまどろみそうになってしまった。

そうこうしているうちにあっという間に朝食の時間になり、急いで会場へと向かう。

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朝食会場はライブラリーを併設したダイニング。写真では暗めに写っているけれど、実際は自然の明かりを取り込んだ気持ちのいい空間だった。ライブラリーにある書籍のラインナップもとてもいい。

ダイニングには大きな暖炉があって、薪がパチパチと音を立てていた。

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食後にいろんな人が入れ替わり立ち代わり暖炉前のソファでくつろいでいる姿を見て「わ、わかる…」と親近感を抱くなど。

ちなみに本来の朝食はバイキング形式らしいのだけれど、感染症対策のためにお重形式にしているとのことだった。ずぼらな性格なのでこっちで得した気分。

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木箱の中には冷奴とほうれん草のお浸し、お刺身に香の物、ローストビーフに小さな粉吹き芋、厚焼き卵に山葵漬け、そして鮭の幽庵焼き。サラダにはフレンチドレッシングかごまドレッシングが選べる。

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右手の小鍋には穴子柳川鍋が準備されていて、自分で卵を溶いて作るようになっている。お米は昨晩と同じ県産コシヒカリ、それからお味噌汁。甘味はオレンジジュースとマンゴーソースにグラノーラのヨーグルト。朝からとっても豪勢だ。

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もしお腹に余裕があれば、自家製の手作りパンをトースターで温めて食べることもできる。確かパンは丸いミルクパンとデニッシュ、クロワッサンの3種類だったはず。ジャムはなんと6種類。

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地元の農園が作ったというこのジャムがどうしても食べたくて、パンを1つだけいただいた。苺とラフランスとさくらんぼ。お皿のふちに並べたジャムがキラキラして可愛い。どれもフレッシュで美味しいジャムだった。

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他にもセルフサービスでコーヒーや紅茶をいただくこともできる。時間で入れ替え制ではあるものの、だいぶゆっくりできて嬉しかった。

食事のあとはいったん部屋に戻ってゴロゴロする。貸切露天が10時から予約できたので、時間までのんびりした。

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さて、時間になったのでこの旅で最後の湯浴みをしに貸切露天「薬師の湯」へ。フロントで部屋名を告げ、鍵を受け取っていざ出発。

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扉を開けると一面の雪景色。下駄、もしくは長靴を選んで向かう。この時下駄をチョイスしたものの、帰りの坂道を登るのにツルツル滑って脱げて笑ってしまった。思わぬハプニングも旅ならいい思い出。

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温泉の入り口には茅葺屋根の門があって、いかにも秘湯という風情。苔に積もった雪がいい。門をくぐってもう少し歩く。

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夏になるとこのあたりには水芭蕉が咲くらしい。水がきれいという証拠なんだろうな。

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そうしてついたのが薬師の湯。今回私たちが利用したのは二の湯のほう。元は一の湯が男湯、二の湯が女湯として使われていたらしい。

扉を開けると脱衣所があり、そこからは広々とした露天風呂が見えた。ちなみに冬季は凍結防止のためシャンプー類はなし。

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湯船は大人が4人は余裕で入れるくらいの大きさ。これを貸切なんて贅沢!

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見てほしい、この美しいブルーと水面に反射する太陽の光を。二人だけなので、浴槽の縁を枕がわりにして、両手足を広げてとっぷりと最後の湯浴みを満喫した。

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湯気が朝日に照らされてお湯の上をふわりと滑っていく様子が幻想的。ずっとこれを眺めていたい。

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風呂からは隣接する山の斜面が見えた。ゆきうさぎがいそうだね、と話しながら最後までのんびりと雪見露天を楽しんだ。

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部屋に戻るとだいぶ日が昇っていて、雪が反射して眩しい。チェックアウトの11時近くなったので、部屋を出てフロントへ。

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外に出ても全く身体が冷えず、身体からはまだ硫黄の香りがする。肌もびっくりするくらいツルツルになっていた。あぁ、本当にいい湯治体験だった。

余談だけど、今回女性専用時間の時に事前に「大気の湯」の構造を知れたのはとてもよかった。行ってみて気がついたけれど、身体を隠せるくらい深い場所に行くまではしばらく浅い場所を歩いて行かなくてはならず、ぶっつけで混浴の時間帯に行ったら動揺していたと思う。

一応旅館では混浴用にバスタオルの貸し出しをしてくれているものの、身体のラインはがっつり出るし心もとないので、正直混浴のハードルは高いと感じた。そして女性専用時間が18時から21時までというのも、食事の時間と丸かぶりでつらかったな。リピーターが根強そうな宿だったので急に変えるのは難しいのかもしれないけれど、色々な人に長く愛され続けてほしいので、見直してもらえたらいいなぁと思う。

