東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

2021年 読んだ漫画振りかえり

もう2022年になってだいぶ経つけれど、年末年始じゃないと去年のことを振り返れないなんてルールはないもんね。ということで今年も2021年に読んだ漫画を振り返っていきます。ネタバレを含む感想もあるので、回避したい人にはおすすめしません。ところどころ批判的なコメントもしているので、そういうのは読みたくないよって人も回れ右でどうぞ。

*印については性行為や暴力などに関するセンシティブな描写があるのでご注意ください。

連載中の作品

黒丸『東京サラダボウル -国際捜査事件簿-』

本作は警察通訳人の有木野了(アリキーノ)と刑事の鴻田麻里(マリ)がバディを組んで、都内で起こる事件を解決していくといういわゆる刑事モノ。ただし各話ごとの被疑者が外国人という点がこれまでの刑事モノとは一線を画す。これまでの刑事モノからこぼれおちてきたマイノリティに光を当て、現実の視座を変えようとするような物語だ。

破天荒なマリと冷静沈着なアリキーノは性格は真逆なのに、マイノリティに対する向き合い方は同じ方向で、読んでいて安心できる。差別をしている側の悪意のなさの描写もうまくて、そうそうこれなんだよな…と何度も唸りながら読んだ。外国人であるがゆえに日本の司法で彼らがどのような扱いを受けているのか、それを知るきっかけとして良書だと思う。

市川春子宝石の国

人間の形をした鉱物が彼らを襲う月人と戦いながら生活する話をベースに、主人公のフォスフォフィライトの成長が描かれる物語。元々アニメから入ったのだけれど、漫画はかなり大変なことになっていてびっくりした。フォスが物理的にも精神的にも変わっていく様子が痛々しくて、アニメの頃のフォスが懐かしくすら思える。市川春子作品を読んでいる時に感じる諸行無常が好きなのだけれど、そうは言ってもこれはどうやって決着をつけるんだろう…?もう何もわからない…失い続けることが人生だとして、それを体現しているのがまさにフォスなのだとしたら、せめてフォスにとっての幸福だと感じられるものがこの先にあって欲しい。

麻生みこと『アレンとドラン』*

主人公の林田(リンダ)はサブカルチャーを愛する映画オタク。ある日SNSで知り合った男に自宅に上がられそうになっていたところを隣人の江戸川に助けられて…という話。主人公の世間知らずなのに無鉄砲なところは見ていてヒヤヒヤするんだけど、その突拍子もない行動も彼女なりに筋が通ってることなんだなとわかってからは応援したくなった。

あとこういう女の子をチョロい認定をして寄ってくる男たちの書き方がうまくてゾワっとする。どれもこれも胸糞悪すぎて、読みながら何度も血圧が上がってしまった。そういう男たちって助け舟を出そうとして女の子との間に入ろうとすると「焼きもち焼いてんの?笑」とか言ったり、お局ポジションに仕立て上げて遠ざけようとしてくるんだよね(思い出し怒り)性暴力の描写があるので辛かったり苦手な人は気をつけて。

カレー沢薫、ドネリー美咲『ひとりで死にたい』*

家系的に短命だし、いつ何があるかわからないから終活についても考えておかないとなぁと思って読んだ1冊。物語は主人公が孤独死を回避するために、職場の青年の力などを借りて、終活について学んでいくという話。重いテーマだけれど、コメディ調に書いているのでなんとなく興味がある程度でも読みやすい。読む前は孤独死ってある程度お金があれば回避できるのかなと思っていたけれど、人との繋がりが切実に大切なんだということがよくわかった。あと親に終活をしてもらうのも大切なことなんだよね…。

珈琲『ワンダンス』

吃音症を持つ高校生のカボは人に踏み込まれるのが怖くて、いつも他人と合わせてばかり。そんな時、校舎裏で踊る同級生のワンダを見て、少しずつダンスの世界に惹かれていくようになる。初めはワンダへの憧れで始まったダンスだったが、しゃべらなくても何かが伝えられるダンスの魅力に魅せられ、次第にその世界にのめり込んでいく…という話。

ダンスの描写が格好良い!題材がストリートやヒップホップ系ということもあって、躍動感ががある。何より画力で音や熱気、会場の雰囲気をここまで表現できるんだと感動した。話の展開も丁寧だし、カボとワンダが恋愛関係になるのかと思いきや、ガチのライバルになりそうなところもいい。ダンス用語の解説もあって親切なので、あまり詳しくない人でもスルスル読めるはず。

