東京で暮らす女のとりとめのない日記

暮らしとカルチャー、ミクスチャー

美味しい暮らし #12月編

 夫が平日ずっと出張しており、私の仕事も忙しかった関係で、ほぼ外食はせず家のご飯も適当なものが多かった12月。こうして振り返ると、料理をする動機の8割は夫が喜ぶ姿を見たいからなんだなと思ったり。夫がいない時のご飯を見ると、だいたいバナナとヨーグルト、はたまた玄米と焼き魚にインスタント味噌汁、たまにお惣菜のサラダとお刺身というルーティンでした。途中魚焼きグリルの掃除が面倒になり、アルミホイルに乗せて魚を焼くようにしたら熱伝導のせいかいつもより皮がパリパリして感動したり。一人のご飯もなかなか気楽でいいものです。
とはいえ夫がいないのはやはり寂しく、そのせいか体調を崩すことも多かった月でした。年々体力が落ちてきていて、それに比例して食べる量も減ったことを実感すると寂寞とした想いに捉われることがあります。牛のように胃袋がたくさんあったらいいのに。生きて健康であるからこそ食事は楽しめるという当たり前の言葉が身に沁みるようになってきた今日この頃。食べられるうちに色々な美味しいものを食べ、人生を享楽していきたいと改めて思う次第です。

祐天寺 ジェラテリア・アクオリーナ

たまたま近くを通りかかったのでアクオリーナに立ち寄った日。いつもアクオリーナのショウケースには、見慣れた味から個性的な味まで多種多様なアイスクリームがきらきらと並んでいて、うっとりと見惚れます。子供でも大人でもどなたでもどうぞと言われているようなラインナップ。冒険したいときも、いつもの味で甘やかされたいときも、どんなときでも自然と頭に思い浮かぶようなお店です。

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この日私が選んだのはピスタチオとオリーブオイルに栗。ちょうど季節限定のピスタチオ味のソフトクリームも売っていて注文間際まで悩み続けたものの「せっかく食べるなら美味しいものを少しずつ」が信条なので、ソフトクリームの誘惑を振り切ってこちらを選びました。ちまちまと掬って食べるだけでどうしてこんなにも幸福な気持ちになれるのだろう。市販のアイスクリームを自宅で楽しむ自由さも好きですが、こういったジェラテリアでしか味わえないスペシャルなアイスもいい。
ところで私がピスタチオの味に開眼したのは、小学生の頃に母が取り寄せたクリスマスケーキがきっかけでした。あの時「世の中にはこんなに美味しいものがあるんだ!」と驚いたことは、間違いなく我が食い道楽スピリッツに通じているように思います。今でもケーキ屋さんでピスタチオの製菓を見つけると必ず買ってしまうのは、あの時の目が醒めるような喜びを再確認し、当時の想い出を懐かしみたいからなのかもしれません。
ところで私が今一番気になっているピスタチオ菓子がイスラエルの郷土料理のHalva。一昨年イスラエル旅行の計画を立てていたとき、知人に「これだけは食べてきた方がいいイスラエルの名物があれば教えて」と聞いて教えてもらったお菓子です。ナッティなのに軽やかで儚く夢のように美味しいのだそう。特にエルサレムの市場で売られているものがお勧めらしく、いつか行きたい場所としてGoogleMap上でそのお店にピンを立てています。
そうこうしているうちに海外旅行なぞ夢のまた夢になってしまった昨今ですが、来たる日のために「もしイスラエルに行くのであれば、空港でイスラエルの入国スタンプは押さないでくれと伝えた方がいい」と教えられたことを頭の片隅に置いて、その日を待っています。

蒲田 autentico

この日は夫とクリスマスディナー。厳密にはクリスマスを過ぎた28日に仕事納めの慰労会も兼ねて、今年の夏に出会って好きになったイタリアンで食事をしてきました。イタリア産のビオワインが豊富でいつも料理に驚きがある、個人的にかなりオススメのお店です。自宅から遠く離れているので普段なら行くまで億劫に感じる距離ですが、そんなことが気にならないくらいここで食べた料理の美味しさが忘れられず、電車を乗り継いで改めて訪れました。この日頼んだのはペアリング付きのコース。

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この日の食前酒はレ・マルケジーネのFranciacorta Brut。のっけから好みのスパークリングではしゃいでしまう。口に含んだ途端華やかな果実と酵母感、一瞬ミードかと錯覚するくらい甘さを感じるものの、余韻は一切残さない潔さがありクリアな印象。あまりにも好みだったので、このあと自宅用に取り寄せました。

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食前酒に合わせて出てくるStuzzichinoはスペシャリテのけし餅。中身がとある食べ物なのですが、ぜひこれは下調べ無しにお店に行って直接味わってみてほしい。個人的に今までこの餡の部分に使われている食材が得意ではなかったのですが、ここに来て克服することができた印象的な料理でもあります。ランチコースでこれを頂いた時の「このお店は絶対好きなお店だ」と確信した時のことが忘れられません。

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Antipastoの1皿目は寒鰤。季節の野菜と層になっていて、2段目以降は柚子が忍ばせてあります。野菜の食感や味わいも含めて1皿で2度も3度も楽しめる構成です。このお皿はコースの中でも特にペアリングとの相性が良かった印象。Podere santa luciaのミネラル感のある苦味が脂の乗った寒鰤と絶妙に合っていました。

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Antipastoの2皿目は白子とちりめんキャベツ。確かイタリア料理にカポネというロールキャベツに似た料理があったと記憶しているのですが、それを洗練させた料理と言えば良いでしょうか。実は私白子が大の苦手でこの日は「しまった!」と内心がっかりしたのですが、そのがっかりが何処へやら、この日食べた料理の中で一番好きだといってもいいくらいお気に入りのひと皿になりました。
白子を包んだちりめんキャベツの上からバターとアンチョビのソースがかけられていて、食べる前からいい香りに満たされます。少しずつナイフで切り分けていただくのですが、中に入っている白子は食感と味に一切の嫌味や臭みがなく、濃厚なクリーム部分と旨味だけが上手く残っていてびっくり。それがキャベツの甘さとバターのかかった部分の香ばしさ、アンチョビの塩気と混ざり合ってえも言われぬ美味しさです。人目がなければその場でジタバタしたくなるほど素晴らしかった。
ペアリングはBianco di ampeleia。軽やかな飲み口と果実の芳香のバランスが良く、スイスイ飲んでしまいました。

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Primoの1皿目は牡蠣のトンナレッリ。トンナレッリはパスタの種類のことで、四角い切り口のもちもちしたロングパスタ。日本だとキタッラの名称の方がメジャーでしょうか。ローマっ子はトンナレッリ、それ以外の地方ではキタッラと呼ぶそうです。牡蠣の出汁が麺と一体になっていて、そこに白菜の青味とイタリアンパセリがアクセントとなっていて楽しい一皿。
ペアリングはHauner iancura。ドライでさらっとした口当たりにミネラル感、最後に果実のアロマがかすかな余韻を残していきます。ワイン単体でも十分楽しめそうで特に印象に残りました。

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続いてPrimoの2皿目はその名も鴨南蛮。鴨肉をパスタ生地で包み九条ネギを乗せた、ユーモアと食べる楽しみに溢れたひと皿です。直接シェフが持ってきてくださったのですが、その時の「鴨南蛮です、なんちゃって」という茶目っ気のある一言に思わず和んでしまいました。パスタの食べ応え、鴨肉の肉肉しさに九条ねぎの甘味がいいバランス。料理で誰かを喜ばせたいというカウンターの向こう側の思いが詰まったひと皿だと感じました。
ペアリングはこの日初めて出された赤ワインで、Gorghi tondi のDUME。普段赤ワインに感じるタンニンが苦手であまり飲まないものの、これは比較的渋みが柔らかくスパイス感があって、料理に合わせるとちょうど良かったです。

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Secondは本日の肉料理で、この日はラム肉をオーダーしました。赤玉葱のピュレやスパイスソルトといった調味料が3種用意されていて、一つのお肉で色々な味が試せるのが嬉しい。肉の火入れは勿論、付け合わせの金時人参も一切ムラがなくとても美味しかった。ペアリングはFevidi spadaのOrazio。単体で飲むと芳醇で重さのある赤ですが、ラム肉と合わせると不思議と軽やかに感じました。

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Dolceは焼き林檎にアイスクリーム。前回ランチコースを頂いた時も思ったことですが、ドルチェが毎回ハイクオリティで凄い。焼き林檎はクランブル生地が敷き詰められていて、上部はパリッとカラメリゼされている手の込みよう。映画のアメリよろしく上をコンコンを割ってひと口食べると、甘さとほろ苦さにサクサクとした食感、人匙のスパイスが煌めいて思わず唸ってしまいます。アイスを乗せて食べてもよし、最後に食べて口をさっぱりさせてもよし。受け手が自由に創造できる余白が楽しく、自由な喜びに胸がいっぱいになりました。

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出されるコーヒーは浅煎りで軽やか。満たされたお腹と口の中を洗い流すのにちょうどいい。
コーヒーを飲みながら美味しかったねと夫と微笑みあっていたところ、再度シェフが来てお茶菓子にと出された甘納豆チョコ。蒲田では有名だという木村屋蒲田谷口商店の甘納豆をチョコレートとカカオパウダーでコーディングしたもので、これが意外と美味しかったです。夫が「全国の甘納豆屋さんにおたくの甘納豆、チョコレートをコーティングしたら売れますよって教えてあげたいね」と言っていて発想が平和だなぁと思うなど。

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お会計をして満足して外に出たところ、シェフとパートナーの方が追いかけてきて下さりお土産にとビスコッティを頂いて恐縮しました。早速翌日、頂き物の良い紅茶を淹れてお茶菓子として頂き、昨晩の料理の余韻に浸って幸せな気持ちに。
思えば初めて夫と出会ったのは同じく蒲田ででした。あの時夫がどんな気持ちでいたのか知る由もありませんし、明らかにするつもりもありませんが、想い出の土地に違いはありません。そんな土地で4年目のクリスマスを迎えられることが何よりも嬉しく思います。食べる楽しみをピュアに感じることができる料理の数々。クリーンで落ち着いた肩肘張らない穏やかな空間。店内に活けられた季節の草花。卓上の小さなモミの枝。どれをとっても良さがあり、季節毎に伺いたいお店です。
意図していなかったものの、振り返ると今年はイタリアンやその系譜を汲んだ料理を食べる機会が多かった年でした。自粛要請期間中に取り寄せたともすけのラザーニャ、ブカマッシモのランチ、LOGの朝食など。来年はもっとイタリアンのことを歴史や成り立ち、地方毎の特性などをもっと深く掘り下げて知っていきたいと思いつつ、それぞれのお店が長く続くことを願ってやみません。

おうち居酒屋セット

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夫が携わっていたプロジェクトが無事終わり、ねぎらうために作ったおうち居酒屋セット。普段ならここまで豪勢にしないものの、夫と久しぶりに家でご飯ができる嬉しさから前日から用意をしていました。
銀杏とゆり根の天ぷらに、会津の馬刺しときゅうりの千切り。スモークチーズとたらこの味噌漬け、なすのいなかふうとマッシュルームと三つ葉の和え物、自家製いくらの醤油漬けとかんずり明太子、そしてしらすとねぎのだし巻き卵。日本酒は郡山のにいだしぜんしゅで。馬刺しと天ぷらは私も横からちょいちょいつまみました。
馬刺しは地方によって色々な食べ方がありますが、やっぱり私はにんにく唐辛子味噌で食べるのが一番落ち着く。「昔会津の居酒屋でおばあちゃんが出してくれたとっておきの霜降りの馬刺し、美味しかったよね」などと懐かしい昔話に花が咲きます。あのおばあちゃんは元気だろうか。寂れた温泉街にポツンと赤提灯を出していて、そこで食べた山菜料理や馬刺しが異様に美味しかった。お店の中には木彫りの天狗の面や有田焼の壺などが所狭しと並んでいて、つやつやに磨かれた一枚板のカウンターがあって。
「また会津に行きたいね」とニコニコした夫に「そうだね」と返しつつ、次に行けるのはいつになるのだろうか、その時にあのお店は存在しているのだろうかと思いを巡らせました。

2020年の記録を振り返って

2020年の記録を振り返ると2月までは旅行も外食も気ままにしていて驚きます。2月に松本で美味しいご飯を食べて呑気に過ごしていたことが遥か遠い昔のことのようです。

思えば本当に2020年は大変な年でした。
食事に関して言えば、6月以降大好きだったお店との別れがあり、正直今でもその喪失を受け入れることができていません。そうして次々訪れる別れの挨拶に直接会って返すこともできないまま、自分の無力感に打ちひしがれていました。一方で去っていった人たちの話を聞くと、これまでの営業自体が非常に無理があるものであったことが伺え苦しい気持ちになりました。言えた義理ではありませんが、それでもどうか皆元気で健やかに過不足ない生活を送っていてほしいと切に願います。
また「いつか行こう」と憧れていたお店が次々と消えてしまったことで、そのお店に行けるのは今しかないのだという事実にも気がつきました。いつまでもそこにあってくれるような気がしても、実はそうではない。そのお店でそのチームで作る料理を食べることができるのは、当たり前ではないのだと改めて思った次第です。2021年がどんな年になるか分かりませんが、そうしたいつか行こうと思っていたお店にも足を運んでいければと思います。
虚しさに捉われる1年ではありましたが、それでも2021年は淡々と私にできることをしていこうと思います。政治の世界へ意見を届けてくれるであろう人間を選び続けること。個人でできる範囲で支援を行うこと。学び続けること。これが現時点での考えです。
微々たることではありますが、去年からひとり親家庭の支援やフードバンクへの支援を行うようになりました。しかし私が善意で支援することが行政がお金を出さない理由にはなって欲しくない。この善意が都合の良い消費をされないよう気をつけつつ、できることをコツコツ取り組んでいきたい次第です。
どうか皆々様も健やかで。美味しいものを食べつつ本年も生き延びていきましょう。

