東京で暮らす女のとりとめのない日記

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全人類は今すぐ映画館に行った方がいい!血肉沸き踊るインド映画の最高峰 映画「RRR」感想

今年もあともう少しで終わり。いろんな映画を観たけれど、それらをすべて忘れるくらい面白い映画に出会ってしまった。映画の名前は「RRR」。今年見た映画の中でぶっちぎりで面白く、寝ても覚めてもRRRのことばかり考えてしまう。こんな気持ちになれる映画はいつぶりだろう。例えていうならティファンを頼んだはずがミールスが出てきた、しかもビリヤニにデザートのパサヤム付きで!というような映画だ。

左がティファン、右がミールス

 

あらすじ

時は1920年代のインド。とあるインドの片田舎で、少女が英国婦人にヘナタトゥーを施しながら美しい声で歌を歌っている。牧歌的な光景とは裏腹に、周囲には緊張が走っていた。それもそのはず、当時のインド人は英国人には逆えず、家畜以下の扱いを受けていたのだ。

少女の歌が終わり、満足した婦人から謝礼として少女の母親に投げられたのは2枚の硬貨。少女の歌に対する対価と思った母親は、怯えながらも受け取り礼を言うが、娘は目の前で突然連れ去られる。その2枚の硬貨は歌に対する謝礼などではなかった。娘を気に入った英国婦人から支払われた手切金だったのだ。驚いて必死に娘を連れ戻そうとする母親の甲斐も虚しく、結局少女は連れ去られてしまう。悲しむ村人たち。そんな少女を取り戻すべく、ひとりの青年が立ち上がる。

一方その頃別の場所では、英国人の圧政に苦しむ民衆の反乱が起きていた。警察署内部へ石を投げ込み、周囲を覆う柵を揺らす人々。投げられた石が総督の写真に当たって落ちる。暴徒が激化することを恐れた警察署長は、投石した男をここに連れてこいと警察官らに命じるが、皆怯えて外へ出ることができない。そんな中、ひとりの男が投石者を確保するために柵を飛び越える。抵抗する人々を棍棒で叩き、殴り、周囲を蹴散らしながら、執念で投石者を捕まえ署長の前へ引きずり出したもう一人の青年。

そんな対照的な二人の青年は数奇な運命によって導かれ、物語は予期しない方向へと展開していく。

とにかく魅力的なふたりの主人公 ビームとラーマ

この物語には二人の青年が登場する。困ったことはパワーで解決するインド版杉本佐一のようなビームと、大義のためになら手段を選ばないインド版鶴見中尉のようなラーマ。この対照的なふたりが出会い、そして運命の相手になることがこの物語の最大の魅力だ。

奪われた家族のためなら手段を選ばない。穏やかな性格と荒々しさが魅力のビーム

奪われた少女を奪還するために立ち上がったビームは、とにかく「走れメロス」を地でいくような真っ直ぐなヒーロー像!虎の攻撃を軽やかにかわせるほど人間離れした身体能力があるにもかかわらず、争い事は好まず恋愛には奥手。戦って倒した虎には「俺の目的のためにお前を利用してすまない」と祈る、とにかくピュアで優しい心の持ち主だ。不器用で賢く立ち回ることはできないけれど、内に秘めた信念は決して揺るがないキャラクター。圧倒的主人公感をここまで演じきった俳優NTRの演技力も素晴らしい!

冷血な仮面の下に持つ哀しみに胸がしめつけられる。誰よりもミステリアスで業が深い男ラーマ

一方でもうひとりの主人公であるラーマは多面性を持つミステリアスなダークヒーローだ。冷静で強靭な精神力、テルグ語と英語を使いこなす知性。鍛えぬかれた鋭利な刃物のような肉体、同胞でも容赦無く棍棒で叩く冷血さ。そんな一部の隙もない彼が、親しい人にだけ見せるいたずらっ子のような表情や、憂いに満ちた表情がとにかく凄まじすぎて怖いくらいだった。情に厚く愛情深い性格なのに、なぜ警察官という道を選んで同胞を叩く仕事を好むのか。本当の彼は何を考えているのか。そして物語の後半で明かされる衝撃の事実、ラストの転身には思わず息を飲んでしまった。老若男女全てが彼に魅了されること間違いなし!

物語の見どころ!踊る祭典、息の合ったナートゥダンス

youtu.be

物語にはいくつか印象的なシーンがあるのだけれど、中でもやっぱりいいなぁと心に残っているのがインドの伝統的なダンスである「ナートゥダンス」を踊る場面だ。パーティに招待されたビームが令嬢とワルツを踊っていると、それを良く思わなかった英国紳士に「サルサは踊れるか?フラメンコは?」と突き飛ばされる。「後進国の野蛮人であるお前たちは複雑なダンスなんて踊れないだろう?」と嘲笑しているのだ。それを見ていたラーマが間に入り英国紳士に”Do you know Naacho?(ナートゥダンスをご存知か?)”と尋ねる。そしてエネルギッシュでパワフルなナートゥダンスが始まるのだ。

ふたりの息がぴったりあったダンスで会場が沸くのはもちろん、大英帝国から植民地支配を受け、誇りも尊厳も蹂躙されてきた民族が、自国のダンスを踊ることでプライドを取り戻すというシーンがとにかくアツい!途中で英国人とのダンスバトルが始まるのも最高だ。