喜久田ゆい、由唯、椎名咲月『虫かぶり姫』

仕事に疲れてしまい、令嬢モノの類しか読めなくなってしまった時に出会った1冊。人生にはハッピーエンドまっしぐらな物語しか読めない時期がある。物語は彼女のことが大好きな王太子クリストファーと、本を読むことが何より好きでそれ以外には鈍感な侯爵令嬢エリアーナ・ベルシュタインが、少しずつ仲を深めていこうとするロマンティックラブストーリー。ふたりのじれったい恋愛模様だけでなく、ヒロインの頭脳を頼りに王国が繁栄の道をたどる、ダイナミックなヒストリアも見どころだ。女が政治に関わるのはどういうことなのか、という描写が他の作品より抜きん出ている。

絵柄は昔の種村有菜を思わせる美麗さで、少女漫画を読んでいるぞ!という気分が高まるのもいい。フワッフワの巻き毛と大きな瞳、繊細なレースをあしらったお洋服が出てくる漫画を読んでいる時にしか摂取できない栄養素ってあるよね。アニメ化も決まったらしいので、そちらもとても楽しみ。

尾羊英、中村颯希、ゆき哉『ふつつかな悪女ではございますが』

病弱な身体でありながら、努力家なところと素直さで誰からも愛され、皇太子の寵愛をも受ける黄玲琳。ところがある日、ライバル令嬢の朱慧月によって、ふたりの中身が入れ替わるという呪いをかけられてしまい…という話。

令嬢モノを読んでいると、皇太子が主に悪役令嬢に対して公の場で断罪するシーンが必ずと言っていいほどあるけど、この話は断罪した令嬢の中身が、実は彼が愛していた王太子妃候補だったという話になっていて面白い。そもそも悪役令嬢を追い詰めた行動に走らせる構造がおかしいし、それに乗っかって安全圏にいるだけの皇太子が、自分を省みず感情のままに断罪できるシステムも間違っているよね。システムや構造で人間の行動はある程度規程されることを、一般人ならまだしも権力者が自覚していないのだとしたら、それは学ばないといけないと思う。なので玲琳が今後それを追求していく流れになったらいいな。ベースは悪役令嬢転生ものだけど、やっていることはジャンプなので、友情!努力!勝利!が好きな人はこれもハマると思う。

柑奈まち『狼領主のお嬢様』

物語は革命のために殺された令嬢が、数年後にシャーリーという女の子として生まれ変わって、彼女を殺めた現領主に再会すると言うラブストーリー。前世の記憶を持つ主人公が、愛する人を殺めた過去を持つ現領主と、どのような関係性を築くのかが見どころだ。

もちろんメインストーリーも面白いけれど、わたしは令嬢を殺して統治権を奪った現領主が、荒廃した土地をどのように統治していくかがとても興味深かった。貴族という地位や、領主という仕事のつらさも、他の令嬢モノと比べて踏み込んで描いている印象を受けた。革命を起こして領民が飢えたら元も子もないし、一揆が起こるかもしれないものね…。舞台は共和制寄りの君主制っぽくて、ここからどのように人民共和制が生まれるのかも見どころだなと思っている。

林マキ『屋根裏部屋の公爵夫人』

よくある令嬢ものとは少し違っていて、領地ごと経営を立て直していこうとする「女領主になろう!」な物語。婚約者と結婚したら相手にはすでに寵愛している女がいて、領地の帳簿は借金まみれ。さらには使用人に横領までされている始末…という酷い状況から立ち上がる、経営改善ストーリー。ヒロインのオパールが父親譲りの経営手腕を活かして、また政治屋として経営を立て直していく描写は見ていて清々しい。(が、たまに「これ現実でやったら刺されるんじゃないかな」とも思ってハラハラしたところもあった)

彼女を見ていると適切な投資や労働者への分配の大切さ、何より穴が開くほど契約書を読んで損することはない!という経営において大事なことを学べる。余談だけれど、この話を読みながら、星野リゾートに買収された二期倶楽部を思い出した。