飲食店に係る協力金の情報はこちら

・新型コロナ 給付・助成金など支援制度まとめ

yahoo!暮らしにて掲載されている、新型コロナウイルスに関連する給付金などが検索できるページです。

・東京都 各種支援制度

東京都在住の個人・法人を対象とした支援制度の検索ページです。ただし非常に分かりにくく、ユーザに不親切な仕様となっているため、該当する支援制度が見つけられない場合でも一度直接電話等で問い合わせることをお勧めします。

経済産業省各種支援策

経済産業省主体の各種支援策の情報です。中小企業向けの資金繰りなどが詳細に記載されています。東京都のHP同様非常に分かりにくく、特にスマートフォンからの閲覧は困難なため、該当する支援制度が見つけられない場合でも一度直接電話等で問い合わせることをお勧めします。

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美味しい暮らし #11月編

あけましておめでとうございます。11月の記事を書こう書こうと思っている間に年が明けちゃいましたが、どうぞ引き続きお付き合い頂ければ幸いです。我が家はお家でのんびり年越ししました。今年は初詣には行かず、おせちも作らないと決めたので気楽でいい。夫は年越し用に風の谷のナウシカの漫画を買っていて、年の瀬からずっと夢中で読んでいました。自分が好きだったものを相手も夢中になってのめり込んでいる姿を見ると嬉しくなりますね。私もお茶を飲みながら図書館で借りてきた本を消化し、時々頂き物の果物を食べるなどして気ままに過ごしています。Spotifyで2020年によく聴いた音楽を流していると、BLACK PINKからD'angelo、Robert GlassperにJarrod Lawsonというラインナップでした。

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特に一番よく聴いたのがD'angeloのI Found My Smile Again。相変わらずファンクやソウルが好きです。BLACK PINKは曲そのものよりRoseの声が好きで聴いています。昔のカーディガンズっぽいシャビーな声質がいい。年をとるとだんだん新しい音楽を探さなくなっていきますが、Spotifyを契約してからまた興味のあるアーティストが増えてきました。2021年も良いアーティストに出会いたいな。
11月は新しい結婚式場探しと仕事に奔走した月でした。若干燃え尽き気味になりかけた月で、そのせいか体調を崩すことも多かった気がします。もういい大人なので力の抜き方を覚えたい。確か中学生の頃は目指す大人像がYOUだったよなぁと思いつつ、我が身を振り返るとそのギャップに笑ってしまいます。適当で飄々とした大人に依然として憧れはあるものの、自分の根の部分は変えられなさそうなので上手く折り合いをつけていく方向性でハンドリングしていきたい。大人になるということは自分のイケてないところを乗り越えることと思っていましたが、むしろその自分でやっていくための技術を持つことなのかもしれません。

神楽坂 BAR燐光

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神楽坂で用事を済ませた帰り道、身体が冷えていたので少し暖まってから帰ろうと何年かぶりにBAR燐光に。身体が泥のようだったので、現実から1センチ離れられるようなものを飲みたいと思いラベンダーのジントニックをお願いしました。気分にあった1杯が必ずある安心感に肩の力が抜けていきます。
店内には初めてと思しきお嬢さんがふたりいて、少し緊張しながらオーダーしている様子に昔の自分を重ねて懐かしくなりました。Bar werkに行った時も思ったことですが、クリーンで安心して使えるバーがある街はいい街だなと思います。オーセンティックバーも好きですが、最近はこのくらいの温度感のお店が気分に合っている。
置いてあるフィンガーフードの手軽さもいい。門前仲町オーパにあるフライドポテトや銀座のサンボアビーフカツサンドといったがっつり系も良いですが、こちらはこちらでサッと使いたいシーンに寄り添うラインナップで潔い。店を出て、店頭に貸し出し可能な図書が並んでいるのを眺めながら神楽坂が身近な風景から遠くなったことを感じつつ、暖まった身体とラベンダーの余韻に満足して街を後にしたのでした。 

鎌倉 maison de lulu 

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鎌倉のHeming Artsへ大好きな作家さんの器が入荷したという報せを受けてお店へ行った日。目当ての器を買い、包んでいただいている時にお店の人と鎌倉の美味しいお店で盛り上がり、その時にここのフィナンシェが美味しいと教えてもらったのでその日に行ってきました。お店は祖餐の隣にあり、こぢんまりとしたショーケースに焼き菓子を中心としたお菓子が綺麗に並んでいます。この日はフィナンシェにシュークリーム、チーズケーキを購入して帰りました。
フィナンシェはバターがたくさん染みていて豊かな味わい。リベイクすると端がカリッとしてまた違った美味しさが楽しめます。どのお菓子も一口大の大きさで罪悪感がないのも嬉しいです。一口大の大きさの商品が多く手頃な値段設定なのは、オーナーが普段使いしやすいお店を目指してとのこと。そのせいか地元の人たちが代わる代わる訪れていて人気な様子が伺えました。私はシュークリームが好みでしたが、夫が気に入ったのはチーズケーキらしく、また鎌倉に行ったら買ってこようと思った次第です。

浅草橋 ル・グッテ

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たまたま浅草橋の方へ行く用事があり、神社の裏道を通ったところ素朴な焼き菓子やさんがあったのでプリンを購入して帰ってきました。プリン自体は素朴な甘さ、生クリームにちょっと洋酒が効いていて美味しい。何より店頭のおばちゃんたちが朗らかに働いていている姿が印象的でした。
後から調べたところ木曜と金曜だけ営業されているとのこと。地元らしき人がひっきり無しにお店に来てはお菓子を購入されていき、愛されているのだなとあたたかい気持ちになりました。 こういった地元の人たちが大切に育てているお店があるとしみじみいいなと感じます。その日は売り切れていましたが、マフィンやカヌレも美味しいらしいので機会があればまた伺いたいです。

代々木公園 FUGLEN TOKYO

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結婚式の打ち合わせの後代々木公園を散歩して帰るついでにFUGLENへ。肌寒い時期にコーヒー片手に公園を散歩するのが好きです。
代々木公園のバードサンクチュアリでふくら雀とヤマガラを眺めていたところ、隣にいた常連と思しき男性がスッと宙に人差し指を伸ばし、そこに鳥たちがかわるがわる羽を休めにきてびっくり。思いの外野鳥が多かったので、今度は双眼鏡を持ってこようと思いました。
自粛要請期間中に散歩をするようになり、その時に陽の光を浴びて輝きながら華麗に舞うカワセミや、緑道で人に警戒心を抱くこともなく穏やかに日向ぼっこをする鴨の番をみてからバードウォッチングが趣味となりつつある今日この頃。健気に生きるものを見ていると穏やかな気持ちになり、自分が歳をとったことをしみじみ実感します。来年もちいさきものたちを静かに愛でていきたいです。

京橋 ダバインディア

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珍しく午前中休日出勤だった夫と待ち合わせて久しぶりにダバインディアでランチミールス。私がテレワーク中心になってしまってから会社帰りの夫と待ち合わせることが殆どなくなってしまったので、この日は嬉しさからはしゃいでしまい笑われるなどしました。幾つになっても夫と待ち合わせをしたい。
私がミールスを好きになったきっかけの一つがここのランチだったのですが、改めて来てみると結構ランチは日本人向けに調整されているのだなと気づくところがありました。おそらく最後に来てから2年以上経っていますが相変わらず美味しい。来年もたくさん南インド料理を開拓したい限りです。


鎌倉 フォーカットゥン

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夫と鎌倉に結婚式場の下見へ行った帰りに偶然見つけたこのお店。11月に食べたものの中で一番印象に残ったお店です。この日は季節限定のブンチャーがあるということで私はそれを、夫は牛肉のフォーを頼みました。

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これがもうとっても美味しかった!付属のタレをかけるタイプのブンチャーで、辛いのと甘いのと酸っぱいのにいろんな具材の味がしてこれぞベトナム料理。あの味を食べたい欲を100パーセント満たしてくれます。トッピングされているネムザンという揚げ春巻きも皮がカリカリできちんと美味しいし、ベトナムなますの食感もいい。
夫のフォーも分けてもらったのですが、スープも麺も今まで食べたフォーの中でずば抜けたうまさで一口飲んでひっくり返りそうでした。澄み渡っていて一切濁りがないスープ。これを食べるためだけに鎌倉にくる価値があると言っても過言ではありません。店員さんに聞いたところスープは化学調味料を一切使用していない牛骨ベースの出汁を使用しているとのこと。旨味とコクと香ばしさのバランスが素晴らしく、いくら飲んでも飽きない。このお店が近所にあったらいいのにとすら思います。

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まさかこんなに誠実な美味しさを提供するベトナム料理屋さんが鎌倉にあるとはおもわず、とても嬉しくなりました。通し営業をされているので、お昼ご飯を食べ損ねた時も頼りにできるのが嬉しい。バインミーを販売する日もあるそうなので、次はそれを食べに来たい。どうかこの地域に根付いて欲しいと願わずにはいられないお店でした。

喜久福 生クリーム大福

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昔から大好きな喜久福の生クリーム大福。仙台銘菓といえば萩の月が有名ですが、こちらもおすすめ。出先の催事場で見かけたので久しぶりに買ってきました。冷凍系の餅菓子は歯が折れるくらい固い状態でちびちびと齧るのが好きです。受験生のとき、家の冷凍庫から持ち出しては自室でストーブにあたりながら齧っていた日を思い出します。新しいお菓子を開拓する楽しみもありますが、これまで愛着を持って親しんでいたお菓子には落ち着くような良さがあり、変わらない味というものに安心感を覚えるようになりました。
他に東北の銘菓で好きなのが青森の気になるりんごに岩手のごま摺り団子、山形の乃し梅と秋田の金萬、そして福島のエキソンパイままどおる。気軽に出かけられる日々がまた訪れたら東北の美しい景色と美味しい料理を食べに行きたい。それまではこうしたお取り寄せで懐かしもうと思います。

里芋と生姜のポタージュ

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尾道のLOGでいただいた里芋と生姜のポタージュが忘れられず自宅で自作したもの。寒くなってくると野菜のポタージュが鍋にあるだけでどことなくほっとします。LOGの料理はあまりにも素晴らしく、帰ってから細川亜衣さんのレシピをよく作るようになりました。その中でもパスタミスタは簡単にできて素材の妙というようなうまさがあり、体調が悪い時によく食べた料理です。

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今年行った旅行先で一番良かったと言っても過言ではない尾道。LOGの部屋から見える尾道水道はいつもきらめていて、いつまでも眺めていたいと願うほどでした。

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まだ京都旅行のブログも途中ですが、尾道旅行記もいずれ書きたい。志賀直哉の暗夜行路を携えながら歩いた尾道の風景や行く先々で出会った水先案内人のような猫、美しい瀬戸内海の夕暮れにLOGでの一片一片がきらめくような生活、東京物語の撮影場所を巡り過去の人々の想いを考えた瞬間。あの想い出に生かされているようなところがあるとさえ思う今日この頃です。

 白ごはん.com   水炊き

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夫が作ってくれた白ごはん.comの水炊き。お店で食べるみたいに美味しくてまた作って欲しいとお願いしました。2日目のくたくたになったキャベツが特に美味しくて好きです。

しめはレシピ通り雑炊でもよし、我が家ではマルタイラーメンを入れてしめにすることもあります。

11月の後半から12月にかけては夫が仕事のプロジェクトで出張になり、平日は家にいない関係で一緒にご飯を食べることができませんでした。今までひとりご飯でも平気だったのに、夫がいないと何かを作る気になれず、改めて夫が私の生活の一部になっていることを実感した次第です。誰かと一緒にいることを知ってから一人になることは、その人を知る前の自分に戻るわけではないのだということを思い、これからの人生いつまで一緒にいられるのかはわからないけれど、一緒にいる限りは夫と過ごす時間を良い時間にしようと思うなどしたのでした。毎週末になるとくたびれきった表情で「会いたかったよ〜」と帰ってくる夫が少年のようで可愛かったのは本人には内緒にしておこうと思いつつ。

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2020年 買ってよかったもの 14+1選

2020年もあと少し。というわけで今年も購入品を振り返ります。

 

日常生活のちょっとしたストレスを楽にしてくれたもの 3選

日々の掃除から解放される アイロボット ルンバ i7/ブラーバジェット m6

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これまで使用していた某メーカーのお掃除ロボットをそろそろ買い換えようとなり、現物を見に行ったところ、ちょうどルンバとブラーバをセットで購入に限りキャッシュバックのキャンペーンがあるということだったので、これを機に2台導入することに決めました。
それまではあまりお掃除ロボットの性能に満足しておらず、毎日朝出かける前にスイスイッとクイックルワイパーをかけて取りきれていないゴミを見つけるというのが常だったのですが、アイロボットの製品に変えてから本当に気にすることがなくなりました。念の為週に1度部屋の四隅にクイックルワイパーをかけますが、それでもほとんどゴミはついてきません。
アプリと連携させて、稼働させたい場所と時間などを指定できるのもいい。ちょっと近未来感があってワクワクします。基本的にトラブルの起こったところは避けるようマッピングされるので、高低差がさほどない段差であれば引っかかって動けなくなっているということもありません。ただしブラーバはもともと段差が超えられない仕様なので、小さい段差でもよいしょと持ち上げて移動させる必要があります。個人的には特に苦になりませんが、腰を痛めている人や日常動作が大変だと感じる人にはルンバの方が楽かもしれません。
何よりルンバとブラーバを導入したことで、日々の掃除タスクから解放され予想以上に楽になりました。2LDKに引っ越してからクイックルワイパーで掃除する時間が地味に負担だなと感じていたので、この時間を自由に使えるのは大きい。ブラーバはキッチンでも活躍してもらっていて、何かをこぼしてしまった時や調理後の床の汚れをこまめに拭きたい時に本当に助かってます。
使ってみて気になる点としてはルンバの音がややうるさいところ。壁が薄い賃貸だとちょっと気を使うかな。対してブラーバは静かなので、その点もいいなと思います。どちらか買おうと思っているけど迷っているという人や一人暮らしの人には断然ブラーバがお勧めです。
安くはない買い物でしたが、毎日床がピカピカで綺麗だと気持ちがいいし、家事の負担も軽減されるので買ってよかったと満足しています。サブスクにも対応しているので、もし興味があればまずは気になる製品を試してみることをお勧めします。

