東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

2020年 読んだ漫画振り返り

2020年に読んだ漫画振り返り。なるべくネタバレの無いように買いているけれど、完全にバレていないとは言えないので、嫌な人は回れ右でどうぞ。(*印については性行為や暴力などに関するセンシティブな描写があるのでご注意ください)(2022/03加筆修正しました) 

泰三子『ハコヅメ』*

 久しぶりに「今私はすごい漫画をリアルタイムで読んでいるぞ!」と思った作品。物語は新任警察官の川合と、元刑事で上司の藤部長がタッグを組んで、交番勤務をしながら市民の平和を守っていく…というお話。いわゆるお仕事漫画なのだけど、ミステリーのような伏線も張り巡らされていてめっちゃくちゃ面白い。毎回「そんなところも伏線だったの!?」と驚いているし、なんなら最近は全部伏線だと思って読んでる。基本1話完結型なのもいい。
作者のシニカルさとコミカルさのバランス感も秀逸。警察官の過酷な労働環境や、滅私奉公を求められやすい組織にありがちな労働者の帰属意識の高さ、男社会における女性の立場とか、テーマそのものは重いのにそれすらネタにして笑わせにかかってくるのがうまい。

絵柄が癖のあるタッチで苦手に感じる人もいるかもしれないけれど、どうかそれを乗り越えて手に取ってみてほしい。せめて50話の「笑ってはいけないお誕生日会」を読んでから今後の進退を決めて…私も初めそうだったけれど、今やどハマりして毎週木曜日が楽しみになっている。

田村由美『ミステリという勿れ』*

主人公の整はある日冤罪で逮捕されてしまう。初めは無罪を主張するものの、取り調べを受けるうちに、次第に物的証拠が揃ってきて…というお話。主人公の整が行く先々で事件に巻き込まれ、解決していくという探偵もの。話のトリックが凝っているので、毎回推理するのがとても楽しい。

整は正義感が強くなく「ただ事実を明らかにしたい」という好奇心が平均より強い人として描かれていて、そのせいかどの話も軽快かつフラットなトーンで進む。事実と事実をつないでバラバラな論理が一つに組み立てられていく過程が鮮やかで気持ちいい。それから整が犯人に対して説教臭くないのも良い。生々しい描写も控えめなので、過剰にドキドキしたくないけどミステリーが読みたいという人にもおすすめです。

野田サトル『ゴールデン・カムイ』*

友人に勧められてからずっと追っているゴールデンカムイ。鶴見中尉の労使関係に情を持ち込む上司は既視感があって、本当にカリスマ性のある上司ってやっかいなんだよなぁということを改めて思い出した。何より鶴見中尉に心酔する子たちってみんな幼児性が強いというか、誑かされてさもありなんという人ばかりで切ない。仕事の関係者に自分の感情を満たしてもらわないって二の腕に掘ったほうがいいよ…

この物語は様々な人間が様々な目的で金塊を狙っている訳なのだけれど、ヒールである鶴見・土方は大義に傾倒した思想なのに対して、杉本やアシリパはどこまでいっても個人の「自分がそうしたい」という欲求に自覚的なのがいい。地獄への道は善意で舗装されているけれど、自分の道が地獄だと自覚しているならば、周囲に与える影響もまた違う結末を迎えるのではないだろうか。

古舘春一『ハイキュー‼︎』

ハイキュー!! 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ハイキュー!! 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

台湾の友人がIGのストーリーにめちゃくちゃ熱い想いを綴っていて「そんなに?」と思い無料公開版を読んだ。今年は鬼滅の刃にもハマっていたみたいだし、今は呪術廻戦を追ってるし、ほぼリアルタイムで日本の漫画のトレンドを追っかけている彼女の熱量は勿論、コンテンツ業界の翻訳スピードの速さにも驚く。少年漫画×スポーツものってあんまりハマった記憶がないけれどこれは面白かった。烏山高校のあの視野狭窄でどうしようも無い一年生二人組を、ほとんど歳の変わらない先輩たちがちゃんと面倒を見ている姿とか。実力がある後輩に追い抜かれた菅原先輩の振る舞い方とか。令和のスポ根って感じだった。