高松美咲『スキップとローファー』

『素敵な彼氏』が完結したさみしさに浸っていた時に友人からおすすめされ、あっと言う間にハマっていったスキップとローファー。主人公のみつみちゃんのまっすぐさは勿論、クラスメイトたちもいじらしくてたまらない。自分が学生の時はここまで人間関係に一生懸命じゃなかったなと反省しつつ、今も縁が続いている人たちのありがたさをじわりと感じるような漫画だった。

ときどき少女漫画を読んでいると、コミュニケーションの描写が強引すぎて読めなくなってしまうことがあるけれど、この作品はキャラクター同士が真の意味で出会い、関係性が少しずつ揺れ動いていくことをベースに話が展開していくので、読んでいて心地良かった。「この子嫌なやつ〜」という子も、物語が進むにしたがってかけがえのない存在になっている。この時にしか築くことができない彼らの奇跡のような日常を、次巻も楽しみに見守りたい。

あなしん『運命の人に出会う話』

女子大に入って1年が経ち、ひとりの生活には慣れてきたものの、一抹の寂しさを感じるようになった優貴。ある日出会いを求めて友人の早苗と一緒にクラブに行くと、偶然知り合った歯科学生の伊織に「男あさりにきたんだな」と言われて…という天沢聖司もびっくりな嫌なヤツ仕草から始まるストーリー。
主人公が人を愛せるようにひたむきに頑張る姿が可愛らしいし、それに絆されちゃう男子も素直でいい。女の子の手料理で男の子が喜んで…みたいな描写は、少女漫画的なご都合主義さが否めないけど、それぞれのキャラクターがちゃんとお互いにコミットしようとした結果の産物なので、納得して読むことができた。ところで伊織がつけているシェーヌダンクルの描写が毎回良すぎない?作者さんファッションが好きなんだろうな。シェーヌダンクル漫画としても(?)面白いです。

椎名うみ青野くんに触りたいから死にたい』*

今年いちばん更新が楽しみだった漫画。主人公の友里は、落とし物を拾ってくれた青野に一目惚れする。告白してめでたく付き合うことになった二人だったが、ある日突然青野が交通事故で亡くなってしまう。思わず後を追おうとした友里だったが、命を断とうとした彼女の前に亡くなったはずの青野が現れて…という物語。ホラー漫画や恋愛漫画として語られていることが多いけれど、読めば読むほどジャンルに括れなくなる。私自身怖い話が苦手なのでなかなか手を出せなかったけど、3話目からぐんぐん引き込まれてしまって、結局自分と戦いながら読むことになった。

どのキャラクターの感情にも手触りがあって、人と人との関わりに関する描写がずば抜けて上手い。杉本やみどりちゃんの普通を前提にした善意のコミュニケーションには心が何度もざらついた。友里ちゃんと青野くんの恋愛も決して易しいものではなくて、見ていてとてもヒリヒリする。相手を大切にしようともがくんだけど、なぜかお互いの傷が膿んでぐちゃぐちゃになってしまって、結局うまくバランスが取れなくて間違ってしまう切なさ。好きな人を正しく愛するってどうすればいいのかを、常に自問する主人公がこんなにも魅力的なんだってこと、私は友里ちゃんで初めて知った。ふたりの恋愛が周囲に波及していって世界を飲み込んでいってしまいそうな勢いの最終章、作者が血を流しながら書いているだろうその世界を、しっかり読者として受け止めていきたい。

二ノ宮和子『七つ屋志のぶの宝石匣』

今月16巻が出たので1〜15まで読み返していたんだけど、やっぱり面白かった。読んでいてクセになる、二ノ宮和子作品の独特なテンポのよさよ。何より読んでいると湯水のようにジュエリーが欲しくなってくる…石はロマンだよねぇ…庶民のわたしは1ct以上のルースを買おうとするだけで清水の舞台から飛び降りて骨折しそうだけど、いつかその時がきたら粉砕骨折覚悟で買いたい。

しのぶがただ婚約者っていうポジションに甘んじるのではなく、それを捨ててまであきちゃんに納得のいく形で選ばせようとするのも、すごく彼女の芯が感じられる描写でよかった。偉すぎる、美味しいものを差し入れしてあげたい。あとそれを悟らせちゃったあきちゃんは本当にダメです。大事なところで優柔不断をやる人が嫌いなので、マジでしのぶはこのままあきちゃんと別れていい人と幸せになってほしいと思うまである。