髪の毛を乾かす時間が断然短くなった! パナソニック ヘアドライヤーナノケア

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もうかれこれ10年以上旧型のナノケアを使っていたのですが、そろそろ新しいものに買い換えようと思いドライヤーを新調することにしました。新しいドライヤーを何にするか迷ったものの、機能面とデザイン、故障時のサポート体制や費用という点で比較して、今回もパナソニックのナノケアを購入することに。
実際の使用感ですが、まず重さが旧型よりかなり改良されていて軽い!いつもドライヤーをするときは髪の毛に一定時間熱が加わらないよう左右に振りながら乾かしているのですが、その作業がとても楽になりました。風量が強いので、私のような毛が細く毛量が比較的少ない胸元まであるロングヘアだと、タオルドライをして5分強くらいで乾きます。ドライヤーをしている時間はいつも悠久の時が流れているように感じる作業なので、こういうアイテムがあるとかなり助かる。
仕上がりは比較的スムースな印象です。行きつけの美容室ではリファのドライヤーを使っているのですが、シルキーで潤い感の強い仕上がりが好きな人はリファ、サラサラ感を残しつつ艶も欲しい人にはナノケアが良いと思います。
個人的に新しいナノケアにして特に印象的だったのが髪の毛のまとまりの良さ。今まで使っていたヘアゴムでいつも通り髪の毛を結んだところ、ケアゴムがすり抜けてスルッと落ちた時はびっくりしました。何より髪の毛の手触りが良くて、いつまでも触っていたくなるくらい。使用感はもちろん生活の時短にもなり、導入後の満足度がかなり高い買い物でした。

panasonic.jp

お会計の所作を快適にしてくれるミニ財布 TMBEA MINI ZIP

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もうかれこれ2年くらいコンパクトなお財布を探していて、やっと今年の秋に「これだ!」というものを見つけました。手に馴染む柔らかい皮で、デザインと機能性が両立していて、値段が納得できるお財布。TEMBEAのMINI ZIPは求めていた条件を全て満たしていて、見つけたその日に購入しました。

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特に気に入っているのが機能面。ジッパーを開けるとお財布がガバッと開いてお札・カード・小銭が一気に取り出せる優れものです。お札は1枚入れておけば滑りやすく、取り出しに手間取ることもありません。カードの収納スペースも十分確保されていて、普段は7枚くらい入れて持ち運んでいます。何よりこれに変えてから、お会計でモタモタして焦るストレスから解放されました。冬場はコートのポケットにこれとスマホと文庫本さえ入れておけば気軽に出歩けるのも身軽でいい。
私は神宮前のお店で購入したのですが、店員さんが同じカラーの在庫を全部出して選ばせてくれたのが印象的でした。まるで自分だけのものを選びとれたような新鮮な嬉しさがあり、店頭で買い物をする醍醐味を思い出した瞬間でもありました。シボの風合いが気に入って選んだお財布は手に取るたびにその時の気持ちが蘇ります。キャッシュレス決済が生活の主軸ではあるものの、まだ当面お財布を持ち運ぶ必要がある現在、今の生活にフィットするちょうど良い存在感のお財布があるとお会計も生活も楽しくなると感じている今日この頃です。shop.torso-design.com

 

ボディケア・スキンケアのために導入して満足度が高かったもの 3選

肌を健やかに保ちたい人のためのスキンケア トゥベールナノエマルジョン/クリアパウダー

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春先の外出自粛要請を機に会社に出勤することもなくなりメイクを全くしなくなってしまったので、代わりにホームケアとしてのスキンケアを頑張りたいと思って以前から気になっていたトゥベールのスキンケアを一式購入しました。
その中でも特に良かったと感じているのがナノエマルジョンとクリスタルパウダー。ナノエマルジョンは水みたいにシャバシャバなのにしっかり保湿力があって、なのにベタつかない優れもの。高保湿の乳液やクリームに感じるあの独特の被膜感もなく、使用感と効果のバランスが良くて今年一番感動したスキンケアでした。また毎年秋口になると肌が乾燥して何を塗っても突っ張るのですが、このおかげか今年はそういった肌の不調もありませんでした。
クリスタルパウダーは一度使うだけで毛穴が引き締まり、キメが整っていることを実感できたアイテムです。肌が直接白くなるといった効果はありませんが、たるんだ毛穴とキメが整うことで肌がワントーン明るくみえるようになるのでそれだけでも気分が上がります。トゥベールはどれも使い続けることで、ある日違いに気がつくアイテムが多い印象ですが、これは1回の使用で違いを感じることができました。どの製品も無香料なので、香料が苦手な人にもオススメです。

ちなみに写真に写っているパナソニックのスチーマーは昔友人から贈られたもの。テレワークを機にドライアイがひどくなったので仕事中の加湿器替わりとして導入して見たところ、スチーム効果なのか目の疲労感を感じにくくなり良さを再認識したアイテムでした。めぐリズム愛用者でしたが、これを使うようになってからめぐリズムの出番が減りつつあるくらい。2020年に使って良かったランキングがあれば絶対に上位になるであろう、影のオススメアイテムです。

panasonic.jp

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健康な歯を自宅でも パナソニック ジェットウォッシャー/音波振動歯ブラシ ドルツ

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お世話になっている歯科医が感染症対策で営業時間を短縮したことで気軽に歯のメンテナンスに行けなくなってしまい、ホームケアでなんとかしようと購入したジェットウォッシャーと音波振動歯ブラシドルツ。これ、本当に買ってよかったです。
まず電動歯ブラシですが、力を入れず軽く表面を撫でるように動かすだけで歯が尋常じゃないくらいツルツルになります。特にお勧めなのが歯茎マッサージ用のモード。付属のシリコンブラシを使ってマッサージするのですが、これが本当に気持ちよくて毎晩楽しみにしているくらいです。もともと歯茎の状態は良い方でしたが、これに変えてから「歯茎がキュッとするってこういうことなのか!」と目に見えてわかるようになりました。歯そのものだけでなく歯茎のケアもできるので、本当に買ってよかったと思っています。
次にジェットウォッシャー。いつも歯磨きの仕上げはフロスを使っていたのですが、これを購入してからフロスの必要性を感じなくなりました。歯の間に詰まった汚れを根こそぎ除去してくれるので、これをやってからフロスをかけると汚れがついてこないのです。今までの歯磨きはなんだったんだろうと思うくらい歯がピカピカになるのはもちろん、朝起きても口の中がさっぱりしているので口臭予防にも役立ちそうだなと感じています。
ちなみに電動歯ブラシは研磨剤が入った歯磨き粉の使用を控えることが推奨されているのでそこだけご注意を。私は朝は木曽檜の歯磨きジェル、夜はコンクルートを使っています。毎日の歯磨きが楽しくなるのでとってもお勧めです。

自宅でも運動が継続できた ニンテンドーSWITCH/リングフィット アドベンチャー

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ゲームを買うなんて小学生以来!自粛要請期間中に周囲の友人たちが次々と購入し、とても気になっていたニンテンドースイッチ。今年の春から夏に掛けては正規品の在庫が全く見つからず抽選にも外れ続けていたのですが、秋になって生産が追いつくようになったのか、たまたま11月に出先のヨドバシカメラで売られているのを見つけて即座に購入しました。
購入したソフトはずっとやってみたかったリングフィットアドベンチャー!ドラコというボスを倒すために筋トレをして強くなる…という設定です。ちょっと動いただけでキャラクターたちから褒められ、なおかつ報酬がたくさん組み込まれているので、びっくりするくらい楽しく運動が続けられます。ジムに行けない日でもこれで15分くらいトレーニングするだけでストレス発散ができるのも嬉しい。携帯で持ち運ぶことも可能ですし、家のテレビにつなぐこともできます。個人的に小さい画面を見ると、ただでさえ仕事で疲れた目がさらに疲れるので嬉しい限り。何よりこれを購入してから「今日もジムにいけなかった…」という罪悪感がなく「今日もトレーニングができた!」という気持ちで1日を終えられ、その日の満足度が向上するようになりました。効果については個人差があると思いますが、私はこれを始めてから食生活を変えていないにも関わらず体重が落ち、階段の上り下りを楽に感じるようになりました。何より肩こりが緩和されたのがいちばん嬉しかったです。実感が伴うとますます運動が楽しくなりますね。この調子で継続して続けていきたいところです。

 

セルフケアとして身体や心を整えたい時に役立ったもの 4選

「なんとなく不調」な日々を乗り切りたいときに 命の母ホワイト

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生理前や最中の体調が年々悪くなる傾向にある昨今。医者に相談したものの私の場合ピルは副作用が酷いため取り入れられず、解決策が見つからず悩んでいたときに出会ったのがこの命の母ホワイトでした。生理前の浮腫みや腹部膨満感に伴う食欲の減退、消化機能の衰えや精神的な疲労感といった、些細ではあるけれど生活する分にはそれなりに辛い諸症状を緩和してくれた薬です。これを飲む前は生理前になると「この状態で今はなんとか仕事ができているけれど、体力的に子供ができたら無理だな」と思うことが多々あったのですが、これに出会ってからは体力面で自信を無くすことが減り、子供ができても仕事を続けていけるかもしれないという前向きな希望が持てるようになりました。
こういった諸症状に対して調べると、信頼性に欠ける民間療法や女性のためを装った高額なサプリメントなどの情報に行き着くことが多く、内心情報を精査するだけでも疲れるので、こうした信頼できる製薬会社が良心的な値段で効果を感じられる薬を開発してくれたことに有り難さを感じます。第三類医薬品なので大抵のドラッグストアには置いてあるのも助かるポイントです。個人的にはかなり効果が実感できたので強くお勧めしたいところですが、とはいえ医薬品なので購入する前にはかかりつけ医に相談されてから試されることと、添付文書は必ず読むことをお勧めします。

ちなみに写真に載せている以下のサプリメントも補助として継続して良かったと感じているもの。LactoBifは腸の環境を整えたいときに、ASCORBIL PALMITATEは体調管理の目的で脂溶性のビタミンCを摂取したいときに飲んでいます。同じ悩みを抱えている誰かの参考になれば嬉しいです。

淀んだ思考をすっきりさせたいときに Narinハーブオイル33+7 ロールオン

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仕事中煮詰まったときのリフレッシュ法の中で、一番手軽なのが香りを嗅ぐこと。普段は無印のアロマディフューザーにラベンダーや檜のオイルを垂らして気分転換を図っているのですが、もう少しスッキリした気持ちになりたいときはこのロールオンを使っています。ユーカリが主体でブレンドされているのでかなり清涼感のある香り。ほんの少し塗るだけで鼻に爽やかな香りが抜けていき、気分がとてもスッキリします。私は集中力が切れたときや、煮詰まって良いアイディアが出ないときのリフレッシュアイテムとして使用しています。香りの拡散も控えめなので、職場で香りを楽しみたい人にも良いかもしれません。
ちなみにナリンの精油は直接肌に塗って良いとのことですが、私は念のため1日に数滴程度、塗る部位は手首にとどめています。偏頭痛持ちなので、出かけにポケットに忍ばせておくこともしばしば。香水よりもう少しハーバルな香りを気分転換のために手軽に使いたいとき、手軽に頼ることができるので助かっています。

ほっと一息つくためのスイッチとして 一保堂ティーバッグセット

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今年に入ってからカフェインに対する耐性が低くなってしまったのか、ブラックコーヒーを飲むと動悸がするように。朝にコーヒーの良い香りを嗅ぐ楽しみが無くなってしまったため、代わりにカフェインの低いお茶を探して飲むようになりました。ルイボスティーやフレイバーティーなどを試し続け、気がつけば朝ほうじ茶を飲むことが習慣に。仕事がテレワークに移行してから常に緊張状態が続いていたこともあり、お茶の良い香りがリラックスするためのスイッチになってくれていたようです。
その中でも特によく飲んだのがこの一保堂のティーバッグセット。煎茶・ほうじ茶・玉露が各種入っているので様々なシーンや気分に合わせてお茶を楽しむことができます。私は少し仕事に集中したいときは煎茶、リラックスしたいときはほうじ茶、甘いものを食べるときや気持ちを和ませたいときは玉露を飲むようにしています。
他にノンカフェインで気に入っていたのはTEAtoriCOのフルーツティーフリーズドライをした果実が入っていて、飲み終わった後に食べることができる新感覚の飲み物。結構甘いので間食したいときや疲れて糖分を補給したいときなどに飲むようにしていました。それから私が買ったものでは無いのですが、友人から贈ってもらったUf-fuの生姜とレモングラスのフレーバーティは香りが実に心地よく、今年一番美味しいと感じた紅茶です。
いい香りのする温かい飲み物を飲むとなぜか心が落ち着く不思議。タンブラーに入れて持ち運んでもいいし、家で楽しんでもいい。変化が多い昨今、自分の心が落ち着くアイテムがあると、それだけで安心して仕事ができるような気がします。いずれもちょっと一息つきたいときのティータイムにおすすめです。

頑張った自分を労うための甘いもの 小島屋 けし餅

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今年取り寄せた菓子類の中で一番のお気に入りが小島屋のけし餅です。小さい頃あんぱんの芥子の実の部分が大好きで「この部分だけお腹いっぱい食べたい」と思っていたのですが、まさにそれが叶った食べ物。薄皮に包まれたあんは滑らかで濃厚であるにも関わらず、どこか清らかとさえ感じる瑞々しい舌触り。芥子の実の食感は言わずもがな、ナッツの味わいが弾けて幸せな気持ちでいっぱいになります。自分で軽く表面を焼いて食べるとますます香ばしく、1日1つと決めているにも関わらずついもう1つ手を伸ばそうとしてしまうくらいです。箱を開けた時に、縁をレースのような可愛らしい装飾が覆っているのも胸がくすぐられます。自分のためにお茶を淹れる瞬間にほっとすることが多かった今年。自分のためにも、あるいは誰かの贈り物のためにもおすすめな和菓子です。