それ以外は食事も頑張っているし、清潔感もあるし、ロケーションもお湯もサービスもいいし、駅からの送迎もあるので総じて考えるとかなり満足度の高い宿だった。風情ある湯治を楽しみたい人、日常の疲れを忘れて温泉に没頭したい人、温泉に入ってすべすべ以上のつべつべ肌になりたい人はきっとハマるはず。

次は家族も連れてきてあげたいなと思いながら、次の目的地を目指した。

Information

宿名:安達屋旅館
住所:福島県福島市町庭坂字高湯21
URL:http://www.adachiya.jp/access/index.html
備考:日帰り温浴あり、小学生以下の児童は利用不可(2022/2/3時点)

#4に続く

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冬の福島旅#2  安達屋旅館で旅の疲れを癒す

用事を済ませ、宿に着いたのは夕方をとっくに過ぎた頃。あわててチェックインへと急ぐ。

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慌てすぎて旅館の正面写真を取り忘れ。翌朝出ていく時に撮影した。

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エントランスに入ると正面に生花が飾られてあった。お花の存在に少し落ち着く。

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向かって左手がフロント。チェックインのピークタイムを過ぎていたこともあり、誰もいなかったので受付にある小さなベルを鳴らしてお願いした。

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受付が終わった後は、ロビー脇のラウンジに案内され、ウェルカムドリンクとして抹茶とひとくちサイズの羊羹でもてなされた。冷えた体に薄茶と囲炉裏のあたたかさが滲みる。そのままラウンジで館内の説明を受け、今回泊まる部屋へと案内された。

今回泊まるのはいわかがみという8畳の和室。ギリギリになっての予約だったのでここしか空いていなかったのだけれど、空きがあればベッドタイプの部屋も案内できるのだそう。とはいえ旅館の敷き布団は久しぶりなのでちょっとワクワク。

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部屋に入って右手には独立洗面台。左隣にはウォシュレット付きのお手洗い。

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洗面台にはハンドソープはもちろん、クレンジングと洗顔、化粧水と乳液、それから消毒液も完備されていて至れり尽せり。

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部屋に上がって左手にある棚にはシャワーキャップとコットンと綿棒、ヘアブラシと歯ブラシ、そしてシェーバーが用意されていた。ヘアゴムがない以外は過不足ないアメニティだなという印象。

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部屋に備え付けてあるドライヤーはテスコムナチュラム

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それからマイスリッパ用のクリップも。大浴場に行くと自分が履いてきたスリッパがなくなっていたり、どこに置いたかわからなくなるのでこれは嬉しい。

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部屋に入ると予想していたよりモダンなレイアウトでびっくり。ソファもあるしリクライニングチェアもある!温泉旅館によくある座椅子と座卓の組み合わせを想定していたので、部屋を間違えていないかソワソワしてしまった。ちなみに部屋の窓は二重になっていて全く寒くない。

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ここで本を読むのが本当にしあわせだったなぁ。

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机の上にはウェルカムスイーツ。ルレーヴという福島市内にあるドライフルーツ専門店のものらしく、これがとっても美味しかった。

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部屋にはテレビ、加湿器、ファンヒーターに冷蔵庫、金庫など必要なものは一通り揃っている。特に加湿器があるのが嬉しい。

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テレビ台の下には電源タップがあるのも嬉しいポイント。カメラやPC、スマートフォンなど充電するものが多いので、こういう気遣いはとても助かる。部屋にはフリーWiFiも飛んでいるので、軽い仕事(軽い仕事とは?)もできた。

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ファンヒーターの上にあるクローゼットには浴衣と羽織り、それからはんてんも。他には湯足袋に藤の籠でできた温泉セットがあり、温泉セットの中にはバスタオルとフェイスタオルが入っていた。

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冷蔵庫の上には緑茶と湯呑み。緑茶がティーバックタイプのせいか、茶こぼしは無かったので、滞在中は下段にあるゴミ箱に直接茶葉を捨てていた。隣にはマスクケースも備え付けられていた。

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それからミネラルウォーターが1本ずつ。感染症予防の観点から冷蔵庫内にお酒はないものの、ルームサービスで頼めば運んできてもらえるので、お部屋でのんびりお酒を楽しみたい人はそちらの利用がお勧め。