野田サトルゴールデンカムイ』*

とうとう最終章に突入してしまったゴールデンカムイ。最近はいつまでもこの物語を読み続けたいという気持ちと、全員の末路を見届けたいという気持ちで常にせめぎ合っている。今までずっと白石が推しだったけど、ここにきて鯉登の成長に感動してしまった。弱くて情けなくてブレつつも、責務に大して自覚的なキャラクターに弱い。常に葛藤しながらも、自分にとっての最善を選ぼうとする人間にきらめきを見てしまう。しかし尾形や鶴見、アチャはもちろんのこと、杉本は本当に狂っているなぁと回を重ねるごとに思う。辺見和男に対して「じゃあ一緒に煌めこうか!」の返しとか。話の中で杉本がいちばん怖ニシパでしょ。

最近は読後の心を鎮めるために野田サトルのインタビュー記事を読むようにしているんだけど、この記事がとてもよかった。近年都内の美術館でもアイヌの歴史や文化に関する企画展が増えてきて、学べる場所があることがうれしい。もっとアイヌのことを知りたい。

完結した作品

諫山創進撃の巨人』*

夫の勧めで読み始めた進撃の巨人。一部のコアなファンが熱狂しているのを見て及び腰だったけれど、読んでみたら思っていたよりずっとよかった。チャイルディッシュな主人公が他者と充分にコミットしないまま厭世観へと身を委ねていく話や、デウスエクス・マキナ的に終わる話が苦手なので、これも好きか嫌いかと言われたら後者の部類に入るけれど、それはそれとして面白い話だった。これをティーンの頃に読んでいたら影響を受けていた自信がある。

ただし、終盤から結末にかけてはやはり納得できなかった。この時ちょうど岡真里『アラブ 祈りとしての文学』を読んでいて、エルディア人が実在の民族と被ってしまったのもある。

井上雄彦『SLAMDUNK』*

自粛期間中に夫の本棚にあったのを読み始めたら、面白すぎて3日で完走してしまった。絵もいい、話もいい、キャラクターもいい。これを週刊連載で、しかも1本も落とさなかったって化物か?引っ張ればいくらでも引っ張れそうなのに、山王戦で終わっているのもあざやか。同時にこの諦念と希望を併せ持った青春を描いた作品は、やはり平成でしか生まれない物語だと思った。映画キッズリターンの名台詞である「まーちゃん、俺たちもうおわっちゃったのかなぁ」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」とスラムダンクの名台詞「オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本の時か?オレは今なんだよ!」は同じ文脈と重さを持った台詞だと思う。

彼らの刹那的な青春と、ストリートスポーツであるバスケットボールの組み合わせを考えた井上雄彦はやっぱり天才だ。そしてそんな彼らが腰がいてぇ全然シュートが入らねぇと、笑いながら老いた身体でバスケをするのもいつか見てみたい。

近藤聡乃『A子さんの恋人』

やっと読めたA子さんの恋人。美大卒の友人たちが口々に勧めてくるので、ずっと尻込みしていたらいつの間にか完結していた。これは私の偏見だけど、彼らが勧めてくる作品は情念がものすごいことが多くて、気合を入れないと手を出せない。えいやっと読み始めたA子さんの恋人も、もれなく湿度と情念が濃くて、何度も古傷をえぐられながら完走した。よくぞここに着地させたな!という幕引きのあざやかさと余韻よ。この終わり方以外は考えられなかったと思う。拗れた人間関係を切り離す手段としてうやむやにするのって間違いではないけれど、こうして折り目正しく向き合うことでしか大事にできないものもあるんだよね。というか大切な人だからこそ、それはしないといけない。それぞれのキャラクターにもう会えないのが今でもとてもさみしいな。

話自体はもちろんのこと、特に印象に残ったのが東京の情景の書き方だった。U子が彼氏と帰省用のお土産を買った阿佐ヶ谷のシンチェリータ、I子が泣きながら登った谷中の夕焼けだんだん。東京って、その街のそこにしかない文化を生身で体験していくことで「我が心の東京」が蓄積されていく都市なんだなということを改めて。それぞれの人の中にある東京物語が心地よかった。