食卓をより楽しくしてくれたもの 4選

チョイ足し系調味料があればお家ご飯は2倍楽しい 原了郭 黒七味/Edomond Fallot グレインマスタード/瀬戸内レモン農園 レモスコ

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外食を控えて自宅で過ごすことが多くなった昨今、自宅で作れるご飯の味に飽きてきてしまうこともしばしば。レトルトやカップ麺やシーズニングなどを頼るのも一つの手ですが、やはり食べ慣れると飽きてしまう。そんな時に食卓を彩ってくれたのはいわゆるチョイ足し系の調味料でした。
写真の3種類は特に気に入った調味料を厳選したもの。上から時計回りに原了郭の黒七味、Edomond Fallot グレインマスタード、瀬戸内レモン農園のレモスコです。原了郭の黒七味は普通の七味より胡麻の香りが強く、山椒の爽やかな辛味が癖になります。フリーズドライタイプのにゅうめんにかけてもよし、焼いたラム肉などに合わせてもよし。七味としてもスパイスとしても多種多様な用途で使えます。
Edomond Fallotのグレインマスタードは滑らかで丸みのある味わいの後に、キリッとした辛味があって個人的には好きなタイプの味。脂の乗った魚に乗せたり蒸した野菜に合わせて楽しみました。味のバリエーションも多種多様で、今気になっているのはピノ・ノワール味のマスタード。ついつい揃えたくなってしまうサイズ感も魅力です。
最後に瀬戸内レモン農園のレモスコ。その名の通りレモン味のタバスコです。秋に尾道へ出かけた時に目に留まって購入したのですが、それからひと月あまりで使い切ってしまいました。冷凍の唐揚げに一振りしてもいいし、鮮魚を食べる時に使ってもいい。個人的に寒くなって常夜鍋をする時にポン酢代わりにこれを使うのが楽しみでした。いつもの料理に少しだけ調味料を足すだけで楽しくなる不思議。この3つにはこれからもお世話になりそうです。

家でできる料理のバリエーションが広がる ウー・ウェン著 『北京小麦粉料理』/中華せいろ

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家で作れるご飯のバリエーションを負担がない程度に増やしたいと思い、常々頼りにしているウー・ウェン先生の『北京小麦粉料理』を購入しました。一番初めに作ったのは肉まん。自分で生地から作った肉まんはこれまで食べた肉まんの中で一番美味しく、あっと言うまに小麦粉料理にハマっていきました。
特に作って楽しかったのが水餃子。蒲田の金春や神田の味坊で食べたあの皮がみっちりした水餃子が自宅でできたときは本当に感動しました。ちゃんと味も美味しく「もしかしたら餃子屋さんが開けるかも!」と調子に乗ってしまうほど。もちろんプロの味にはかなわないのですが、自分で餡の中身を試行錯誤してアタリができたときの家庭料理ならではの楽しさがあり、普段の食卓が賑やかになってよかったです。最近は皮を伸ばす係と餡を包む係を夫と分担しながら水餃子や焼餃子作りを楽しんでいます。
また、そのついでに購入した杉のせいろも良い買い物でした。今までアルミの蒸し器を使っていましたが、蒸気が細かくなるのか熱伝導のせいか、素材の仕上がりが今まで以上にふわふわに。あと1品何か作りたい時に活躍しています。

 

食卓にいつもと違うお酒を並べてみる MITOSAYA蒸留所/仁井田本家/箕面ビール

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いつも外食で面白いお酒を探しては気に入ったものを取り寄せていたのですが、そうもいかなくなった昨今、えいやっと取り寄せたお酒を試してはのんびり味わう楽しみにシフトした年でした。今年購入したお酒の中で特に印象的だったのがとMITOSAYA蒸溜所のFINE DE MICHINOKUと、仁井田本家のかをるやま。
MITOSAYA蒸溜所のFINE DE MICHINOKUは懇意にしている酒屋さんへ買い付けに行った時に勧められて購入したもの。香りが華やかでボリューム感がありながら嫌味のないブランデーで、普段はストレートやロックで楽しんでいます。また熟れすぎてしまった果実はミキサーにかけてなんちゃってカクテルにするのが常ですが、それらに合わせると味わいを豊かにしてくれるのでかなり重宝しました。果物の管理を来年こそは上手になりたいものです。

 仁井田本家のかをるやまは赤ワインのオーク樽に漬け込んだ日本酒。同じ系統だと自然郷のキュヴェを思い起こしますが、そちらよりかなり軽やかでさっぱりとした印象でした。ワインのような香りと水のような口当たりが新鮮で、すいすいと飲めてしまう日本酒です。日本酒を飲んでいるとチーズとのペアリングを難しく感じることが多いのですが、このかをるやまはハード系のチーズとの相性がよく個人的にミモレットとのペアリングが好きでした。単体で飲んでも良く、組み合わせても良さが損なわれない良い意味でワインのような日本酒だと思います。

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ちなみに同じ仁井田本家が出荷しているこのにいだしぜんしゅ純米原酒は好みドンピシャの日本酒でした。くっきりとした米の旨みがあり、馥郁とした芳香の余韻がいつまでも続く旨口で骨太な日本酒。塩辛やかんずり明太子、いくらの醤油漬けといったコテコテの日本酒の肴によく合います。福島のお酒って「これもう炊きたてのご飯だよ!」と言いたくなるくらい米の旨みを感じるものが多いのですが、その代表格と言ってもいいかもしれません。日本酒を飲み始めた人には純米吟醸、少しハマってきた人には純米原酒、ワインが好きで日本酒にも興味がある人にはかをるやまをお勧めしたいです。

ちなみにこの仁井田本家、最近お酒のサブスクを始めたようで月5000円でその月のイチオシのお酒2本セットで送ってくれるとのこと。ちょっと惹かれつつある今日この頃です。

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それから京都の伊勢丹で見つけてから好きになった箕面ビール。ホップの旨みを活かしながら多種多様なフレーバーを編み出していて、どのビールも美味しいものが多いと感じます。個人的に特に印象に残っているのが夏季限定の国産桃ヴァイツェン。フルーティーでどこかスパイスっぽさもある奥行きのある味わいに、甘さを抑えたスッキリとした飲み口で「こんなフルーツビールもあるんだ」と驚きました。桃とホップの芳醇なアロマが心地よく、リッチな香りにゆったりとした気持ちになります。

ちなみに東京でクラフトビールを買う時は日本橋のNUMBER6が一押しです。店員さんの知識が豊富でお勧めされる楽しさがあり、ここで出会って好きになったマイクロブルワリーが多々あります。今年の秋に行った時はグロウラーにも対応していてご近所さんと思われる人が購入しに来ていました。もちろん店内で飲むことも可能です。

スーパーだと成城石井北野エースはもちろん、意外とライフもクラフトビールが充実している印象でした。手軽に買いたい時に頼りになるスーパーがあるとありがたいなと感じます。

 

いつものお酒も器を変えれば楽しい 木村硝子店 テキサスTRワイン9oz

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今年オキーフという海の近くにあるカフェに伺ったときに購入したもの。お酒用のグラスとしても、パフェグラスとしても使えてとても気に入っています。持ち手のくぼみがちょうどよく手に引っかかるので安定感があり、自宅で白ワインを飲むときはワイングラス自体よりも出番が多いかもしれません。もちろんジュースや炭酸水を注いでもいい。うすはりほどではないもののガラス自体薄いため、口当たりがさほど気にならないのも好きなところです。光が当たった影も綺麗なので、少し照明を落として楽しんでも素敵です。
もちろん飲み物だけでなく、食べ物をよそっても可愛い。休日には時々水切りヨーグルトにその日ある果物を刻んでのせた即席の適当パフェを作っては楽しんでいます。いつものお酒や食材も器が変わるだけで素敵に見えるから不思議です。昔とあるバーで年配のマスターに「素敵なお酒には素敵な衣装を着せてあげる必要があるんですよ」と教えてもらったことがあるのですが、案外日常の素朴なものにこそ素敵な器をあてがってもいいのかもしれません。

2020年の購入品を振り返って

今年は家の中で過ごす機会が増えたことで、身の回りのことに関する買い物が増え、またその満足度が高くなった年でした。周囲だと家を買った人や車を購入した人、はたまたテレワークに使用するガジェットを購入した人も多く、この1年はそれぞれの消費行動が変容した1年だったのだろうなと思います。
それから購入して使ったものとは違いますが、フードバンクへの寄付なども定期的に行いました。生活に掛かる諸問題について社会保障が正常に機能する社会であってほしいと願いつつ、一個人として支援可能なことがあればお金を出していこうと考えている次第です。
また自分が自分のために買ってよかったものではないのですが、自粛要請期間中から今日までの間に友人たちとの付き合いも変化していく中で、さりげない贈り物をしたい時にMOO:DMARK by ISETANのサービスにはとても助けられました。

直接会えなくても感謝を伝えたい時に MOO:DMARK by ISETAN

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街角で素敵なものを見かけた時や、ネットサーフィンで可愛いものを見つけた時の「あの人が喜びそう」と考えている時間が好きです。大切な人たちにはいつも朗らかに生きて欲しいと願っていて、その生活シーンに贈り物がマッチしてくれたらこんなに嬉しいことはありません。
しかし今年は例年のように気軽な気持ちで友人たちに会い、贈り物を手渡すことができなかった年でした。代替案としてオンラインで贈物を探そうにも、なかなかこれというものが見つからない…という時に見つけたのがこちら。伊勢丹が運営しているギフト専門のオンラインショップで、自分でギフトを探すのは勿論、伊勢丹のギフトコンシェルジュがギフトを選ぶお手伝いもしてくれるのです。
なんといっても置いている商品のセンスがとてもいい!おしゃれでちょっと気が利いていて、喜ばれそうなもの。自分ではなかなか買えないけれど、もらったら絶対に嬉しいもの。相手の生活をちょっとだけ豊かにしてくれそうなラインナップに心が躍ります。贈り物を考える時のインスピレーションにもなるし、贈りたいシーンや予算から選べるのも魅力的です。ただ贈るだけでなく、メッセージカードを添えられるところも気に入っています。直接は会えないけれど友人たちには変わらない感謝を送りたいとき、MOO:D MARKにはとても助けられました。
ちなみにソーシャルギフトという機能もあって、SNSで知り合った人に相手の個人情報を聞かずにプレゼントを贈ることもできます。相手の負担にならない程度に日頃の感謝を伝えたい時のさりげないお礼にもおすすめです。

 特に医療機関で働く友人たちは、今年の春から秋にかけてこちらが気にしないよと声をかけても「会うのはやめておくよ」と言うことが多く、そんな彼女たちにささやかな何かをと思ってここから贈り物を送ることが多々ありました。「顔だけ見ても良いかな」と言われ、十分すぎるくらい距離をとって久しぶりに会った友人が、マスクを外して笑った姿を見た時の安堵感は今でも忘れられません。
「落ち着いたら」「感染症が収束したら」「ワクチンができたら」と言う様々な言葉で約束が後に後にと伸びていった今年。来年こそは共に友人たちと食卓を囲み、今までのことが笑い話になるような日常が訪れてほしいと切に願っています。

過去の記録はこちらから

lesliens225.hatenablog.com

お題「#買って良かった2020

 

2020年 読んだ漫画振り返り

2020年に読んだ漫画振り返り。なるべくネタバレの無いように買いているけれど、完全にバレていないとは言えないので、嫌な人は回れ右でどうぞ。(*印については性行為や暴力などに関するセンシティブな描写があるのでご注意ください)(2022/03加筆修正しました) 

泰三子『ハコヅメ』*

 久しぶりに「今私はすごい漫画をリアルタイムで読んでいるぞ!」と思った作品。物語は新任警察官の川合と、元刑事で上司の藤部長がタッグを組んで、交番勤務をしながら市民の平和を守っていく…というお話。いわゆるお仕事漫画なのだけど、ミステリーのような伏線も張り巡らされていてめっちゃくちゃ面白い。毎回「そんなところも伏線だったの!?」と驚いているし、なんなら最近は全部伏線だと思って読んでる。基本1話完結型なのもいい。
作者のシニカルさとコミカルさのバランス感も秀逸。警察官の過酷な労働環境や、滅私奉公を求められやすい組織にありがちな労働者の帰属意識の高さ、男社会における女性の立場とか、テーマそのものは重いのにそれすらネタにして笑わせにかかってくるのがうまい。

絵柄が癖のあるタッチで苦手に感じる人もいるかもしれないけれど、どうかそれを乗り越えて手に取ってみてほしい。せめて50話の「笑ってはいけないお誕生日会」を読んでから今後の進退を決めて…私も初めそうだったけれど、今やどハマりして毎週木曜日が楽しみになっている。

田村由美『ミステリという勿れ』*

主人公の整はある日冤罪で逮捕されてしまう。初めは無罪を主張するものの、取り調べを受けるうちに、次第に物的証拠が揃ってきて…というお話。主人公の整が行く先々で事件に巻き込まれ、解決していくという探偵もの。話のトリックが凝っているので、毎回推理するのがとても楽しい。

整は正義感が強くなく「ただ事実を明らかにしたい」という好奇心が平均より強い人として描かれていて、そのせいかどの話も軽快かつフラットなトーンで進む。事実と事実をつないでバラバラな論理が一つに組み立てられていく過程が鮮やかで気持ちいい。それから整が犯人に対して説教臭くないのも良い。生々しい描写も控えめなので、過剰にドキドキしたくないけどミステリーが読みたいという人にもおすすめです。

野田サトル『ゴールデン・カムイ』*

友人に勧められてからずっと追っているゴールデンカムイ。鶴見中尉の労使関係に情を持ち込む上司は既視感があって、本当にカリスマ性のある上司ってやっかいなんだよなぁということを改めて思い出した。何より鶴見中尉に心酔する子たちってみんな幼児性が強いというか、誑かされてさもありなんという人ばかりで切ない。仕事の関係者に自分の感情を満たしてもらわないって二の腕に掘ったほうがいいよ…

この物語は様々な人間が様々な目的で金塊を狙っている訳なのだけれど、ヒールである鶴見・土方は大義に傾倒した思想なのに対して、杉本やアシリパはどこまでいっても個人の「自分がそうしたい」という欲求に自覚的なのがいい。地獄への道は善意で舗装されているけれど、自分の道が地獄だと自覚しているならば、周囲に与える影響もまた違う結末を迎えるのではないだろうか。