結構このルームサービスが充実していて、ワインやシャンパンに軽食もあり、日本酒は写樂や大七などの福島の有名どころの地酒が揃っていた。これを機に福島の酒が知りたいな、という人にはとてもハマると思う。逆に福島の酒は一通り知っていて、ニッチなものも知りたい人にはちょっと物足りないかもしれない。15時から17時半までは館内にあるクラシックラウンジでもお酒を楽しめるので、もちろんそこを使ってもいい。

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窓の外は雪景色。氷柱に光が反射してきれいだった。東京の部屋から見える景色とは全く違う光景がうれしくて、しばらくぼーっと眺めてしまう。この景色をずっと眺めていたくて、結局この日はカーテンを閉めずに眠った。

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一通り部屋を散策して満足したあとは、とりあえずお茶を淹れてウェルカムスイーツで一息つくことに。お茶を飲みながら、夫と滞在中の湯巡りについて計画を立てる。というのも、この安達屋旅館にはかけ流し大露天風呂(混浴だが18時から21時までは女性専用時間あり)の「大気の湯」と貸切露天の「薬師の湯」、男女別の内湯「不動の湯」と「姫の湯」に、貸切内湯の「ひめさ湯り」の合計5つのお風呂があるのだ。

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部屋にあるタイムチャートを見て、今回は夕食前に女性専用時間中の大気の湯に入り、夕食後は姫の湯、朝起きたらひめさ湯りに浸かって、朝の大気の湯をもう一度堪能し、朝食後は薬師の湯に入ることに決めた。もはや館内だけでプチ湯めぐりができる。

そうと決まったら早速大気の湯へ。夕食までの1時間、思う存分温泉を体感したい!

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1階のラウンジを通り過ぎて階段をのぼると案内板が見えた。そのまま脇目もふらず一目散に温泉へと向かう。

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廊下には福島の民芸品が慎ましやかに飾られているのもよかった。赤べこを模したこの木彫りの民芸品が可愛らしくて思わずシャッターを切る。

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廊下の突き当たりを右に曲がると、やっと温泉に向かう階段が見えた。温泉へと向かう階段の前にはこのような休憩スペースがあって、待ち合わせにちょうどいい。

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休憩スペースにはレモン水もあった。うれしい心遣い。のぼせた身体に染み渡るレモン水はさっぱりとしていくらでも飲めてしまう美味しさだった。近くには利用者向けに消毒液も備え付けられている。

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はやる気持ちを抑えてやっと温泉へ。すでに硫黄の香りが漂ってきてワクワクする。夫と後でね!と言葉を交わし、いざ中へ。

※以下、撮影許可をとって写真に収めています。

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女湯の入り口には簡易的な化粧台があり、ドライヤーやアメニティなどが揃っていた。感染症対策のためにあえてこうしているのかなという印象。

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大浴場のドライヤーはKOIZUMIのもの。

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洗面台は2箇所あり、ドライヤーは右側にのみ備え付けられていた。

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左側には綿棒にコットン、それから個室と同じスキンケアが揃っている。

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脱衣所はファンヒーターで暖められていて全く寒さを感じなかった。休憩用のベンチがあるのも嬉しい。脱衣所は籠のみで、貴重品用のロッカーなどはないのでそこだけご注意を。

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洗い場は4つ。シャンプー、トリートメント、ボディソープと洗顔が備え付けられていて充実している。シャンプーはKOSEのジュレーム。ノンシリコンのシャンプーをこうした旅館で見ると思わなかったのでびっくり。シャワーヘッドも新しいもので肌あたりがよかった。

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洗い場の真後ろには女性専用の内湯「姫の湯」があり、じゃぶじゃぶとお湯が流れていく。こんなにたくさんの湯を掛け流しにできるなんて、なんて贅沢なんだろう。お湯が出る場所には湯の花の結晶ができていた。

ちなみにこの姫の湯、向かって右側には段差があるものの、左側には段差がなくざぶんと入ることになるので足の悪い方は気をつけたほうがいいかもしれない。

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一応姫の湯からも外の景色は眺めることができる。この左手に露天風呂への入り口があり、その扉を開けて女性専用露天から大気の湯に向かう導線になっている。

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夜の女性の露天風呂はこんな感じ。いかにも湯治という雰囲気。手前が深めの露天風呂で、奥が寝湯になっている。

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奥の寝湯からさらに先に進むと大気の湯につながる道があり、一枚の扉を隔てて出入りできるようになっていた。女性専用時間とはいえ、不安な人はフロントで混浴用にバスタオルを1枚借りることができるので、それを巻いていくのがおすすめ。

空色の温泉!福島・高湯温泉「安達屋旅館」の30m混浴露天が気持ちいい!