泰三子『ハコヅメアンボックス』*

ハコヅメの別章アンボックス。本家ハコヅメに出てくるカナが好きだったので、何度も唸りながら読んだ。ガンダムUCマリーダ・クルス然り、バナージ・リンクス然り、自分が属する組織に心まで捧げていない人間が狂おしいほど好き。本家ハコヅメも引き続きめちゃくちゃ面白いんだけど、最近は河合が完全に警察側の人間になっているので、もう少し斜に構えたキャラクターが出てこないかなぁと思っている。

ちなみに泰三子ってこれまで性被害を受けた人たちを描く時、彼らが具体的にどうされたのかという描写や、その人の顔を書いていないことが多くて、創作の世界とはいえその心の配り方が本当に素晴らしいのだけれど、本作だけは被害者の顔やされたこと、二次加害が描かれているので、そういう描写を見るのがつらい人にはおすすめしません。でもなぜその書き方をされたのかは、読んでいるうちに伝わってくるはず。この捜査に関わったのがカナで本当に良かった。

小川彌生『キスアンドネバークライ』*

「君はペットの作者が描いたスケートの話が良かった」ということを元アスリートの知人から聞いて読んだもの。「君ぺ」のイメージが強いので、またラブコメなのかな?と思ったらスポ根+サスペンス+フェミニズム+スポーツウォッシュと言ったテーマがてんこ盛りで凄まじい作品だった。

読後、以前同じ知人が「アスリートってアイドルと同じで偶像であることが求められやすいんだよね」と言ったことを思い出し、選手たちから奪われている言葉、代弁させてしまっている言葉に思いを馳せた。何を言ってもネタバレになってしまうので、まずは手にとって読んでみてほしい。ただ、児童に対する性的虐待の描写があるので、フラッシュバックなどの恐れがある人にはおすすめしません。わたしも途中から本当にしんどくて、何度か休みつつ完走した。

佐野未央子『日日べんとう』

友人に「この漫画に出てくる主人公があなたに似ているから読んでみて」と言われて手にとったもの。こんな四角四面な女じゃないわと思いつつ、読みながらこんな風に見えているならもう少し柔らかく生きるか…と反省したのだった。

物語は食をテーマに、主人公の恋愛模様や母親との確執、人間関係のいざこざなどが絡み合いながら、登場人物ひとりひとりがそれぞれの幸福を見つけていく話だ。不器用ながらたくましく成長していく主人公の黄理子のことを、最後は少しだけ好きになった。作中のインテリアや、おしゃれに目覚めた黄理子のファッションの書き方もセンスがいい。

食がテーマなこともあって、作中にはレシピも掲載されている。気が向いた時に作ってみたけれど、なかなか美味しかった。しかしおさんどんをしながら仕事もやって、職場のまかないも作るって、わたしには到底できそうにないな…

津田雅美彼氏彼女の事情』*

マンガParkで無料配信されていた時に読んだもの。途中までほのぼの学園ものかなと思っていたんだけど、そうじゃなくてびっくりした。合意のないセックスはマジでダメだし、それを女の子が男の子を愛しているから受け入れるにしちゃうのも賞賛できないよ。ふたりに必要だったのは、ケアができる専門家の存在だったんじゃないか…そう思って苦しくなってしまった。

何より主人公が出産後に医師としてキャリアを築けているのは、周囲にいる祖父母の協力と、義理の両親が持つ資産の力という展開には脱力してしまった。そらそうだがさぁ…そうじゃないでしょうよ…この女と経済力の構造をふわっと描いている不誠実さは、最近だと『推しがやめた』にも感じたことだった。1995年から2005年までの連載だったそうで、昔の作品だから致し方ないかと思う反面「少女漫画の名作」と言われているのは違うと思う。好きな人がいたらごめん…

山下和美天才柳沢教授の生活

自粛期間に加えて仕事が忙しく精神的な潤いが枯渇していた時に、幼なじみが「あなた好きそう!」と言って勧めてくれた。途中まで読んで気がついたけれど、小さい頃に大好きだったドラマの原作だった。確か当時、松本幸四郎が柳沢教授を演じていたはず。幼い頃はそれに影響を受けて、道を曲がる時はカッと勢いをつけてターンしていた記憶がある。

