東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

猫が遊びにきた日

今日のビッグニュースは家のベランダに猫が遊びに来ていたこと。普段テレワークの合間にベランダに小鳥が遊びに来ていないかチェックするのが日課なのだけれど、今日レースカーテンを捲ったら猫がいてびっくりした。きっと隣のマンションのベランダをつたって遊びに来たのだろう。思わず夫に教えて、二人で驚かさないようにそっと見守った。
猫は夫がベランダに敷き詰めた人工芝に気持ちよさそうに肢体を擦り付け、私が観葉植物が倒れないようにと支柱にした無垢材でのびやかに爪を研ぎ、日向と日陰の塩梅が良いところに丸くなってスヤスヤと眠っていた。呼吸に合わせて上下するお腹。毛並みが陽の光に透けてキラキラと光っている。ああでもないこうでもないとしつらえたベランダのあれこれが、どれも猫が優雅に暮らすための代物になっているのが可笑しい。人間の思惑なんてお構いなしで、なんだか自分の思想やこだわりが馬鹿馬鹿しく思えてしまった。
仕事で煮詰まったらフローリングに寝そべり、猫を驚かさないようレースカーテンをそうっとめくって、春の陽気の中で気ままに過ごしている様子を眺める。何回かそれを繰り返していたとき、窓ガラス越しにパチッと猫と目があった。「ゆっくりしていってね」と言うと猫は2回瞬きをした。エバーフレッシュの影が猫の上をゆらゆらと揺らめいている。人の言葉がわかるのだろうか、と思った。
そういえば小さい頃、家の近くの空き地で遊んでいたときに、2頭の若い猫たちが喧嘩をしていたことがあった。子供ながらにその迫力に慄いて、どうしようどうしようと焦っていたら、背後から音もなく老いた猫が現れ、落ち着いた声で「ミャア」とひと鳴きした。するとそれまで激しくやり合っていた猫が一瞬で落ち着き、渋々ながらもその場を離れたのだった。驚いてパッと猫を見て「すごい」と言うと、その老いた猫は片目をつむってこちらを見上げたあと、また音もなく草むらの影に消えていった。
しばらくしてまたレースカーテンを捲ると、ちょうど猫がベランダから去っていくところだった。「また来てね」と声をかけると、猫は振り向いて目を細めた。やはり人間の言葉がわかるのかもしれない。夫に「猫、帰っていったよ」と言うと「そうか、また来てくれるといいね」と言った。このベランダはお気に召しただろうか。また来てくれたらいい。