※この写真のみトラベル.jpよりお借りしています。

ちなみに女湯からみた混浴の導線ついて説明すると、まずこの写真の手前右手にある場所が女湯につながる扉を出たところになる。大体くるぶしの深さくらい。次にそこから膝くらいの浅さを進んで右手に寝湯、打たせ湯、洞窟湯を横目に進むと、最後に一番奥にある深めの露天にたどり着く。

混浴エリアではあるけれど、女性専用時間ということもあって安心してのびのび使うことができた。真っ暗な中、照明に照らされた湯気がお湯の上を滑っていく幻想的な光景に思わず声が漏れる。上を見上げると満点の星空。肩までどっぷりお湯につかりながら樹々のざわめきや雪が落ちる音、温泉がこんこんと湧き出る音を聞いていると、心がほぐれていくようだった。もはや露天というより野天に近く、開放感が素晴らしい。人生で3本の指に入る露天体験だった。

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ちなみに男性の脱衣所はこんな感じなのだそう。(撮影は夫)

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洗面所にはシェーバーや綿棒、化粧水と乳液などのアメニティはあるものの、クレンジングや洗顔、コットンなどはないので必要な人は持参するか部屋にあるものを使ったほうがよさそう。

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男湯は脱衣所から直接大気の湯に出る作りになっているらしく、女性専用時間はこのようになっていたらしい。

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女湯の内湯は木のつくりだったけれど、男湯の内湯は石造りなんだそう。こちらもお湯がじゃぶじゃぶ出ているので、床は全く冷たくなかったらしい。

すっかり身も心も柔らかくなってお風呂から上がり、先に休憩所にいた夫と合流した後はロビーラウンジへ。

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ちょうど夕飯時だからか誰もいなくて広々。間接照明の明かりが柔らかくていい。

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ロビーラウンジにはコーヒーマシンもあって、宿泊客は自由に飲むことができる。メニューはグアテマラにフレンチロースト、それから安達屋ブレンドで、そのほかにカプチーノやマキアートにも対応している。

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もちろんコーヒーが苦手な人には麦茶や紅茶も選べるようになっている。紅茶の茶葉がアーマッドティーなのにもびっくりした。ちょっといい紅茶があるだけで好感度が上がる。

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せっかくなので紅茶を淹れて、暖炉の前で少し休んでいくことに。夫に「大気の湯、すごいよかったよ」というと「でしょ、最高にチルでしょ」と返され、そうそうチルかったよと笑った。

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ちなみに廊下を挟んでロビーラウンジの向かいにある喫煙所はこんな感じ。こちらにも小さいながら囲炉裏があって素敵だった。

のんびりしているうちに夕食の時間が近づいてきたので、一度部屋に戻って荷物を置いてから夕食会場へ。

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夕食会場の席はすだれで仕切られた半個室になっている。目の前に囲炉裏があるのが楽しい。この日は日本酒ペアリングコースをお願いした。

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日本酒ペアリングコースは5杯の日本酒がメインの料理に合わせて提供される仕組み。甘味にもついてくるのが面白い。

一通り説明を受けた後は囲炉裏で食材を焼きつつ料理を待つ。この囲炉裏形式、見た目に楽しいのはもちろん料理が出てくる間のいい繋ぎにもなっていて、上手だなぁと感心した。

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里山の囲炉裏焼き 壱」の食材はニシンと菊芋、それから蕎麦がき。この中では蕎麦がきが一番印象的だった。

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ニシンはそのまま、蕎麦がきは左の白味噌、里芋は右の麹味噌につけて食べる。焼いた蕎麦がきは初めてだったけれど、あぶったところが香ばしくて、もちもちした食感がとてもよかった。

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続いて出されたのは奥の松のスパークリングと伊達鶏のポワレ。福島の伊達鶏は知名度は高く無いけれど、旨味が強くて歯応えがあって本当に美味しい。こうして土地のものが食べられるのはうれしい。

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続いて雲丹のローストビーフ巻きと鰤のカルパッチョ

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ペアリングは弥右衛門の純米辛口。グラスはリーデルのワイングラス。ドライで飲みやすく、グラスの口当たりの良さもあいまってスイスイいけてしまう。

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次に出てきたのは蕪と小松菜の餡をあしらった帆立真薯。昆布出汁が効いていて味わい深い。全体的に野菜より肉と魚がメインのコースだったので、野菜の存在にほっとする。

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続いて運ばれてきたのが「里山の囲炉裏焼き 弐」という鮎と伊達鶏、それからイカが刺さった串。これらを焼きながら次の料理を待つ。