アジアという「エキゾチック」な文化を鑑賞させるのではなく、相手を同じ土俵に立たせ踊らせ、その結果リスペクトを獲得すること。異文化に安全圏から触れることができるという特権性を揺るがす、土埃をあげて踊る土着的なダンス。サルサやフラメンコだって民族から生まれた踊りなのだ。それならばナートゥダンスが尊重されない理由がない。なにより格好いいじゃないか!そんな思いを画面いっぱいに表現しているのが何より素晴らしく、胸がいっぱいになるシーンだった。

大英帝国支配下の辛酸をフィクションで塗り替えていくという気概

もちろん史実と映画は異なる。結局のところ現実世界では、物語の通りに大英帝国に対してインド人が反乱を成功させることは無かった。そもそも映画のモデルとなった独立運動家たちは、同じ時代には生きておらず出会ってすらいない。様々な運動家の努力と犠牲のもと、ようやく1947年8月25日にインドは分離・独立を果たしたが、その後も多くの血が流れた。

けれど、もしかしたらあったかもしれない(そしてそれがあれば現在も変わっていたかもしれない)未来を信じさせる力があるのも、この映画の魅力に他ならない。抑圧されてきたインド人が大英帝国の総督をやり込めたかもしれない未来。大切な家族を取り戻せたかもしれない未来。生きて愛しい人と幸福な人生を歩めたかもしれない未来。大英帝国の統治下で味わった辛酸と怒りを、エンターテイメントに昇華する。そんな気概を感じてとても感動した。

もちろんそれはお芝居という虚構を現実の出来事として観客に信じ込ませるような、緻密に綴られてた演技と演出があってこそだ。観客が体験したことがない出来事を心の中に再現させ、味わい尽くさせるような。だからこそこの映画に携わったNTR・ラオ・ジュニアやラーム・チャランといった役者はもちろん、監督を努めたラージャマウリの手腕は本当に素晴らしい。

植民地支配のあとも続く分断は、インド国内やその周辺地域に今でも静かに横たわっている。インタビューでラーム・チャランは監督を努めたラーマジャウリを「インド映画の垣根をブルドーザーのように壊した雄牛のような人」と例えていたが、裏を返せばインド映画界と言えども一枚岩ではない難しさがあったということなのだろう。そんな現状を打破するように、自国の独立にまつわる歴史を爽快な物語として描き切ったRRRは、今後映画史に間違いなく残るはずだ。そしてこの作品が、きっとインド映画をもっと面白くしてくれるものだと信じている。

余談

その1:観に行こうと思ったら予約が全然とれない

「今日は暇だから行ってみようかな」と気軽な気持ちで当日券を取ろうとしても、とにかく予約が取れない!都内はどこの映画館もほぼ満席。公開から1カ月以上経っているのにこの状況、いかにリピーターが多く愛されているのかがわかります。結局わたしは腹を括って当日の0時に予約サイトにアクセスし、無事にブッキングに成功しました。それでも当日劇場へ足を運ぶと、すべての座席が埋まっていてびっくり!嵐のコンサートか??RRRを見ようと思ったら入念に準備しておくことをおすすめします!

その2:エンディングで流れるダンスシーンの意味を身体で完全に理解した

これまでインド映画のエンディングでスタッフロールではなくダンスシーンが流れる意味がわかっていなかったのですが、今回ここまで魅せに魅せてくれたスターたちが、様々な表情で楽しそうに踊っている姿を観て「これはファンサか!」ということを完全に理解しました。宝塚歌劇団でトップスターが羽を背負って階段を降りてくるシーン=インド映画のエンドロールダンスということですね。今後はインド映画のエンドロールで主役たちが踊っている姿を見たら「ファンサありがとう!!」の気持ちでより楽しめそうです!

その3:ラーマ役のラーム・チャランにハマり、インスタをフォローする

RRRについて国内外の情報収集をしていくうちにラーマ役のラーム・チャランにハマってしまい、とうとうインスタをフォローするというところまでたどり着いてしまいました。メガスーパースターなのに控えめでシャイな性格はもちろん、

  • 投稿にはハートマークを使いがち
  • 愛妻家で家族の前ではリラックスした表情
  • プードルを溺愛していてどこへ行くにも一緒

などなど、とにかくすべてがいいですね…好きだ…

 
 
 
 
 
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↑プードルの登場率が異様に高いラーム・チャランのインスタ

終わりに 映画館で見るべき3つの理由

あ〜とにかく面白かった!こんなに夢中になれる映画に出会えたのは久しぶりでとっても嬉しい!!そしてもっとインドにおける独立運動の歴史についても学びたい意欲に火がついた3時間でした。こんな映画には生きていてあと何本出会えるか…本当にありがたい!
ここまで読んで、それでもまだRRRを観に行くか迷っている人に映画館でみるべき3つの理由を伝えて終わりにしたいと思います。

  1. すばらしいサウンドを映画館の音響で体感して欲しい

  2. 圧倒的な映像美に大画面で浸って欲しい

  3. 観客との一体感を味わえる唯一無二の体験をして欲しい

特に劇場ならではなのが観客との一体感!映画館に立ち込める密な空気、観客の息遣い、そして感情のうねり!これを体験できるのはやはり映画館ならではなんですよね。特にコロナ禍ではそうしたことを感じにくかったので、密になる楽しさを久しぶりに思い出せたような体験でした。そして観賞後に破れんばかりの拍手が鳴り響いたのも、とっても楽しかったです。客層の治安がいい。

視聴後の爽快感もすばらしいので、年越しムービーとしてもおすすめ!ぜひ皆さんも劇場に足を運んで、インド映画のおもしろさにどっぷりひたってきてくださいね!

 

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