古舘春一『ハイキュー‼︎』

ハイキュー!! 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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台湾の友人がIGのストーリーにめちゃくちゃ熱い想いを綴っていて「そんなに?」と思い無料公開版を読んだ。今年は鬼滅の刃にもハマっていたみたいだし、今は呪術廻戦を追ってるし、ほぼリアルタイムで日本の漫画のトレンドを追っかけている彼女の熱量は勿論、コンテンツ業界の翻訳スピードの速さにも驚く。少年漫画×スポーツものってあんまりハマった記憶がないけれどこれは面白かった。烏山高校のあの視野狭窄でどうしようも無い一年生二人組を、ほとんど歳の変わらない先輩たちがちゃんと面倒を見ている姿とか。実力がある後輩に追い抜かれた菅原先輩の振る舞い方とか。令和のスポ根って感じだった。

あと顧問の武田先生がちゃんとしているのもいい。生徒に対して学業が本分だという線引きをきちんとできるところや、宮城県の強化合宿に勝手に参加してしまった日向をきっちり叱るところとか。少年漫画の主人公はだいたい特異な能力と引き換えに、なぜか唯我独尊が許されるキャラが描かれているけれど、チームプレーが前提となる以上はそうじゃないよね。この能力至上主義にしない姿勢は好感が持てた。ちなみにこれ舞台が東北の太平洋沿岸部なんだけど、多分震災がない世界線だよなぁ。

原作:稲垣理一郎 作画:BoichiDr.STONE』  

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

Dr.STONE 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

主人公である千空は天才科学オタク。ある日何者かが仕組んだ石化光線によって石像にされてしまい、しかもそれは千空だけでなく地球に住む人間全体に降りかかった災いだった。時が経って無事石化が解けた千空は、紀元前の様相を呈するジャングル化した日本で、一から科学技術を作り出すことになる。果たして千空は持ち前の知識を用いて石化現象の謎を明らかにできるのか?というお話。

もうね、今年一番ワクワクした漫画!これを読んでいると、小学生のころ科学の友が大好きで、自宅で付録の実験キットを組み立てて発電機を作ったことを思い出す。主人公の千空のキャラクターもバランス感覚に優れていて良い。他の少年漫画同様、主人公に備わっている超人的な能力は物語が進む上での起爆剤にはなるんだけど、その能力を使って後進を育成したり、自分より適正があると思ったメンバーにはどんどん仕事を振ったりするのがいい。登場するメンバーが誰かを崇拝したり隷属していないのも良くて、メンバーの働き方には同一労働同一賃金の萌芽を感じる。

樹なつみ花咲ける青少年』*

夫が「君これ好きだと思う」とおすすめしてくれたもの。物語はヒロインの花鹿が主役。父親が用意した3人の花婿候補の中から愛すべき人を選ぶお話なんだけど、その過程で自分の出生の秘密や父親の思惑を知り…というお話。さすが樹なつみ八雲立つも好きだったけど、こっちも面白かった!王道少女漫画かと思いきやミステリでもあり政治史でもあり。

樹作品全般通してそうだけど、今回も「悪人をどこから悪と線引きするのか」という問いが淡々と描かれていてよかったな。大人だからこそ楽しめる少女漫画という気もする。しかし八雲立つもそうだったけど、昔の007とかドクター・フーとか、悪人が魅力的な作品ってやっぱりいいなぁ。

河原和音『素敵な彼氏』 

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
 

 小さい頃に家族でクリスマスイルミネーションを見に行った時に、幸せそうな恋人をみて以来「素敵なカレシが欲しい!」と思っている主人公の小桜ののか。しかしその一生懸命さがいつも空回りしてしまい、高校1年になってもカレシはできず。見かねた友人が合コンを組んでくれたものの、参加者の一人である桐山に「一生カレシできなそうだなあ」と言われてしまう始末で…というお話。

登場人物が全員愛しくて8巻以降ずっと泣いていた気がする。全14巻でその半分以上が両想いになってからの話なんだけど、ハッピーエンドの向こう側がきっちり書いてあるのも好感度が高い。そうなんだよ、両想いになってからが本番なんだよ。読者は素敵な彼氏ってなんだ?っていうのをののかを通して見ていくことになるんだけど、それは一人一人違うんだよね。その上で関係を維持するためにはどうすればいいのかが丁寧に書いてあってよかった…「こんなに想っているのってウザくない?」とか「重くないようにしよう」とか、そういうのを我慢して自分でややこしくして、どんどんめんどくさくなっていくならちゃんと伝えようよ!恋愛はコミュニケーションなんだよ!っていうテーマがひしひしと伝わってきた。話の中心はののかちゃんだけど、これは桐山くんの成長物語でもある。

美波はるこ『酒と恋には酔って然るべき』

32歳独身の松子。男いない歴3年で趣味は自宅で日本酒を楽しむこと。そんな松子は部下の今泉がちょっと気になる雰囲気で…というお話。タイトルの通り主人公の松子は酒にも恋にも酔って然るべきという信条なので、とにかく酔って振り回される。でもこれって松子がどの場面でも受け身だからこうなっているんだよね。自分が何を求めているかわからず混乱している女子を見ているとヤキモキするので、時々ブレイクダウンしながら読みました。

ちなみに漫画には日本酒の美味しい飲み方やオススメのおつまみなどもしっかり描かれているので、日本酒が家に常備されている人やこれから飲んでみたいと思っている人には指南書としてもとてもオススメ。ワイングラスで日本酒を飲むのも家でやってみたら楽しかった。

さいとうちほとりかえ・ばや』*

友人にオススメされて読み始めた1冊。主人公はわんぱくで活発に遊びまわる勝気な沙羅双樹と呼ばれる藤原涼子に、男嫌いで人形遊びを好む内気な睡蓮と呼ばれる藤原月光。父親である藤原丸光に「性別が逆であったら」と言わしめるほどの二人は、その言葉通り入れ替わることになる。元服し帝に仕えることになった沙羅双樹に、裳着を行い女東宮の尚侍として宮入した睡蓮。二人は性別を隠しながら、都の中枢で政治を担うことになり…というお話。

全13巻が本当に一瞬だった。二人が男か女かバレないかずっとハラハラさせられる構成なのかと思いきや、むしろバレてからの話の方が本番でその描かれ方がとても良かった。宮廷内での女同士の争いもあると言えばあるけど「女は女の敵」みたいな安直な描かれ方ではなく、誰もがそう追い込まれてしまう構造があると思わせる勧善懲悪でなさもいい。13巻のあとがきを読んで作者が新解釈して描く時に心がけていたことを知り、その心構えに痺れた。

赤坂アカ横槍メンゴ『推しの子』*

タイトルを読んで1話の中盤まで「なるほどそういうことね」と読んでいたら後半どんでんがえしが起こってわけがわからなくなった。一応異世界転生ものに分類されるのかな?

宮崎の地方総合病院に勤務する産婦人科医のゴローは、アイドルグループB小町の絶対的エースである星野アイのファン。ある日外来に来た一人の少女の診察を受け持つことになる。帽子を取った彼女の容姿は、彼が寝食忘れて推すあのアイにそっくりで…!?というお話。

ここから先はネタバレになってしまうので何も描けないのだけれど、このあらすじを遥かに上回ってくる展開だった。芸能界って魑魅魍魎が跋扈していて、構造的にも犯罪行為が秘匿にされやすいんだよね…この構造が少しずつ変わっていったらいいし、それを頑張って描こうとしているように見えた。登場人物たちは、もれなく全員幸せになって欲しいよ。

あfろゆるキャン△

去年アニメに大ハマりして、キャンプにハマるきっかけにもなったゆるキャン△。見終わってから漫画があることに気がついて毎月1冊ずつ買った。ただキャンプをやって美味しいご飯を食べて綺麗な星を見て楽しかったねってしているだけなのに、なぜかめちゃくちゃ涙が出る。

私は漫画やアニメの、特に女性同士の描写にありがちな過剰な馴れ馴れしさが苦手なのだけど、この漫画はそれぞれが適切な距離感なのもいい。間違ったコミュニケーションと取ってしまった時はお互いに言葉にしているのもよかった。そう、同性だからってベタベタに仲良くなるわけじゃないんだよね。りんちゃんの距離感をなでしこが大事にしているのも素敵だった。あと漫画に出てくるレシピが全部ちゃんと初心者でも美味しくできるレシピなのも優しくていい。コンソメとかごま油とか、そういったわかりやすい味で成功体験を積むと自炊って楽しくなっていくよね。

ちなみに今年はこの漫画に出てくるほったらかし温泉にもいってきたので、いつか機会があればブログに書きたい。深夜のうちに家を出発してまだ日の暗いうちに温泉に浸かり、湯船から朝日に照らされる富士山を見るのは本当に至福でした。そのあと新鮮な卵の卵かけご飯を食べたのもいい想い出です。1月からは2期の放送も始まるので楽しみ。

 終わりに

今年はあまり漫画を開拓できなかったけれど、それでも充分面白いものに出会えて良かった。それからすごくハマった漫画があって、思わず読み終わったあとその作者にファンレターを出したりもしました。お返事が返ってきた時は本当に嬉しかった。好きだと伝えることで相手の原動力になれるならこれからも伝えていきたいと思った次第です。
今年の年末年始は帰省もせずに家でのんびり過ごす予定なので、積ん読にしていた漫画を消化するのが今からとっても楽しみ。撮りためたアニメも消化しなくては。いや〜漫画って本当にいいね。

美味しい暮らし #10月編

本来であれば今月は挙式をするはずだったものの、感染症のことを考え式も披露宴も延期にしました。候補探しが振り出しに戻り、両家の橋渡しに奔走して少し疲れた月。
これまで幸いなことに義実家の干渉を受けることなく、結婚したとはいえ以前と変わらない生活を送っていました。ところが式についての打診をしたところ、まぁ凄く口が挟まれる。「うちの嫁なら」が終始ついて周り、彼の家の付属物として認識されているのかと理解するのに時間はかかりませんでした。夫が「干渉しすぎだ」と釘を刺したものの、自由な個体としての私に何か奇妙なラベルが知らない間に貼られていたような違和感は消えず、帰りの車内ではしばらく悶々としていました。
家族だけ挙式に参加してもらう形になったのも「節約になって良かった」としか思っておらず、美容も自己満足できる程度にお金をかければいいかと思っていたのですが、〇〇家の花嫁としては残念な部類らしく「エステはやらないの」「ドレスが着れないなんて」「可哀想ね」と言われ首をかしげるばかり。可哀想かどうかなんて本人の心ひとつなのに。
結婚したからといって味方が増えるわけではないし、血を分けた家族ですら分かり合えないことをこれまでも理解していたつもりでしたが、改めて腑に落ちました。今後この人たちに耐えられなくなったとき、私は離婚という選択肢を選べるように働いていかなくてはならない。短絡的ではありますが、そんなことを思います。
結婚について考えるとき、山田うん氏の舞台で見たストラヴィンスキーの結婚をよく思い出します。血と血の契約、生贄のような花嫁、無邪気な新郎、善良であることを信じて疑わない親族たち。それから以前学生時代お世話になった指導教官に結婚の報告をした時に「昔は結婚した女はフェミニストにあらずと言われたこともあったけど、結婚しても学び続ける限り学問はあなたの味方ですから頑張って」と言われたことも。
今はこのような違和感と一つ一つ向き合い、学んでいく時期なのかもしれません。そしていざとなったら学問の道を志した先輩たちのように、何もかも投げ捨ててそれに向かう選択肢もあるのかもしれない。今はその足場を作る時期だと思って働き、学び、時折美味しいものに心癒される日々を送っています。

 

外で食べたもの 

Bar werk

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明治神宮が鎮座百年記念ということで記念のナイトアートを見に行った帰り道、以前から気になっていたBar werkへ。明るく清潔な店内にはスタンダードなウィスキーから珍しいクラフトジンまで無数のお酒が所狭しと並んでいます。おすすめはナチュラルワインとのことで、柑橘感があるものをお願いしました。

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メニューにのっていたマロンケーキが美味しそうだったので一緒に。素朴な甘さの生地で美味しい。
店内には大学生らしいお嬢さん二人組と年配の女性がそれぞれ思い思いにバーを楽しんでいて良い光景でした。バーテンダーのお兄さんは口数少なく穏やかで、一つ一つ丁寧に仕事をされており、安心してのんびりお酒を楽しむことができます。途中混んできたので他の方に席を譲ってお店を後にしようとしたところ、わざわざ寒い中外に出て見送ってくださり恐縮でした。
オーセンティックなバーとはまた趣が違いますが、気取らずカジュアルで普段使いできるような場所。少しジャンルは異なりますが、フードが多種多様でお酒が美味しく使い勝手が良いという点で、曳舟のBeeに似ているなと感じました。あそこもまた行きたいな。

モンマスティー

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疲れからか写真がボケてますね。原宿で用事を済ませてそのまま千駄ヶ谷駅に向かう途中、気になるティースタンドを見つけたので立ち寄ってみました。
ホットのモンマスティーをお願いしたのですが、香り高く渋みが一切ないミルクティーで予想以上に美味しい。こんな完璧なミルクティーに出会えるなんて、なんだか今日が特別な日のように思えます。仕事で疲れた時にこんなティースタンドが近くにあったら励まされるのになと思いつつ、またこのあたりを立ち寄ったら行こうと心に誓ったのでした。

 

お茶工房 富士園

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思い立って朝霧高原へ向かい、涼しい高原の風に癒された日。高原の一角にお茶屋さんがあったので一休みすることにしました。玉露がまろやかで美味しくて、旅の疲れが吹き飛びます。自宅用に購入した和紅茶もなかなか面白い味がして良い。朝霧高原に立ち寄った際にはぜひこちらにも足を運ばれることをおすすめします。

ランビアンスドゥース

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上野でロンドンナショナルギャラリー展を見た後に頂いたランチ。食べることが好きな友人が上野でランチをするならここ!と太鼓判を押していたことを思い出して行ってみることに。ランチメニューがいくつかある中で、私は豚肩ロースのグリエ、夫はステークアッシュを頼みました。始めに出てきたサラダのクオリティが異様に良くてびっくり。キャロットラペはクミンが香って特に美味しかったです。