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コースのメインは和牛ヒレ肉にカリフラワーのソースを添えたもの。付け合わせはクレソンとグリルしたネギ、それから蓮根。旬のカリフラワーを面白いやり方で味わえたのがうれしい。

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終盤は県産コシヒカリと香の物、それから冬の自然薯味噌鍋。ご飯はお変わり自由。ピカピカの白米を食べ、やっぱり福島の米は美味いなぁと頬がゆるむ。

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ちなみにこの自然薯味噌鍋は、コースの中で一番印象に残るくらい美味しかった。根っこも一緒に刻まれたセリと、団子状に丸められた自然薯、それからたくさんのきのこと野菜の出汁が溶け出したスープが滲みる。味噌も風味程度で良い。こってり味噌味の鍋を予想していたのでうれしい誤算だった。

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甘味はほうじ茶のブラマンジェ。通常甘味はラウンジで食べることも可能なのだけれど、感染症対策のため今はやっていないのだそう。最後までのんびりしたかったのでむしろそのほうがありがたい。

甘味を食べて一息ついていると、この後ラウンジがバータイムになっていてアルコールを用意してあるのでよかったらとのこと。せっかくなので軽く飲んでいくことに。

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ラウンジには先ほどの紅茶やコーヒーに加えてワインにジン、ウイスキーが並んでいた。トニックウォーターも備え付けられているので、ウィスキーソーダジントニックを作ることもできる。グラスもちゃんとしているものなのがうれしい。

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お夜食にルマンドとカントリーマアムもある。アルコールが苦手な人は、紅茶とお菓子でのんびりしてもいい。

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私は紅茶、夫はウイスキーをロックで。暖炉のそばでくつろいでいると、サービスで軽食をいただいた。

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本来なら17時半までのバータイムに使える無料引換券があったのだけれど、到着した時はちょうど閉まるタイミングで使うのを諦めていたのだった。まさかこうして気にかけてもらえるとは思わずありがたい。

バータイムを満喫した後は部屋へと戻る。

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部屋に帰るとすでに布団が敷いてあった。この下のマットレス?が異様に気持ちよくて、ベットで寝ている感覚と全く遜色がなかった。

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テーブルには利き酒セットが用意されていた。これはペアリングコース限定のサービスで、希望であれば到着と同時に出してもらうこともできる。チェックインの時に聞かれて夕食後にと答えていたもの、まさかこんなにちゃんとしたものが出てくるとは思わずびっくり。

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特にこの手前の胡麻豆腐がとっても美味しかった。思ったより飲んでしまったのでお風呂は諦めて、明日の朝早起きして巡ることに。

すっかりいい気持ちになって、福島の夜は更けていった。

 

#3に続く 

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冬の福島旅 #1  東北道を通って大内宿、只見線第一橋梁へ

やっと実家に帰省する目処がついた冬の日。それでもまだ家に泊まることは躊躇われたので、宿をとって久しぶりの故郷を散策することにした。周囲の目というよりも、家族の体調があまり良くなく、万が一のことを考えて。

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東京を朝の7時半に出て福島を目指す。首都高から東北道に入り、那須SAを過ぎたあたりから雪がちらほら降ってきて、あぁ帰ってきたなぁと感じる。東京から福島に向かう途中の、少しずつ家と家の感覚が広くなり、建物の高さが低くなって空が広がってゆく光景が好きだ。この景色を眺めていると、不思議と安心する。目的地までは距離があるので、途中白河にあるSHOZO SHIRAKAWAで休憩を挟むことにした。

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那須にあるSHOZO CAFEには何回か行ったことがあるものの、ここに来るのは初めてだった。ドリンクやフードメニューはオリジナルらしく、見たことがないものが沢山あった。

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この日頼んだのは苺のエクレアとカフェラテ。夫はドリップコーヒー。外のバルコニー席からは目の前の湖畔が一望できる。隣の席にはゴールデンレトリバーを連れたご家族がいて微笑ましかった。

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2時間近く車を運転していて少し疲れたので、糖分を補給して後半の運転に備える。苺の酸味に目が冴える。

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カフェラテにはラテアートが書かれてあって少し気恥ずかしかった。フォームミルクがふわふわで、少しだけ運転の疲れが紛れる。

Information
店名:SHOZO SHIRAKAWA
住所:福島県白河市南湖14 
URL:https://www.instagram.com/shozo_shirakawa/?hl=ja

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そのまま運転を続けて約1時間、目的地の大内宿に到着した。途中から雪が激しくなり、おそらくノーマルタイヤで来たであろう車が3台ほど立ち往生しているのを見た。