あと顧問の武田先生がちゃんとしているのもいい。生徒に対して学業が本分だという線引きをきちんとできるところや、宮城県の強化合宿に勝手に参加してしまった日向をきっちり叱るところとか。少年漫画の主人公はだいたい特異な能力と引き換えに、なぜか唯我独尊が許されるキャラが描かれているけれど、チームプレーが前提となる以上はそうじゃないよね。この能力至上主義にしない姿勢は好感が持てた。ちなみにこれ舞台が東北の太平洋沿岸部なんだけど、多分震災がない世界線だよなぁ。

原作:稲垣理一郎 作画:BoichiDr.STONE』  

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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主人公である千空は天才科学オタク。ある日何者かが仕組んだ石化光線によって石像にされてしまい、しかもそれは千空だけでなく地球に住む人間全体に降りかかった災いだった。時が経って無事石化が解けた千空は、紀元前の様相を呈するジャングル化した日本で、一から科学技術を作り出すことになる。果たして千空は持ち前の知識を用いて石化現象の謎を明らかにできるのか?というお話。

もうね、今年一番ワクワクした漫画!これを読んでいると、小学生のころ科学の友が大好きで、自宅で付録の実験キットを組み立てて発電機を作ったことを思い出す。主人公の千空のキャラクターもバランス感覚に優れていて良い。他の少年漫画同様、主人公に備わっている超人的な能力は物語が進む上での起爆剤にはなるんだけど、その能力を使って後進を育成したり、自分より適正があると思ったメンバーにはどんどん仕事を振ったりするのがいい。登場するメンバーが誰かを崇拝したり隷属していないのも良くて、メンバーの働き方には同一労働同一賃金の萌芽を感じる。

樹なつみ花咲ける青少年』*

夫が「君これ好きだと思う」とおすすめしてくれたもの。物語はヒロインの花鹿が主役。父親が用意した3人の花婿候補の中から愛すべき人を選ぶお話なんだけど、その過程で自分の出生の秘密や父親の思惑を知り…というお話。さすが樹なつみ八雲立つも好きだったけど、こっちも面白かった!王道少女漫画かと思いきやミステリでもあり政治史でもあり。

樹作品全般通してそうだけど、今回も「悪人をどこから悪と線引きするのか」という問いが淡々と描かれていてよかったな。大人だからこそ楽しめる少女漫画という気もする。しかし八雲立つもそうだったけど、昔の007とかドクター・フーとか、悪人が魅力的な作品ってやっぱりいいなぁ。

河原和音『素敵な彼氏』 

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
 

 小さい頃に家族でクリスマスイルミネーションを見に行った時に、幸せそうな恋人をみて以来「素敵なカレシが欲しい!」と思っている主人公の小桜ののか。しかしその一生懸命さがいつも空回りしてしまい、高校1年になってもカレシはできず。見かねた友人が合コンを組んでくれたものの、参加者の一人である桐山に「一生カレシできなそうだなあ」と言われてしまう始末で…というお話。

登場人物が全員愛しくて8巻以降ずっと泣いていた気がする。全14巻でその半分以上が両想いになってからの話なんだけど、ハッピーエンドの向こう側がきっちり書いてあるのも好感度が高い。そうなんだよ、両想いになってからが本番なんだよ。読者は素敵な彼氏ってなんだ?っていうのをののかを通して見ていくことになるんだけど、それは一人一人違うんだよね。その上で関係を維持するためにはどうすればいいのかが丁寧に書いてあってよかった…「こんなに想っているのってウザくない?」とか「重くないようにしよう」とか、そういうのを我慢して自分でややこしくして、どんどんめんどくさくなっていくならちゃんと伝えようよ!恋愛はコミュニケーションなんだよ!っていうテーマがひしひしと伝わってきた。話の中心はののかちゃんだけど、これは桐山くんの成長物語でもある。

美波はるこ『酒と恋には酔って然るべき』

32歳独身の松子。男いない歴3年で趣味は自宅で日本酒を楽しむこと。そんな松子は部下の今泉がちょっと気になる雰囲気で…というお話。タイトルの通り主人公の松子は酒にも恋にも酔って然るべきという信条なので、とにかく酔って振り回される。でもこれって松子がどの場面でも受け身だからこうなっているんだよね。自分が何を求めているかわからず混乱している女子を見ているとヤキモキするので、時々ブレイクダウンしながら読みました。