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付け合わせにと出された自家製のパン。払った価格に対してサービスが良すぎて、こんなにつけて大丈夫なんですか!?といらない心配をしてしまう。

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メインの豚肩ロースのグリエはちょうどいいミディアムで火入れ加減が好みでした。しかしボリュームが凄まじく全て完食ができず、泣く泣く夫に手伝ってもらうことに。ステークアッシュはマスタードソースが爽やかで、こちらもとても美味しかった。沢山食べることに自信がある人はぜひ行ってみてほしい。きっと満足できるはず。ちなみに自家製のシャルキュトリーも美味しいらしいので、また来る機会があれば今度は夜に行ってみたいなと思うなど。

作って食べたもの・取り寄せたもの

uneclef

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友人から「買いすぎちゃったからもらって〜」と送られてきたユヌクレのレモンケーキ。これが予想していた以上に酸っぱくて美味しかった!生地にもアイシング部分にもみずみずしいレモンの酸味が感じられ、一口かじるだけで目がさめるようです。現在は通販のみされており、販売日になるとInstagramで告知をされているそう。柑橘系が好きな人にはぜひ食べてもらいたい美味しさです。まだしばらくは気軽に出歩けない状況ですが、豪徳寺にも気になるお店が増えてきたので、落ち着いたら友人に会いにがてら遊びに行きたいな。

松屋 深山栗しぼり

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毎年楽しみにしている銀座三越のマロンフェア。例年通りすやの栗きんとんを買うつもりだったのですが、なんとなく気になって今年は中松屋の栗しぼりにしてみました。これが本当に美味しくて!口に運んだ途端、馥郁とした栗の良い香りが口いっぱいに広がって、あまりの美味しさにジタバタしそうになってしまう。味はほぼ栗そのもの、しかし食感はそれをはるかに凌駕する繊細さ。富豪だったらこれを買って道ゆく人に配り、この美味しさを分かち合うのに。財力がないことが恨めしい。聞くところによると岩手では有名な銘菓で、県民であればほとんどの人が知っているそう。長い間東北に住んでいたのに、なぜ今まで出会えなかったのか…
若い頃は祖母が「これ美味しいのよ」と勧めてくれた栗きんとんの良さも、母が気に入っていたお店のモンブランも何がいいかさっぱりわからなかったのですが、年を重ねるにつれて良さがわかり、栗のお菓子がとても好きになってきたことを実感しています。そしてそれと比例するかのように、デセールやパフェは食べられなくなってきていて切ない。羊羹が至高と言うようになるのも、そう遠くはない気がします。



いくらの塩漬けと醤油漬け

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今年、かねてより挑戦したいと思っていたいくらの醤油漬けと塩漬けに挑戦しました。レシピはいずれも樋口直哉さんのものを参考に。調味料のおかげとはいえ、自分で作る醤油漬けはこんなにも美味しいんだ!という感動がありました。日本酒のアテとして大根おろしに乗せてみたり、はらこ飯を炊いてみたり、白米に乗せていくらご飯を楽しんだりと、沢山楽しむことができて大満足。仕事がしんどくて仕方がない時も、冷蔵庫にいくらの醤油漬けがあると心に余裕があってなかなか良かったです。

マッシュルームとルッコラのサラダ

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時々無性にルッコラが食べたい日があって、そんな時はよくこのルッコラとマッシュルームのサラダを作り無心で食べることにしています。レシピというレシピはなく、ただ切って盛り付けてドレッシングをかけるだけ。ドレッシングはその日の気分で変えます。
自分がいつからルッコラが好きになったのか記憶は定かではないのですが、先日実家の母が私が学生の頃夜食のサンドイッチに家庭菜園で育てたルッコラを挟んで出していたということを聞いて、それかと腑に落ちました。母も年なので、自分が影響を受けているであろう彼女のレシピを今のうちに聞いておかないとと思う今日この頃です。


過去の記録はこちらから

lesliens225.hatenablog.com

旅行記にも食べたものを載せています。今後追加していく予定です。

lesliens225.hatenablog.com

 

 

1泊2日京都旅行【前編】 街角のちいさな喫茶店から始まる旅

同じ街で暮らし続けていると、ふとした拍子に馴染みのない街を歩いてみたくなることがあります。ひと所に留まることができない性分なのか、年に何度か訪れる遠くへ行きたいという衝動。どこかに物理的に行けるということは、自分が本来自由であることを自覚できる手段なのかもしれません。
旅に出る日の弾けるような高揚感と、新品のような朝の空気を感じたい。地元の人々が生活している空間に身を寄せて、土地の文化に触れたい。そんな気持ちと急かすような秋の気配に背中を押され、まだ紅葉が色づく前の初秋の京都へ向かうことに決めました。

旅の始まり

東京から京都へ向かう車窓

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東京駅の改札を通り過ぎて東から西へ向かう新幹線に乗ると、まるで違う次元にタイムワープしたような錯覚に陥ります。車内の独特な匂いに「これから旅に出るんだ」という実感が伴い、柄にもなく浮かれている自分に気がつきました。車窓から見える住宅地、トンネルを抜けると手品のように現れる富士山。生活圏から次第に離れていく景色を眺めていると、馴染んだ場所から身体感覚が剥がれていくような心地よさがあります。浮かれた気持ちを鎮めるために車内販売でコーヒーを買い、鞄から本を取り出しました。目的地に到着するまでは長谷川氏の「建築有情」を読むことに決めていたのです。

f:id:lesliens225:20201011212614j:plain示し合わせたように旅行の前日に届いた建築有情。パラパラと読み進めていると、京都タワーを設計した山田守について次の一節が出てきて、ますます京都へ向かうのが楽しみになってきます。

同じ時期にできた東京タワーは依然として私たちの心になじむものが全くといっていいほどないのに、なんやかやといわれながら、京都タワーは京都人の心にはいりこんでしまっている。それは多くの京都人が告白しているところである。

車窓から見えていた景色は、新横浜を過ぎたあたりからだんだんと高層マンションが減り、それと入れ替わるように二階建ての住宅が増えていきます。さらに厚木を過ぎると、田畑が増えて平屋がちらほらと点在するようになり、名古屋へ近づいてくると、これまでの風景を逆再生するかのように高層マンションが生えてきました。少しでも貨幣を獲得しようと上へ上へ伸びゆく雨後の筍のようなビル群を眺めていると、どの都市も詳細な形は違えども皆似ていることに気がつきます。

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そんなことを考えながら車内の暖かさにうとうとと微睡んでいると、停車を知らせる電子音が聞こえてきました。寝ぼけ眼をこって車窓に目をやると、朝陽に照らされた京都タワーがくっきりと見えました。その佇まいにハッと目が覚め、急いで鞄からカメラを取り出して写真に収めます。
何年かぶりにみる京都タワーは、旅の高揚感も相まってか想像していたよりずっと趣があります。きっと京都へ訪れる旅人たちは、この姿を京都の原風景として胸の中に携えていくのではないでしょうか。

朝の京都をめぐる 

東山七条の喫茶店でモーニング

さて、朝の早いうちに京都についたので、この日は東山七条にあるアマゾンという喫茶店でモーニングをすることにしました。京都駅から歩いていける距離だったので、そのままお店に向かって歩いていると、バスに乗っていた小学生の女の子に窓越しに手を振られたので大きく振り返します。彼女にとっていい一日になりますようにと願いを込めて。

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喫茶アマゾンは1972年創業という、京都の中では古顔の部類に入る喫茶店。朝8時にも関わらず店内は既に観光客や地元の人で賑わっていました。

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赤とストライプのサンシェードが素敵。どことなく地元にある喫茶店と雰囲気が似ていて、不思議な懐かしさがあります。入り口上部に掲げられている看板もレトロで、フォントに味があっていい。
お店では家庭用にコーヒー豆も販売しています。この日も首元にレモンイエローのスカーフを巻いた年配の女性が豆を買いに来ていました。家の近所にこうした普段使いのできる喫茶店があることを羨ましく思います。

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店内は古いながらも清潔感があって、朝の日差しが差し込んで気持ちがいい。窓からは通りを過ぎる人が見えます。カウンターの端には常連と思われる男性がおり、その後常連らしき人々が次から次へと「ヨッ」と現れては、皆近くに集まって談笑していました。カウンターにある旧式のレジスターは今だに現役で、キャッシャーが開くたびにジャーンと小気味よい音が響きます。店内は禁煙なので、喫茶店で燻されるのが苦手な人にも優しい仕様です。

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この日夫が頼んだのはモーニングセット。私はタマゴサンドのハーフとブレンドを頼みました。きっちり鋭角なサンドイッチに、つるりとしたマグやグラスの清廉さ。添えられたミルクピッチャーの一部の隙も無い清潔感に胸打たれます。アイスコーヒーは赤いストローが差し色となっていて、すべてのしつらえにこだわりを感じました。まさに喫茶店で出てきてほしいモーニングの理想形。もちろん、味もとっても美味しかったです。

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何よりこのタマゴサンドが予想以上に美味しかった。自分の重みでふるふると震える厚焼きのだし巻き卵。そしてそれを包む柔らかくてふわりとした食パン。片面にはハムと辛子マヨネーズ、もう片面にはケチャップが塗ってあって気が利いています。小ぶりな大きさなので、朝から苦しくなるくらい胃が圧迫されないのもいい。京都に降り立って初めて食べるものが、このお店のモーニングで良かったとしみじみ嬉しくなりました。

京都国立博物館を気の向くままに散策

お腹も満たされたところで、近くにある京都国立博物館へ。この日は展示の準備期間のため館内へは入場ができないとのことだったのですが、ここの庭園と建築が見たかったので問題ないことを告げて中へ。博物館のチケット売り場で入場券を購入し、重要文化財に指定されている正門へと真っ先に向かいます。

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正門から見える明治古都館の眺めが実に素晴らしい!この眺めを見に京都に来たといっても過言ではありません。奥には優雅に噴水が舞い、時折水飛沫と入れ替わるようにしてロダン銅像が現れます。まるでこの美しい建築のためにしつらえた花道のよう。気持ちがいいくらいの見晴らしに、神社を参拝しているかのような錯覚を覚えます。言葉を無くし、ただため息がこぼれるばかりです。

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正門の両脇に位置する小さな小部屋は、昔はチケットの販売などで使われていたのでしょうか。明かり取り用の窓のデザインが可愛らしく、思わず写真を撮りました。人魚の尾鰭を2枚合わせたかのような優美な装飾に、石柱の存在感がメリハリをつけていて美しい。昔この中がどのような使われ方をしていたのか、あれこれ想像が膨らみます。

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正門に朝陽が当たって落ちた影すら美しくて、まだ旅の序盤だというのにも関わらず、すでに胸がいっぱいになってしまう。

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さらに歩みを進めると、さっきよりも迫力を伴って明治古都館が眼前にせまり、あまりの豪奢さにたじろぎます。いくら近づいても左右対称の佇まいは決して崩れることがなく、ある種の狂気すら感じるほどです。噴水越しに見えるその姿はあまりにも幻想的で、しばらく惚けたように眺めていました。

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さらに歩みを進めると噴水の後ろにロダン作の考える人が現れます。世界に二十一体あると言われる考える人ですが、そのうちの一つがここ、京都国立博物館の庭園にあるのです。以前、横浜美術館のNUDE展でロダンの接吻という大理石像を見たときも、その迫力を伴った艶かしさにただただ圧倒されたのですが、京都国立博物館の考える人は明治古都館を借景としていることもあり、えも言われぬ凄みがありました。ちなみに京都国立博物館のHPにはロダン銅像について、以下のように記してあります。

この作品の真正面をさがしてみてください。あるいは、もっとも見やすいアングルはどこでしょうか。なかなか決められないでしょう。そのことは、この像を見る視点がたくさんあることを意味しています。

出典:https://www.kyohaku.go.jp/jp/dictio/choukoku/49rodan.html

様々な角度からシャッターを切って、一番良しとした写真がこちら。次に来た時は見方が変わっているのかもしれないと思うと、何度でも訪れる楽しみがあります。

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ロダンの像に別れを告げて明治古都館に近づくと、遠くで見たよりも一層美しく、また装飾に遊び心があるのが見て取れ、ますます魅了されてしまいました。例えば写真上部の2人の像。一見ギリシャ神話に出てくる神々と思いきや、右は芸能を司る伎芸天、左は道具や建築を司る毘首羯磨が掘られていました。なんてチャーミングな発想!