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2年ぶりの大内宿は人が少なく、雪が降る音が聞こえてくるくらい静かだった。疲れたのとお腹が減ったのとで、早速贔屓にしているお蕎麦屋さんへ向かう。

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あぁ懐かしい!この実家感。磨き上げられた柱と床、煤けた梁にこみ上げるものを感じる。

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入り口にはフェルト素材で作られたネギがあった。前に来た時はあったっけかなぁと言いながら、案内されるがまま席へ。

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席は冬仕様でこたつになっていた。ぬくぬくのこたつに入りながら、お通しの味しみ大根とお漬物を食べる幸せ。しばらくここから出たくない。

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近くの囲炉裏では鮎が焼かれていた。皮目がパリッとしていて美味しそう。

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鮎の誘惑に心が負けそうになりつつ、いやいや今日の目的は蕎麦だからと思いとどまる。この日はべらぼうに寒かったので、私はあたたかいけんちん蕎麦にした。夫はいつもの高遠そば。高遠そばは写真の通り、冷たいお蕎麦をねぎで掬い、時々かじりながら食べるというもの。ここの名物で、大内宿といえば高遠そばのイメージも少なくない。

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ちなみにメニューの裏面には蕎麦がきや栃餅、身不知柿のシャーベットなどがあった。どれも魅力的でまたしても誘惑されてしまう。しかし残したら申し訳ないと思い、結局頼むのはやめた。胃が許せば食べたかったなぁ…

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目の前には蕎麦ちょこがずらりと並んでいて圧巻。

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そのままこたつで暖まりつつ机に頬を預けてぐだぐだしていると、お姉さんがクスクス笑いながら夫が頼んでいた赤玉ぶっかけごはんを運んできてくれた。ハッとしてすみません、と言いながら顔をあげると「いいのよ!そのままで。気持ちいいわよねぇ」と言われてますます恥ずかしくなってしまった。

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続いて運ばれてきたけんちん蕎麦。甘く煮た豆腐をそぼろにしたものと、ごぼうにネギが具になっている。初めて食べたけれど、つゆのしょっぱさと豆腐の甘さが癖になる、見た目に反して少しジャンクな美味しさだった。卓上七味をこれでもかとかけて食べる。

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お会計の時、カウンター脇につきたての豆餅があることを発見してしまい、またもや誘惑にかられることに。最後まで誘惑が多くて、気を抜いたら危なかったな。でも、次に来たら積極的に誘惑に負けてみてもいいかもしれない。

Information
店名:三澤屋
住所:福島県南会津郡下郷町大字大内字山本26-1
URL:http://www.misawaya.jp/m_01.php 

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外に出るとさっきより雪が激しくなっていた。身が凍るほど寒いと感じても、まだまだこれからが本番らしい。

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そんな中でも南天に降り積もった雪は風情があってよかった。雪やまないね、と言いながら集落の奥にある高台を目指す。

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絹豆腐のように滑らかな雪道に足跡をつけるのが楽しい。さく、さく、という足音と、時々人の声がするくらいの静かさで、雪に世界のありとあらゆる音が吸い込まれているみたいだと思う。

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しばらく進むと目の前に高台へと登る階段が見えてきた。

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滑り落ちないように足にグッグッと体重をかけながら1歩1歩登る。これは落ちたらたまったものじゃないな、と思うと背中が緊張でじっとりと汗ばむのがわかった。

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手すりもあるにはあるが、雪が積もっていて掴めない。もはや恐怖を通り越して笑ってしまった。

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やっと頂上に着いて振り返ると、その勾配に足がすくむ。無事に登れた安堵感で膝が震えた。ちなみに少し遠回りにはなるものの、高台にはゆるやかに登れるルートもあるので初めての人や足腰に不安がある人はそちらがいいと思う。

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頂上にある御堂を通り過ぎ、高台へ向かってさらに歩みを勧める。屋根の雪が落ちてきませんように、と祈りながら進む。

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やっと着いた!ここまでくるのに苦労したかいあって、とても素晴らしい眺め。茅葺き屋根に降り積もった雪は粉砂糖のよう。こうしている間にも雪があたり一面を白に染め上げていく。

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高台には誰かが作った雪だるまがあった。かわいいなぁ、長閑だなぁ。

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顔を上げると次々と雪が顔に触れては消えていく。人がいないタイミングを見計らって一瞬だけマスクを外し、その冷たさを堪能した。

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帰りは階段を避けて別ルートから下り、来た道を駐車場に向かって引き返す。次第に風が強くなってきた。