ちなみに漫画には日本酒の美味しい飲み方やオススメのおつまみなどもしっかり描かれているので、日本酒が家に常備されている人やこれから飲んでみたいと思っている人には指南書としてもとてもオススメ。ワイングラスで日本酒を飲むのも家でやってみたら楽しかった。

さいとうちほとりかえ・ばや』*

友人にオススメされて読み始めた1冊。主人公はわんぱくで活発に遊びまわる勝気な沙羅双樹と呼ばれる藤原涼子に、男嫌いで人形遊びを好む内気な睡蓮と呼ばれる藤原月光。父親である藤原丸光に「性別が逆であったら」と言わしめるほどの二人は、その言葉通り入れ替わることになる。元服し帝に仕えることになった沙羅双樹に、裳着を行い女東宮の尚侍として宮入した睡蓮。二人は性別を隠しながら、都の中枢で政治を担うことになり…というお話。

全13巻が本当に一瞬だった。二人が男か女かバレないかずっとハラハラさせられる構成なのかと思いきや、むしろバレてからの話の方が本番でその描かれ方がとても良かった。宮廷内での女同士の争いもあると言えばあるけど「女は女の敵」みたいな安直な描かれ方ではなく、誰もがそう追い込まれてしまう構造があると思わせる勧善懲悪でなさもいい。13巻のあとがきを読んで作者が新解釈して描く時に心がけていたことを知り、その心構えに痺れた。

赤坂アカ横槍メンゴ『推しの子』*

タイトルを読んで1話の中盤まで「なるほどそういうことね」と読んでいたら後半どんでんがえしが起こってわけがわからなくなった。一応異世界転生ものに分類されるのかな?

宮崎の地方総合病院に勤務する産婦人科医のゴローは、アイドルグループB小町の絶対的エースである星野アイのファン。ある日外来に来た一人の少女の診察を受け持つことになる。帽子を取った彼女の容姿は、彼が寝食忘れて推すあのアイにそっくりで…!?というお話。

ここから先はネタバレになってしまうので何も描けないのだけれど、このあらすじを遥かに上回ってくる展開だった。芸能界って魑魅魍魎が跋扈していて、構造的にも犯罪行為が秘匿にされやすいんだよね…この構造が少しずつ変わっていったらいいし、それを頑張って描こうとしているように見えた。登場人物たちは、もれなく全員幸せになって欲しいよ。

あfろゆるキャン△

去年アニメに大ハマりして、キャンプにハマるきっかけにもなったゆるキャン△。見終わってから漫画があることに気がついて毎月1冊ずつ買った。ただキャンプをやって美味しいご飯を食べて綺麗な星を見て楽しかったねってしているだけなのに、なぜかめちゃくちゃ涙が出る。

私は漫画やアニメの、特に女性同士の描写にありがちな過剰な馴れ馴れしさが苦手なのだけど、この漫画はそれぞれが適切な距離感なのもいい。間違ったコミュニケーションと取ってしまった時はお互いに言葉にしているのもよかった。そう、同性だからってベタベタに仲良くなるわけじゃないんだよね。りんちゃんの距離感をなでしこが大事にしているのも素敵だった。あと漫画に出てくるレシピが全部ちゃんと初心者でも美味しくできるレシピなのも優しくていい。コンソメとかごま油とか、そういったわかりやすい味で成功体験を積むと自炊って楽しくなっていくよね。

ちなみに今年はこの漫画に出てくるほったらかし温泉にもいってきたので、いつか機会があればブログに書きたい。深夜のうちに家を出発してまだ日の暗いうちに温泉に浸かり、湯船から朝日に照らされる富士山を見るのは本当に至福でした。そのあと新鮮な卵の卵かけご飯を食べたのもいい想い出です。1月からは2期の放送も始まるので楽しみ。

 終わりに

今年はあまり漫画を開拓できなかったけれど、それでも充分面白いものに出会えて良かった。それからすごくハマった漫画があって、思わず読み終わったあとその作者にファンレターを出したりもしました。お返事が返ってきた時は本当に嬉しかった。好きだと伝えることで相手の原動力になれるならこれからも伝えていきたいと思った次第です。
今年の年末年始は帰省もせずに家でのんびり過ごす予定なので、積ん読にしていた漫画を消化するのが今からとっても楽しみ。撮りためたアニメも消化しなくては。いや〜漫画って本当にいいね。