改めて読むとじわじわと胸に染み入るような話が多くて、ほろりと泣いたりしながら大事に読み進めた。過ぎていったものを取り戻そうとするのではなく、時々取り出して眺めては大切にしまうような、人生を慈しむ眼差しのやさしさ。あとで調べたら私が好きな是枝和弘と作者の対談もあって、ああやっぱりこの人好きだなぁ、この人の漫画と出会えて良かったなぁと嬉しくなった。今年はランドも読みたい。

www.moae.jp

山下和美『数寄です!』

天才柳沢教授の生活山下和美にハマり、彼女の話をもっと読みたい!と、いろいろ調べた結果たどり着いたのがこちら。わたしは近代建築の中で吉田五十八の数寄屋建築が狂おしいほどに好きで、もし機会があれば一切の私財を投げ打ってでも自分のための数寄屋造りの家を作りたいと思っているほどなんだけれど、(勢い余って去年は神戸にある竹中の資料館にも行って4時間くらい入り浸っていた)なんと作者はそれをやってしまったという…う、うらやましすぎる!!数寄屋建築ができるまでって、相場感も含めてあまり知ることができないので、土地の買い付けから、建築過程まで知ることができて本当に良書だった。わたしも数寄屋造りの家を建てたい!あるいは吉田五十八が作った家を買い取りたいよ〜!!と思いながら、時々猪俣庭園を覗くのが関の山なのだった。

よしながふみ『大奥』*

読み終わりたくなくてずっと大事にとっておいた大奥。高校生の頃に「愛すべき娘たち」を読んで泣き、上京したあとは「愛がなくても喰っていけます!」に描かれたレストランに行ったり、「西洋骨董洋菓子店」のモデルになったお店でケーキをテイクアウトしたりと、よしながふみはいつも人生のどこかで支えになっていた作者だ。なんだけど、この作品は男女が逆転した場合に子育ては誰が担うのか?という問いに答えられていないという点で、ただ男女の権力を移譲をした作品になってしまったのではないかという印象を受けた。

産みの性の苦しみ、血を絶やさないための使命を担わされるつらさ、性によって差別される悔しさ、家に囚われて生きる虚しさ、新しい家族の形という希望。これらを書いたという点では素晴らしいのだけれど、では今まさに多くの女たちが悩んでいる子育てと仕事の両立、あるいは経済的自立の困難さについて、この作品は新しい視座を示したか?というと十分ではなかったように思う。私が見落としていたのかもしれないけど、乳母ならぬ乳父みたいな役割ってあったんだっけ?(もしこのあたりの考察やインタビュー記事などがあったら誰か教えてください)壮大な物語を味わい尽くしたという読後感もあるし、これからも好きな作家に変わりはないけれど、この消化できなさは彼女へのこれまでの感謝と同時に抱え続けていきたい。

ほそやゆきの『あさがくる』

comic-days.com

朝顔は北海道に住む19歳。宝塚音楽学校の受験に失敗した後は、大学受験のため予備校に通っている。喪失感を抱えたまま日々を過ごす中、ある日ダンス教室の恩師から連絡があり、ひょんなことから同じく宝塚音楽学校の受験に挑む後輩・くるみの指導を始めることに。

「かげきしょうじょ!!」が合格後の女の子たちの話だとしたら、こちらは不合格後になった女の子の人生の話。子供の頃から<演技をすることが楽しすぎて頭がおかしくなりそうだった>ことをきっかけに、宝塚を目指して受験のための生活に明け暮れた朝顔と、両親の離婚をきっかけに北海道に来たが、馴染めない土地から出るために受験を志すくるみ。そんなふたりが宝塚という存在を自分の中でどのように咀嚼するのか、それがお互いにどのようなインパクトを与えるのか。ラストは静かな迫力に満ちていた。人生というのは失ったことを受容し続ける旅なんだよね。恨みも妬みも味わい尽くした朝顔が、納得のいく人生を歩めることを願わずにはいられなかった。

終わりに

自粛期間が長かったこともあって、人生で一番マンガを読んだ1年だった。こんなに漫画を読んだのは中学生のときに図書館で手塚治虫全集に出会った以来だと思う。友人から勧められたものをきっかけに知った作家も多くて、やっぱり人におすすめされるのって楽しいなということにも改めて気がつくことができた。自分の知らない世界にぴょっと連れて行ってもらえるありがたさ。もしあなたのおすすめがあったら聞かせてください。

何より家の中で、喫茶店で、電車の中で漫画に触れて静かな熱気に包まれている時、やっぱり創作っていいなぁとしみじみ感じる。2022年も面白い漫画とたくさん出会えますように。

過去の記事はこちらから

lesliens225.hatenablog.com