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そうしている間にもどんどん雪は激しくなっていく。目を開けるのも厳しくなってきて、雪の恐ろしさを思い知る。思わず新田次郎の『八甲田山死の彷徨』を思い出した。

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這々の体でやっと出口にたどり着く。安堵感からため息をついて顔を上げると、隣にある石碑に目がとまった。石碑には春は花、秋は紅葉の錦山、東の都、大内の里とある。春と秋はとりわけ風光明媚ということなのだろう。大内宿には夏と冬に訪れたことがあるものの、春も秋も見たことがないのでいずれまた訪れたい。

大内宿を出たあとは、1時間ほど柳津方面に向かって車を走らせる。目的は只見線第一橋梁の展望台。いつか見た、雪道の中をしんしんと走る只見線が見たかったのだ。

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目的地にほど近い、道の駅「尾瀬街道みしま宿」の駐車場に車を留めて歩く。大内宿も雪が凄かったけれど、只見の方はその比ではなく、その雪深さにただただ驚いた。

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橋の歩道部分が雪に埋もれてしまっていて、手すりが自分の腰よりも低い。うっかり身を乗り出しだら落っこちてしまいそうで、へっぴり腰になりながらヨタヨタと歩く。

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展望台へ向かう階段はかろうじて見えるくらいでほぼ坂だった。左手のほうにロープがあるので、つかまりながら必死に登る。途中すれ違ったカメラマンが「こりゃ無理だわなぁ」と呟きながらスキーヤーのようにするりと滑り下りていった。

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そうしてやっとたどり着いた展望台からの眺めはまさに絶景だった。水墨画の中にいるような静けさ。水面は波紋ひとつなく、雪が降っては吸い込まれてゆく。しんしんと降り積もる雪の中、ここにいたらあっというまに雪に埋もれてしまいそうだ。

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ここの欄干にも小さな雪だるまがこさえてあって愛しい。列車を待っていると、後からきたお姉さんに「今日は運行休止ですって」と言われ、教えてくれたことに感謝して先ほどの坂を下りた。列車が見えないのは残念だったけれど、なんだかもうこれだけで満足してしまった。福島の冬はさみしくて良い。冷えた身体を温めるため、急いで車に戻って今夜の宿を目指すことにした。

 

#2に続く

lesliens225.hatenablog.com

 

 

宇多田ヒカル「気分じゃないの (Not In The Mood)」を聞いたらD'angelo「Shit, Damn, Motherfucker」が聴きたくなった

はじめに

やっと宇多田ヒカルのアルバム『BADモード』を聞くことができた。ビートとグルーヴ感が今までで一番気持ちいいアルバムで、気がつけば1日中こればかり聞いている。特に「気分じゃないの (Not In The Mood)」では静かに曲を牽引するドラムが心地よい。BPMも平均75と彼女の曲の中ではとりわけスローな曲だ。曲の<差し出されたコーヒーカ ップ>のブレイクの入れ方はスムースジャズを彷彿とさせ、発声のトーンも普段の話し声に近い。元気がなくても耳にすんなりと入ってくる一曲になっている。

ディアンジェロ「Shit, Damn, Motherfucker」の魅力

何度も「気分じゃないの (Not In The Mood)」を繰り返して聞いていた時、ふとディアンジェロの「Shit, Damn, Motherfucker」が聴きたくなった。スマートフォンからSpotifyを立ち上げて彼の音楽をタップする。ヘッドフォンから聞こえる色褪せないサウンドと今でも新鮮に感じるリズムとビート。何より余白を遺しながらテンションを保つ絶妙なグルーヴ感に「なにこれ、こんなにカッコ良かったっけ」とひとり部屋で叫んでしまった。まずはとりあえずフルで聞いてみて欲しい。

<歌詞/意訳>

Why are you sleep'n with my woman     なんでお前が俺の女と寝ているんだ
Why are you sleep'n with my woman     なんでお前が俺の女と寝ているんだ


This comes as a total surprise          こんなの想像もしなかった
I just can't believe my eyes        思わず目を疑った
My best  friend and my wife         俺の親友と妻なんて

 

Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Motherfucker, motherfucker, oh yeah babe

 

Why the both of u's back-balled naked?  なんで二人とも裸で抱き合っているんだ?
Why the both of u's back-balled naked?  なんで二人とも裸で抱き合っているんだ?