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さらに建物の裏手側へ歩みを進めます。雨樋ですらきちんと装飾されていて、一切妥協の跡がないその光景に眩暈がしそう。この優美さと緻密さの同居に、設計者である片山東熊のイズムを感じます。
片山はジョサイア・コンドルに師事し、辰野金吾とは同期という近代建築の言わばエリート。しかしながら、イギリスやドイツの系譜は汲まずにフランスの宮廷建築に倣ったという稀な建築家です。京都国立博物館の煉瓦積み自体はイギリス式ですが、正門にマニエリスム調の柱がつけられていたりと、後期のバロック様式に近いものを感じました。あまりにも見事な建築を見ていると、このような建物を現代で、ましてや公的な資金を投じて再現するのは到底不可能なのではないだろうか、などという俗っぽいことを考えてしまいます。
余談ですが、この明治古都館は事前申請をすればロケーション撮影も可能とのこと。ハイアットリージェンシー京都では、現在挙式プランも設けられているそうです。このロケーションで前撮りなんて素敵だなと思いつつ、さらに庭園を散策します。

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正門から入って右手側にある西の庭。一面の芝生が朝陽に照らされてキラキラと反射している姿に心が安らぎます。

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西の庭でとりわけ目立つ金剛八角灯篭の複製。青みがかった色味が庭園の景観に溶け込み、良いもののように思えます。

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そのままのんびり散歩をしていると見えてきた不思議なオブジェ。何かの建築の土台かと近づいてみたところ、まさかの五条大橋の橋脚とのことでひっくり返りそうなくらい驚きました。あの有名な義経伝説の橋弁慶のシーンで登場するのがこの五条大橋です。この橋脚自体は豊臣氏が作らせたもののため時代は前後しますが、歴史的に有名な建築の一部がこんなところにあるとは俄かには信じがたく、これを庭園に据えてしまえる京都の文化財の潤沢さに慄きました。

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 西の庭を満喫した後は技術資料参考館を横目に東の庭を目指します。

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階段を登るとひょっこりと現れる不思議でどこか愛らしい石像。ほしよりこの漫画に出てきそうな穏やかな風情。柔和な笑みをたたえていて、旅の高揚感も相まって気さくに話しかけてしまいそうです。

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説明書きを読んだところ、この石像は石人・石羊と名前があり、これらをまとめて墳墓表飾石造遺物と呼ぶことが分かりました。これらの石像は朝鮮時代に高貴な人々が亡くなった際に、彼らの噴墓の周りを装飾するという伝統に則って作られたもの。恐らく当時は権威の象徴だったのでしょうが、石像のとぼけた表情を見ていると死者を慰めているようにも見え、これを傍に置くことを考えた人々の気持ちを想像します。

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体に生えた苔が歳月を物語っているよう。背中の丸みが愛らしく、思わず遠くから写真を撮りました。ちなみに東の庭には堪庵と呼ばれる茶室が隣接しているのですが、この日は開館前だったため確認することはできず。次の旅の楽しみとして残しておこうと思います。

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同じ敷地内にある谷口吉生設計の平成知新館を見学し、満足してその場を後にしようとしたところ、ちょうどマスコットキャラクターのとらリンがクイズ大会をしていたので写真をパシャリ。その仕草の可愛さから、観光客から終始かわいいかわいいと歓声が上がっていました。

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 ちゃんとお辞儀まで!中の人、大変お疲れ様です。

蓮華王院 三十三間堂をぶらり拝観

国立博物館を心ゆくまで堪能し、一通り満足して駅に向かおうとしていると、左手に大きなお寺が見えてきました。三十三間堂という歴史あるお寺とのこと。せっかくなので中に入って千手観音坐像と千体千手観音立像を見ることに。 

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館内は撮影禁止のため写真には残せていないのですが、夥しい数の仏像が並ぶ姿はまさに圧巻の一言。もの珍しさよりも、これらの仏像に込められた人々の願いへの畏怖が勝り、このような仏像が建てられた時代の人々の暮らしに想いを馳せました。
ちなみにこの千体ある観音立像には、必ず会いたい人に似た像があると言われているそう。それが救いになる人もいるのかもしれませんが、私はそれを酷なように感じてしまいました。仏像にその存在を見出すとき、生きれば生きるほどそれは激しい感情を伴うものになるのではないだろうか。果たしてそれは救いと呼べるのか、自分の救いは自分で決めたくはないだろうか、などと様々なことを考えながらこの場を後に。

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次の目的地に向かうため七条駅で電車を待ちます。

お昼から夕方にかけて

伏見稲荷で予定外のハイキング

到着したのは伏見稲荷駅。目指すは伏見稲荷神社です。駅の作りが神社のオマージュになっていてなんとも可愛い。貸衣装屋が近くにあるのか、着物で歩いている若い人をちらほら見かけました。

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境内まで行く道は屋台が並んでいて、目があったお兄さんに「俺を助けると思って寄ってって!」と誘われましたが、先を急いでいたので「ごめんね!」と断って先へ。旅は見知らぬ人との他愛ないやりとりすら楽しい。他にも参道にはお土産やさんなどが所狭しと並んでいて、かなり賑やかでした。
目的地の伏見稲荷へ到着したところ、ちょうど巫女舞が執り行われており、近くで観ることに。緊張感のある空間に響く琴と笛の音に、いっとき静かな心持ちになります。

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さらに境内奥に進むとかの有名な千本鳥居が目に飛び込んできます。よく写真で見る鮮烈な赤とは少し違って、柔らかい朱色で親しみやすい印象。それが日差しなどの加減によって色に濃淡を与えており、とても良い眺めでした。

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千本鳥居を抜けるとおもかる石があることで有名な奥社奉拝所が見えてきます。今回はさらにその先にある、四つ辻という京都市内が見渡せる展望台を目指して進むことにしました。途中、祠や神社が点在していたのですが、なんとなく物々しい雰囲気でシャッターボタンを押せませんでした。
さて、この四つ辻までの距離が、これまでの参道とは違って傾斜もきつくなかなかハード!息は上がり、足に途轍もない疲労感を感じます。中腹ですらこうなのに、もし頂上を目指す場合はいかほどなのだろう。途中モンベルで身を固めたご婦人方とすれ違い、あれが正解だなぁと思うなどしたのでした。

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なんとか到着して展望近くにある売店ポカリスエットを購入し、息を整え汗を拭いながら京都市内を眺めます。身体はヘトヘトになっているものの、その見晴らしの良さにこれまでの苦労は忘れて晴れやかな心地に。こうして眺めると京都市内は見事に山々に囲まれていて、地理の教科書の見本にあるような盆地であることを実感します。福島県会津地方には平家の落人伝説があるのですが、まさにこの地形にそっくり。もしかしたらあの伝説は本当なのかもしれない、育った土地を離れても結局は似た風土を求めるのかも…などと思いつつ下山したのでした。

ヴォリーズ建築で北京中華を

伏見稲荷でヘトヘトになった身体を引きずってやってきたのは京都四条。目的地は四条大橋から見えるこの建物です。もうランチの時間はとうに過ぎている午後3時、お腹をすかせてどうしようか決めあぐねていたところ、東華菜館が通し営業をしているということで伺うことに決めました。

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四条大橋のたもとにあるこの建物は、かの有名な建築士、ウィリアム・メレル・ヴォリーズが手がけた唯一のレストランです。いつか行きたいと憧れていたので、訪れることができて嬉しい限り。

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 店の前に立つと、ファサードの重厚な外観に圧倒され、本当にここに入っていいのか気後れします。柱の細部まできっちり仕上げられており、作り手の尋常ではないこだわりを感じる。1歩踏み入れると完全に別世界。まるでナルニア物語のクローゼットのように、外界と遮断されたおとぎの空間にヒョイと身体を放り込まれたようでした。
玄関にはタコのチャーミングなモチーフがあったり、素敵な待合室がしつらえてあったり、現役の手動エレベーターが稼働していたりと、とにかく見応えがあり時間が足りません。まるで建物自体が博物館のような素晴らしさ。全て余すことなく写真に収めたかったのですが、丁寧に接客をして下さる店員さんの前で無尽蔵に写真に収めるのが無粋に感じられてしまい、ぐっとこらえて目に焼き付けました。

f:id:lesliens225:20201015073444j:plainさて、席についてメニューから食べたいものを選びます。まずは前菜盛り合わせ。上から時計回りに、セロリの冷菜とイカの和え物、焼豚、蒸し鶏、鶏皮揚げ、最後に真ん中はクラゲの酢の物。どれもきちんと味が被っておらず、美味しいものを少しずつ食べられる幸せを噛み締めます。八寸とか盛り合わせとか、美味しいものをちょっとずつの類が大好き。全体的に塩のバランスが良く、この時点で「きっと何を食べても美味しい中華屋さんだ」と確信しました。

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頼んだ中でどれが一番印象的だった?と聞かれたら「全部!」と答えるくらいどれも美味しく甲乙つけがたいのですが、それでもどれか一つを選ぶとしたらこの炸春巻と答えます。ここの春巻きは薄焼きの卵に包まれ、豚肉と筍、青菜が一緒に揚げられたもの。これが本当に美味しい。歯ごたえの良さと、香りの良さ。一口サイズなので食べやすく、つい次から次へと手が伸びてしまいます。今後、京都の中華を思い出すとき、これが真っ先に思い浮かぶでしょう。

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辣椒鶏。カリッカリに揚げられた鳥もも肉に、甘辛い餡がとろりとかかっている間違いない味。このあたりですでにお腹がいっぱいだったので、具を一つずつだけいただいたのですが、どの食材の火入れも完璧で惚れ惚れしてしまいました。絶対に自宅で真似できない炒め物。前半の前菜や春巻きは、しっかり味がありながらも淡麗な印象でしたが、これはパンチが効いていました。

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最後は思い出すだけでうっとりしてしまう五色炒飯。芯が程よく残ったお米は一粒も水っぽさがなく、ぱらりとしていて儚い。初めにねぎで香り出しをしてから炒めているのか、全体的に甘やかな香ばしさがあり、噛めば噛むほどじんわりとした美味しさが溢れます。メニューにかやく入り炒めご飯と説明書きがあるのも風情があって良い。中華料理で炒飯が好きという人の気持ちが初めて分かった気がします。
全体を通して特に印象的だったのが調味のミニマルさ。MSGはもちろん、恐らくにんにくや生姜といった薬味を使っていないにも関わらず、ここまで味にインパクトを持たせることができ、こんなにも美味しい中華ができるのかと驚きました。またそのせいか、食べた後の強烈な喉の渇きやむくみといったものがなく、中華で食べ疲れなかったのはここが初めて。本当に何を頼んでも美味しいお店でした。
とはいえどれも1品1品ボリュームがあったので、できれば3人以上で来ることをお勧めします。北京料理、とても奥が深くて一気に魅了されてしまいました。

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そして何より印象的だったのが店内の内装。間接照明はポール・ヘニングセンのPH2/1で、見た瞬間「してやられた!」と感じました。ヴォリーズ建築との組み合わせにこの照明を選ぶなんて、一体誰が思いつくのでしょう。あまりの趣味の良さに平伏し、ここを住処としたいという衝動に駆られます。ちょうど夕暮れ時ということもあり、時間が経つごとに明かりが部屋と調和していく様に胸がいっぱいになりました。

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物を置く場所と化しているバースペースと思われる部屋ですらこの仕上がり。ルイス・キャロルのアリスが纏うようなワンピース色の壁紙に漆喰の天井、半円形のアーチの窓。雑然と置かれた醤油瓶ですら、初めからこの場に合わせて設えたもののように見えてくるから不思議です。

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 向かいには南座が見え、それ以外に高い建物がないことに気がつきます。他に人がいなかったので、心置きなく眺めていると「遠くには伏見、天気が良ければ比叡山も見えるんです」と店員さんが教えてくれました。京都で暮らす人々が長い営みの中で育み守ってきた景観。これを今でも享受できることに、奇跡のような感慨深さを覚えます。

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京都府京都文化博物館で歴史に浸る

東華菜館を後にし、そのまま先斗町を通って次の目的地である京都文化博物館へ。

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時折右手に鴨川が見えるのが楽しい。賑わっているように見えるものの、よく見ればいくつか休業や閉業の知らせが並んでおり、切なさがありました。

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狭い路地を通り過ぎて目の前に現れたのは高瀬川。かの有名な森鴎外高瀬舟の舞台になった川です。穏やかな水面を眺めていると、水音に混じって「入相の鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を両岸に見つつ、東へ走って…」という小説の一節が蘇ります。学生の頃ユゴーの死刑囚最後の日や、太宰の駆け込み訴へなどの罪人系文学(?)を読み耽っていたことを思い出しました。もはや人を乗せて渡せはしないであろう川の流れに過ぎた歳月を感じます。近くには復元された高瀬舟もありました。

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近代建築が並ぶ三条通りを抜けて、やっと辿り着いた京都文化博物館京都アニメーションの代表作であるヴァイオレット・エヴァーガーデンの聖地にもなっているそうで、映画の公開前ということもあってファンらしき人がちらほらいらっしゃいました。

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入り口のファサード辰野金吾らしい伝統に則った作り。彼の建築は何故か昔から興味が持てず、この日もあまりテンションがあがらなかったので写真にもやる気のなさが表れています…加えて三条通りの他の建築が素晴らしかったこともあり、文化財に対する感覚がインフレーションを起こしていました。

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もともとこちらは日銀の京都支店の移転先として建設されたもの。手前の格子は上にスライドさせることができ、大理石で隠されている部分には引き出しが備え付けられていました。

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中に入っていいのかなとまごついていると、別室でアートの展示をされていたお姉さんに「入っていいんですよ」と声をかけられお邪魔しました。天井には明かりとりとしての窓が設けられており、あの時代にこのようなものが作れたのかと感心します。

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二階廊下部分の支えに掘られている細やかな装飾が印象的。遥か昔、ここが銀行として使われていたであろう活気ある時代に思いを馳せました。

京都の夜

京セラ美術館でナイトアートを楽しむ

 一度ホテルに帰って荷物を置いた後、バスに乗って東山へ向かいます。以前美術手帖のウェブ記事を読んで、ここの改修工事を青木淳氏が手がけたことを知り、それ以来京都に来たら絶対にここへ足を運ぼうと思っていたのです。

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バスから降りて人だかりのある方へ向かうと、色とりどりの明かりに照らされた京セラ美術館が見えてきてワクワクします。このライトアップは美術館のワークショップに参加された人々によってデザインされたもの。これはどんな人が考えたのだろうと想像しながら眺めるだけで楽しい気持ちになれます。建物は予想の3倍は大きく、全体をカメラに収めることができないほど。

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入り口にあるロゴは杉崎真之助氏がデザインされたもの。タイポグラフィが好きなのでじっと見入ってしまいました。良く見ると京の字や美の文字などにスリットが入っており、遊び心を感じます。個人的には館の字が好きで、少し官の四角部分を大きくすることで全体のバランスをとっているのが印象的でした。手書き文字だとtoo muchだし、明朝体や毛筆だと固さがある。そんな中でこのフォントデザインを選んだことに、この建物がどうありたいかという意思を感じました。

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ガラス・リボンと呼ばれるつるりとした流線型のファサードが美しい。前田氏設計の旧京都市美術館の土台部分に作られたそれは、旧京都市美術館を介して培われた人々の想い出と歴史をより強固なものにしながら軽やかさを取り入れており、より敷居が低く間口が広い開かれた美術館という印象を受けました。
また、その右部分には京都増醸所のビールを始めサルシッチャ!デリのサルシッチャなど、京都の美味しいものを中心に取り扱うミュージアムカフェ・ENFUSEがあります。京都以外にもmitosayaの蒸留酒ダンデライオン・チョコレートなどが揃えられており、東西の今が味わえるセレクトショップのようなカフェ。他にもピクニックセットを販売しているので、天気の良い日はそれらを買って鴨川などに足を運ぶのも良さそうです。選択の余地があり、消費者にそれが委ねられているいいお店だなと感じます。