 

I'm tellin' you what's on my mind       俺が今何を考えているかわかるか
I'm 'bout to go get my nine         これから俺の9mmで
And kill both of y'all behind, check it out    二人諸共殺してやる

 

Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Motherfucker

 

Why the both of u's bleeding so much?  なんで二人とも血を流しているんだ?
Why the both of u's bleeding so much?  なんで二人とも血を流しているんだ?
Why the both of u's bleeding so much?  なんで二人とも血を流しているんだ?
So much yeah

 

Why am I wearin' handcuffs? Why am I  なんで俺は手錠をつけているんだ?なんで俺は…

 

Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker
Shit, damn, motherfucker

 

今聞いても抜群にカッコよく、紫煙が立ち込めてくるような色気のあるサウンドがめちゃくちゃ気持ちいい。ソウル、R&BHiphopの要素はもちろんファンクのエッセンスも効いていて、万華鏡のような魅力がある。捉え所のないドラムのビートと揺らぎのあるシンセサイザー、レイジーなギターのサウンド。そしてベースやコーラスを含めた抑制の効いたグルーヴに、改めて骨抜きになってしまった。

メロウな曲調でありながら、メリハリがついた構成になっているのもいい。3回繰り返されるコーラス部分は男の視点から見た情景の移り変わりにあわせて「妻が親友に寝取られているのをみた時」と「ふたりを殺そうと決意した時」、そして「ふたりを手にかけてしまった後」で歌い方が変えられている。特に2回目の2分50秒あたりで入る唸りには男の葛藤が感じられ、<Why am I  wearin' handcuffs?>のブレイクは男の視点に暗転を挟んだような効果が生まれている。

静かに鳴り続けるハイハットが感じさせる狂気と無情。この曲がリリースされたのが1995年、すでに20年以上も前の曲とは到底思えない。この曲に出会った当時も「うわ〜かっこいいな!」と思っていたけれど、大人になってから冷静になって聞き返すと改めて気がつく凄みがあった。

「Shit, Damn, Motherfucker」と「気分じゃないの (Not In The Mood)」に通じるもの

ディアンジェロの「Shit, Damn, Motherfucker」を何度もリピートしていくうちに、なぜ自分が宇多田ヒカルの「気分じゃないの (Not In The Mood)」を聞いてディアンジェロの曲が聴きたいと思ったのか、その理由がわかるような気がした。

「気分じゃないの (Not In The Mood)」では彼女に他者がコミットする場面で転調を使用しているし、BPMディアンジェロのそれよりも5bpmほどスロウだ。終わりにかけては約1分半近くインストゥルメンタルが続いたあと、ドラムの音を前面に出したのちカットアウトで切り上げているのも違う。(このドラムの入れ方については諦念を伴いながらも雨の中を歩いていくようなタフさを感じた)何よりディアンジェロの歌が絶望と喪失に満ちた終わり方をするのに大して、宇多田の曲は子どもの声が入ることで主観から1つ頭が抜けた視点で状況を俯瞰させることに成功している。

このような違いがあるにも関わらず、聞いていて「なんとなく通じるものがあるな」と感じるのは、初めて聞いて「なんだこれ?」と引っ掛かりを覚えさせるような、けれど通して聞くとその違和感がフローとして気持ちよくなってくる、そうした歪さを王道として推進していくパワフルな魅力がふたりの曲にはあるからなのだろう。カテゴライズできない曲の心地よさと、違和感が徐々に気持ちよくなって自分の中の音楽が脱構築されていく面白さ。それが二人の音楽には通じている。

実際にディアンジェロ自身、自分の楽曲を「ネオ・ソウル」と言われたり「R&B」とカテゴライズされることに対して苦言を呈している。また、宇多田ヒカルは彼女のインタビューで次のように答えている。

私はメインストリームなもの、あまり知られていないようなオルタナなもの、昔のラップミュージック、クラシック音楽、分け隔てなく聴いてきました。全てジャンルは違えど「音楽」という認識しかなく、音楽をつくる要素は同じだし大した意味のある違いはないと考えます。*1

終わりに

音楽を体感する気持ちよさ。それを久しぶりに宇多田ヒカルの『BADモード』を聞いて思い出した。そしてその体験を通して、過去に私が好きだった音楽と「久しぶり!君ってこんなに凄かったんだね」と邂逅する面白さにも気付く。最近のファッションや音楽のメインストリームに90年代を感じて懐かしくなるように、今改めてその当時の音楽を聞き直すことで理解できることが、もしかしたら沢山あるのかも知れない。Badな気分になりやすい今こそ、心の懐かしい場所にある扉をノックして、あの頃好きだった歌手たちに会いにいこう。

*1:Billboard Japan 宇多田ヒカル <完全版インタビュー part.1>より

https://www.billboard-japan.com/special/detail/3241#