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検温・消毒をした後受付でいただいたパンフレット。京都市はフランス・パリと姉妹都市ということで、毎年10月の第1土曜日にニュイブランシュという一夜限りで開催されるアートイベントに倣った催しを行っており、今回京セラ美術館もそれに参加するとのことで楽しみにしていました。

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階段を上がって中央ホールへ進むと、神殿の中と錯覚するような整然とした空間が広がります。頭が痛くなるくらいの真っ白な空間を陰影が縁取り、視覚に入ってくる情報が異様に少ない。そのせいか空間の把握がクリアにでき、自然と建物に導かれるままに導線をなぞっていることに気がつきます。「なんとなく水戸芸術館の現代美術ギャラリーに似ているな」と思った所、なんと設計者は同じ青木氏でした。当時は磯崎新のイメージが強く全く気がついていなかったのですが、こうして訪れると納得できる部分が多々あり、建築は足を運びその場に身を置いてわかることが往々にしてあるなと気がつきます。
ホールではちょうどオペラとコンテンポラリーダンスインスタレーションが行われており、久しぶりに見る舞台芸術に感慨深い気持ちになりました。何よりこれを無料で鑑賞できることに驚きます。彼女たちの表現を眺めながら、以前知人が「日本は舞台美術に触れる敷居があまりにも高い。子供の頃から芸術に触れる機会を持っている人がどれだけいるのか」と言っていたことを思い出しました。

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印象的な螺旋階段を登り、きた道を振り返ると黄金比のような図形が浮かび上がっていたので思わずシャッターを切りました。まるでアンモナイトのよう。

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さらに進むとまっさらな空間とは対照的な京都市美術館の名残を残す格調高い空間が現れ、思わずため息がこぼれました。なんて素晴らしいんだ!

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紅色の大理石はルージュ・ド・フランスを彷彿とさせます。柔らかく温かみがありながらも、格式が感じられる。

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素材や全体の設計自体は西洋のものであるにも関わらず、欄干部分に和の装飾が施されていることによって和洋が融合されており、現代においても新鮮なデザインのように感じます。ジャポニズムを再輸入したと表現するのが最も近いでしょうか。うまい言葉見つからず口惜しい。伝統と革新が入り混じる京都の文化を体現した設計に、震えるような感動が押し寄せます。

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天井部分を眺めて思わず息を飲みました。絢爛豪華なステンドグラスの装飾が、美術館という非日常の空間を彩り、いっときの辛さ苦しさを忘れさせてくれるようです。
もともと京都市美術館は1993年に天皇即位の大礼を記念する美術館として建設されたもの。戦後進駐軍に接収されたものの、幸い他の文化財で行われたようなペンキを用いた塗りつぶしは行われず、美しい形を現代までとどめることができました。こうして時を超えてこれらの美しさに触れられることに、心から慶びを感じます。

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一度ホールへ戻り、そのまま2階の廊下を進むとまた異なる部屋が現れます。美しい丸窓とペンダントライトの明かりが幻想的でした。

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部屋の全体像はこちら。床のモザイクタイルの可愛いらしさ、照明のプラケット部分の装飾の細やかさ。こういった建物で働くことができたらどんなにいいことだろう。

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部屋には改装前の京セラ美術館のジオラマと、現在のジオラマが展示されていました。見比べると以前よりも中庭が広くなっていたり、休息所が設けられているなどの違いがあり、この建物がどのような意図を持って改修されたのかが見えてきます。このような資料が誰の目にも触れる形で残されていることに透明性の高さを感じ、この美術館が果たすべき役割を自負されているのだなと感じました。京都市美術館の名前を失ったこと、リノベーションされたことに市内の人々は様々な思いを抱いていると聞きますが、これから先この美術館が市民と良い関係を築けることを願ってやみません。

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2階から新館の東山キューブのテラスに向かうと、白夜にちなんだ短歌がいくつかのスピーカーからランダムに流れていました。訥々と語られる言葉とウッドデッキを歩く足音が夜に溶け込み、白昼夢の中にいるみたい。近くの階段に腰を下ろしてしばらく月を眺めながらそれぞれの短歌に聞き入ります。

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東山キューブの外壁は青木氏らしいミニマルで余白のある作り。青森県立美術館と似ているものの、柔らかい色合いのせいかあちらよりも強い圧迫感がなく、京都の景観に溶け込むような印象を覚えました。

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夜空には鈴木康広氏のインスタレーションである空気人形がふわりと浮かび、まるで月で蹴鞠をしているよう。老若男女が広場の階段に腰かけて、海月のようにゆったりと漂う人形を眺めたり、写真をとったり身を寄せ合って会話を楽しんでいる姿が深く心に刻まれました。アートを介して人々の暮らしが豊かなものになっていく場に立ち会えているような瞬間。胸がいっぱいになり、群衆に紛れてしばらく空を眺めていました。

京都伊勢丹デパ地下録

お昼に食べ過ぎたこともあり夜ご飯はパスをすることにしたものの、せっかく京都に来たのだしコンビニでおつまみを買うのも味気ないと言うことで、ホテルで過ごす用のおつまみとビールを京都伊勢丹へ探しに行くことにしました。
エスカレーターを下って催事場を通り過ぎようとしたところ、ずっと気になっていた京都のフルーツパーラー、ヤオイソが出店していてびっくり。今回の旅の日程では行けないなと諦めていたので嬉々としてお店に並びました。おばちゃんに勧められるがまま翌日の朝ごはん用にロイヤルフルーツサンドを購入します。「ありがとうございます。頂いて行きます」と言って受け取ると「よろしうおあがり!」とピカピカした笑顔で返され、不意打ちの接客に好きになってしまいました。かけられた一言が嬉しく、手渡されたフルーツサンドがとても大切なものの様に思えてきます。

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そう言えば昔、東山の方でバスを待っていた時に知らないおばちゃんに飴玉をもらい、お礼を言うと「大阪のおばちゃんやってんねん」とニコニコした笑顔で返されたことがありました。京都の人と言うといけずなイメージが先行しているけれど、実は面倒見がいいのかもしれない。どの土地も住んでみないとわからないことばかりで、こう思うのも旅の感傷かもしれませんが、心の中で「よろしうおあがり」を何度も反芻しては、そんなことを考えました。
しばらく見ないうちに京都伊勢丹のデパ地下もだいぶ様変わりしていて、聞くところによると2018年に大幅にリニューアルしたとのこと。お酒を販売するコーナーには酒のTASHINAMIというバーが増設されていて、日本酒やワインを中心に、京都の老舗料亭が提供する肴とのペアリングが楽しめるとのことでした。お腹がいっぱいになっていなければ入ってみたかったな。
他にも菓子のTASHINAMIという京都伊勢丹のバイヤーがセレクトした季節の菓子と一保堂のお茶を中心としたドリンクが楽しめるイートインスペースもあって、こちらも面白そうでした。こうした体験をカジュアルに楽しめるスペースがあるのは何とも羨ましい限り。東京だと新宿高島屋のパティシェリアが近いかなと思うものの、ここと同じだけコンセプトや魅せ方に土着的な文化を含んでいるかと問われると答えに窮します。

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別行動していた連れ合いは関西のクラフトビールとチーズを購入して上機嫌になっていました。
ホテルに着いてからそれぞれ買ってきたものを冷蔵庫にしまい、先にシャワーを浴びている夫を待ちながら窓から京都の街並みを眺めます。旅先のレストランや居酒屋に行く夜も好きだけれど、こうして自分のペースで自由に過ごす時間も同じくらい良いもの。ベッドに寝転んでパンパンになった足を天井に足を向け、今日の余韻に浸ります。
シャワーを浴び終わった夫と交代し、烏の行水よろしくお風呂を済ませて清潔な部屋着に着替え、洗い立てのシーツの様な気持ちに。先にお酒を楽しんでいる夫に一口ずつ冷えたビールを分けてもらい、今日の楽しかったことを語りつつ、京都の夜はこうして更けていきました。 

 

後編はこちらから

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冬支度

夫のアウターが好きだ。もともと身体を締め付けられるような衣類が苦手なこともあり、この時期になると夫のクローゼットからアウターを拝借して出かけることが多い。その中でも特に彼のライダースが好きで、袖を通すたびに独特の革の匂いと重さ、完全無欠な暖かさにいつも魅せられる。そうしてさも自分のものであるかのように「これいいでしょう」と言って夫に見せては「いや俺のだよ。いいけど」と笑って返されるのがお決まりだ。
そんなことを寒くなるたび繰り返していたが、やはりメンズの衣類は所詮彼らの体躯に合わせて設計されているものである。久しぶりのデートで彼がそのライダースを羽織った時、やっぱりこのライダースは彼が着た時に完成されるものなのだなと悟った。ライダースも誰が主人かを理解している。「私も自分だけのライダースが欲しい」と思い立ったが吉日で、その日は夫に買い物に付き合ってもらうことにした。
クリスマスの音楽が流れるテナントを真剣な面持ちで周り、渡り鳥のようにあの店この店と足を運んでは様々なライダースを試着する。しかし夫のライダースのような、肉厚で着た瞬間に暖かく、スタイルが美しく見えるものが中々見つからない。途中から投げやりな気持ちになって、暖かくて可愛かったらなんでもいいやとテディベアのようなコートに吸い寄せられる。私がfluffyな素材に弱いことを知っている夫は始め「またそうやって!」と笑って眺めていたものの、流石に5軒目で思うところがあったのか、もはやライダースには目もくれずにプードルライクなコートへ真っ先に向かおうとした私に両腕を広げ、通せんぼの形で行く手を遮られた。予想だにしなかった夫の行動にびっくりして見上げると「今日はライダースを探すって言ってたでしょ。君は静電気に吸い寄せられる毛玉か?」と言うので口を開けてぽかんとしたのちに、お腹を抱えて笑ってしまった。確かに言い得て妙である。静電気に吸い寄せられる間抜けな毛玉。
気を取り直して色々なライダースを見てはみるものの、やはりしっくりくるものが中々見つからない。所謂セレクトショップにあるライダースは薄手のものが多く、恐らくライダース特有の重みや硬さが利用するユーザーの求めるニーズと一致しないのだろう。餃子の皮のようなそれらを一瞥し、袖も通さず店を後にする。
6軒目の某ブランドでようやく「あら素敵」というライダースを見つけたものの、恋人同士と思われるカップルの男性が終始悩んでいる女性に対して「もっと自分に自己投資しなよ」と言葉を放った場面に出くわしてしまい、完全に興をそがれてしまった。時々こうしたところに買い物にくると、ヒギンズ教授の十番煎じを見かけることがあって正直気分が悪い。赤面したお嬢さんを気の毒に思いつつ、外野が口を出してもなと踵を返し、素敵さが褪せたライダースを横目に店を後にした。
7軒目に向かう途中、ちょっとお腹が空いたので夫にチョコレートを買ってきていい?と聞くと「じゃあ俺も」と人混みの中に消えていった。お腹が空いていたのかなと思いつつ、買ってきた板チョコを一欠片だけ口に放り込むと、後ろから夫の「お待たせ」という声が聞こえた。両手にはフレッシュジュースがあり、「シャインマスカットとピンクグレープフルーツどっちがいい?」と言われて「シャインマスカット」と間髪入れず返すと「だと思った」と微笑まれる。嬉しい気持ちとこれ以上甘やかさないで欲しいという気持ちが一瞬拮抗する。
糖分を摂取して機嫌も良くなってきたので、手を洗って消毒をして7軒目のお店に入ろうとする。しかし店内の圧が他のテナントよりも圧倒的に強く、思わず怯んでお店の前を通り過ぎようとしてしまった。夫に「後生だから先に入ってよ」と懇願し、親鳥の後をついていく雛鳥よろしくひょこひょこついていく。店内に入ってみればそれほど緊張感もなく、何より「これだ!」と思えるライダースがどのお店よりも多かった。久しぶりに値段と関係なく「これが欲しい」という状態になっている自分に気がついて高揚する。声をかけてくれた柔和な店員さんが好きに着てくれと言うので、遠慮なく自分が強烈に惹かれた一着を出してもらい、試着をすることにした。
袖を通した瞬間「これ買います」と口から言葉が漏れていた。横で夫がくつくつと笑う声が聞こえる。きちんと肉厚で重くて、クラシックな作りのライダース。表面はザラザラとした革の風合いが残っており、着ると暖かくレザー独特の匂いがある。自分の身体の一部の様な荒々しくも美しい一着。やっと見つかった!という気持ちだった。このライダースは一生着れますよと店員さんに言われ、今後の人生の傍にこの服がある未来を想像して嬉しくなる。
思えばファストファッション以外で服を買うなんて何年振りだろう。学生の頃から今日までずっと倹約していたこともあって、何年か振りに服飾費へお金を使っている状況に胸がいっぱいになるような感覚を覚えた。一度倹約すると中々支出しても良いと思えるラインが元に戻らない。以前よりも買うことに対してシビアになってしまった自分が、またこうした買い物をできるとは思っていなかったので素直に嬉しかった。仕事を頑張って良かったと思う気持ちと、ストレスが溜まっていたんだなという視点と、仕事を頑張ろうという気持ちがさざ波のように寄せては返してゆく。
帰り道、夫が「楽しかった!」と言うので「今日は私の買い物に付き合わせてごめんね、ありがとう」と言うと「いや、本当に楽しかったんだよ」と微笑まれて何も言えなくなってしまった。こういった返しをさらりとできる夫を心底得難い人だと思う。
とうとう手に入れた、私だけのライダース。これから少しずつ自分に馴染んでいく過程がすでに楽しみで仕方ない。いつかまた運命の一着に出会った時に、きちんと捕まえられるよう働いていこうと思いながら。

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家で何度も着ては夫に似合うと言わせている